表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永田町へ行ってきます ~いろいろありまして、次の職場は国会議事堂に決まりました~  作者: のらりくらり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/41

第39話 静かな火蓋

ついに、明日でここともお別れか。


茂木が田舎に戻って3ヶ月が過ぎた。


相も変わらず縮まることのない同期達との格差に絶望しっぱなしの日々を過ごしていたが、歯を食いしばり、端っこを歩きながら何とかここまでやって来た。


「俺、やっぱり、外資に戻るわ。そっちの方が稼ぎもいいし、第一、あの世界、知れば知るほどいろいろ面倒で俺の性には合わないわ」


「同感。下手に政財界に進むより起業した方が自由度が高くていいもんな」


「それ。それ。天下取れるかわからないのに、いい歳して1年生からスタートなんて時間の無駄遣いでしかないもんな」


「だよな」


この日、最後のディスカッションが終わったところで同期の大半が進路先の変更についてあれこれ語っていた。


世の中には方向転換したくても出来ない人間もいるんだぞ。


でも、勉強が得意ってだけで人生の選択肢の幅が広がるのは正直羨ましいな。


さてと、そろそろ行きますか。


教室を出た功は、最後のお勤め(アルバイト)に向かった。


「今すぐ、私の部屋に来るように」


「はい」


先月の下旬。都議会議員時代から懇意にしていた与党の議員から今年の秋頃に総選挙が行われるとの情報を得ていた玉木は、議員宿舎で第一政策秘書と打ち合わせをしていた。


これまで、国政選挙には3回出馬して3回とも勝っている。地方議員時代を含めると5連勝中だ。とはいえ、ここまで楽勝だった選挙は1度もなかった。


特に初めての国政選挙は、無所属での出馬だったので勝算は限りなくゼロに近かった。


ところが、ここで、神、いや、悪魔は玉木に2度も微笑んだ。


1度目は、当時、トップ当選確実と言われていた候補者が、出馬届を出す直前に急性心不全で倒れたのだ。幸い、発見が早くその候補者は一命を取り留めたのだが、健康を理由にそのまま政界を引退することになった。


2度目は、その候補者の対抗馬だと目されていた候補者が選挙戦の中盤で交通事故に遭い出馬を断念したのだ。


神風ならぬ疫病神風。国会にふさわしくない男。奇跡だけの男。


初当選直後。幼少時から玉木の素行の悪さを知っている出馬先の地元民達から口々にそんな陰口を叩かれていた。


それから半年後。玉木は、お得意のゴマすりで時の大物議員に取り入って与党に入党した。


もし、このバッチをつけられなくなったら俺の人生はそこで終了だ。


当選回数を重ねるにつれ、玉木は国会議員という身分の魔力に取りつかれていた。


「お疲れ様です。お先に失礼します」


「あぁ。お疲れ様」


卒塾して2ヶ月ほど経ったある日の夕方。


2日前の夜、武藤からラインをもらった功は、掛け持ちでやっているアルバイトが終わるとスマホに送られてきた地図を見ながら武藤が待つ建物を探していた。


ここで、間違いないよな?


功の目の前にあったのは、ビルでもマンションでもなく一軒家だった。


じろじろ見ていると不審者だと思われて通報されそうだから、取り合えず、押してみるか。


「ごめんください。立花です」


玄関横にあったインターフォンのボタンを押すとすぐに応答があった。


「開いていますのでそのまま中へどうぞ」


功は、恐る恐る玄関のドアを開けて中へ入った。


「お久しぶりです。立花さん。急な連絡で申し訳ありません。さぁ。どうぞ」


玄関先に現れた武藤は、満面の笑みで功をリビングまで案内してくれた。


「立花さん。お好きな方をどうぞ」


リビングに入るとテーブルの上に2つカップが用意されていた。功から向かって右側がコーヒーで左側がお茶だった。


ソファーに腰を下ろした功は、迷わずコーヒーを選んだ。


「ところで、今日は」


功が切り出した時だった。


ブーブーブーというスマホの振動音が聞こえた。


「すいません。ちょっと、失礼します」


武藤が席を離れた。


これって、自宅?それとも事務所?


手持ち無沙汰だった功は、コーヒーを飲みながらそれとなく家の中を観察していた。


「すいません。村野さんからの電話でした」


武藤は言いながらソファーに腰掛けて日本茶が入っていたカップに手を伸ばした。


「えっ。武藤さんって塾長とお知り合いだったんですか?」


「あれ、言ってませんでしたっけ?昔、顧問弁護士をしていた時期がありました。でも、1年だけでしたけどね」


弁護士に守秘義務があることは知っていた。だから、それ以上、深くは詮索しなかったが、顧問契約をしていない今でもこうやって連絡を取り合う間柄というのはそれだけ信頼関係が築けているのだろう。


「立花さん。じつは私、この度、選挙プランナーとして独立しました。私にあなたの選挙のお手伝いをさせてください」


私塾での講義で公職選挙法の複雑さ、難しさを理解していた功にとって、武藤からの申し出は涙が出るほどありがたい言葉だった。


「気持ちは嬉しいけど、いつ、行われるかわからない選挙の準備を今からやるのって早過ぎないですか?」


「そのことなんですが、先日、大学時代の友人で議員秘書をやっているやつから今年の秋頃、つまり、半年後に総選挙が行われる可能性があると聞きました。因みにそいつは、与野党どっちの人間にも顔の利くやつなのでまず間違いと思います」


「わかりました。ですが、今は仕事を掛け持ちしてやっと生活できている状況です。選挙に出るとなるとそれなりにお金も必要だし、それに向けての準備もありますから家族と相談してから決めます」

「そうですか。わかりました」


早めに準備して損することはないもんな。


突然のことで、つい、逃げ腰発言になってしまったが、家に着く頃には気持ちは出馬へと傾いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ