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永田町へ行ってきます ~いろいろありまして、次の職場は国会議事堂に決まりました~  作者: のらりくらり


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第33話 戦略と戦術

由紀子と泉の2大外圧に屈してスタートした(させられた?)受験勉強だったが、1週間も続けていると自分なりのリズムが確立され、やらずにはいられない状態に変わっていた。


とはいえ、36歳の錆びついた脳に知識をインプットするのはかなりの苦痛が伴った。それだけでも大変なのに、さらにここからアウトプット、つまり、点に結び付ける作業は、想像を超える所業だった。


家庭教師気取りの由紀子と大番頭気取りの泉には言えなかったが、あまりの大変さにすべてを投げ出して楽になりたいと思った日もあった。


それでも、挫折しないでなんとか続けてこられたのは、年度末にある人物からもらった1本の電話のおかげだ。


さぁ。今日も一丁やりますか。


3月下旬のある日の朝。勤め先から来年度に繰り越せない分の有給を消化するように言われた功は、翌日から有給消化に入り、朝から晩まで勉強三昧の日々を送ってやるつもりでいた。


だが、36歳の心身はどこまでも正直だった。


自分では根を詰めて勉強していたつもりだったが、がり勉になろうとすればするほど能率も効率も悪くなっているように思えた。


実際、由紀子からも「別に学者になるわけじゃないんだから。必要な時に必要なことを必要な分だけやっていればあとはどんなに休んでも酒を飲んでいても問題ない」と言われたので、その日の体調や疲れ具合を考えて適度に切り上げたり、必要以上に休んだりして調整した。


こうして迎えた有給消化最後の日。


うっ……眠い……猛烈に眠い……。


午前10時を少し回った時だった。前日までのスケジュールの遅れを取り戻すべく、朝食後から机にへばり付いていた功は、これまで蓄積されていた脳の疲れが一気に出てしまい、仕方なく勉強を中断した。


スマホが鳴ったのは、ちょうど、その時だった。


<もしもし。お久しぶりです。今井です。今、お仕事中ですか?>


<有給消化中で休みだよ。元気そうだね>


<はい。おかげさまで。それに、明日からアルバイトですけど働くことも決まりました>


<そうなの。よかったね>


今井には申し訳ないが、これ以上、話を続けると午後からの勉強に影響するとの思いから敢えて淡白に答えた。


今井の方もなんとなくそんな空気を察していたのだろう。


<立花さん。僕、今はこんな状態ですが、きっと、乗り越えて見せますよ。もし、正社員になったら飲みに行きましょうね>


<うん>


久しぶりの会話は、3分足らずで終わった。


事情はどうであれ今井の取った行動は幼稚だった。一歩間違えたら取り返しのつかないことになっていただろう。


それでも捨て身で立ち向かった今井より加害者、いや、悪の権化の玉木が国会議員としてのうのうと生きているこの現実はやっぱりおかしい。


短い時間ではあったが、今井とのやり取りは、功に今やっていることの目的を思い起こさせてくれた。


あー。もう。わからん。俺、文系なのになんで来る日も来る日も理系の勉強ばっかりなんだよ。


3月の勉強開始から4ヶ月が過ぎた。受験生なら誰もがギアを上げる段階で、功の脳ミソは悲鳴を上げてパンクした。


ところが、それもすべて由紀子の計算だった。


あっ。姉ちゃんからだ。


7月下旬のある日の夕方。


風呂から上がった功がスマホを確認すると、画面に由紀子から3件の着信履歴が入っていた。


こんな短時間に3回も電話って、ひょっとして、両親になにかあったのか?


功は、すぐに着信履歴の番号を押した。


「姉ちゃん。功だけど」


「あんた。今、煮詰まっているでしょ?」


電話に出るなり由紀子は、おちょくるように言った。


「あのさぁ……」


功が、不満の色を隠さない口調でいうと由紀子は「あんたの言いたいことはわかっている。だから、皆まで言うな。そんなことより、1つ確認したいことがある」


「確認って?」


「あの。『村野政経塾』の入塾条件って確か、最終学歴は大卒(出来れば国立大学)か同等の学力を証明できる者でいいのよね?」


「そうだよ」


「そしたら、学部はどこでもいいのよね?地方の国立大学の夜間部でもいいってことよね?」


そっか。その手があったか。


何故、由紀子は理系の勉強を中心にスケジュールを組んでいたのか。


何故、必要なことを必要な分だけ必要な時までやればいいと口酸っぱく言っていたのか。


由紀子は、最初から競争倍率が低い地方国立の理系学部にギリチョンで合格させることを狙っていたのだ。


「姉ちゃん。ありがとう」


「礼は受かってから言え。でも、地方国立の夜間部とはいえ国立大は国立大よ。現役の学生とか浪人生とか社会人とか関係なく本当に優秀な人間しか受からないようになっているから、それだけは忘れないで」


8月、9月、10月、11月、12月と功は、勢いのある現役学生や受験に免疫がある浪人生には遠く及ばないながらも自分なりに1段、また、1段とギアを加速させていった。


我ながらよくやったな。


翌年1月。辛くもセンター入試の足切りラインを超えた功は、そこからさらにもう1段ギアを上げ翌月に行われる2次試験に向けて最後の追い込みをかけた。


そろそろ時間だな。


合格発表当日の午前10時。


「すみません。ちょっと、トイレに行きたいので離れます」


「わかった」


功は、同僚に一声かけて持ち場を離れた。


どうか。どうか。受かっていますように。


トイレの個室に入った功は、気持ちを落ち着けるため、レバーを引き水を流した。


水流音が消えたところで、祈るような気持ちでスマホを操作して自分の番号を探した。


あっ、あった……。


うっ、嬉しい……。


約1年に及んだ受験戦争は、功に自信という何物にも代えがたい財産をもたらしてくれた。


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