第31話 餅は餅屋
政治家、いや、人間って身の保身のためならここまで残虐になれるのか。こんなことが平気でまかり通るなんて絶対におかしい。
今井の悲惨な現状を知った日から功は、そんなことばかり考えるようになっていた。
だが、どんなに考えたところでこの現状を変える具体的な解決策はもちろんヒントの糸口すら掴めないまま時間だけが流れていた。
「あなた。義理兄さんが来たみたいよ」
「わかった」
月が替わって2月になった。先月の下旬、新平から仕事中の怪我で入院している孝之のお見舞いに行こうと誘われていた功は、軽く身なりのチェックをして玄関を出た。
えっ……。
表に出た功は、思わず我が目を疑った。
自分から誘っておきながらゼニ取る気かよ。現役時代の変化球よりえげつないことしやがる。
新平は、自家用車ではなく勤務先のタクシーで来ていた。
「この度は当社のタクシーをご利用いただき誠にありがとうございます」
功に駆け寄った新平は、腰に手を回すと半ば強引に後部座席までエスコートした。
「まぁ。その、なんだ。つまり、組織に馴染めなかったっていうだけのことだ」
現役時代の裏話。打診されていたフロント入りを辞退した理由。セカンドキャリアにタクシーの運転手を選んだきっかけ等々。
病院に着くまでの車中、新平は聞きもしないのに気持ちよさそうに自らの半生を語っていた。
もし、ここに今井が座っていたら涎を垂らしながら相槌をうっていたに違いない。
「いけねぇ。もう、こんな時間かよ。俺達も帰るとするか」
「そうだね。兄ちゃん」
「2人とも忙しいのにありがとうね」
「気を付けて帰れよ」
面会時間ギリギリまで両親と話し込んだ新平と功は、揃って病室を出た。
「功。今日のお前、なんか変だぞ」
帰りの車中。新平が唐突に訊いてきた。
「別に変じゃないよ」
功は否定したが、新平は譲らずこう続けた。
「どんな悩みか心配事かわからんけど、見舞う側の負のオーラっていうのは必ず相手に伝わるからな」
俺ってそんなに感じ悪かった?
新平からの苦言を素直に受け止めた功は、モヤモヤの根源となった今井とのやり取りについて話した。
「兄ちゃん、これって、許されていいわけがないよね?」
一通り話したあとで功は訴えるよう新平に訊いた。
どんなにえげつないことをしても同じ血を分けた兄弟だ。
新平ならきっとわかってくれる。そう信じていた。
だが、新平の反応は意外にも冷たいものだった。
「話はわかった。それで、お前はなにをどうしたいわけ?ここまで喋って何も考えていませんは通らんぞ」
「うん。一応、考えていることはあるんだ。だから、言っても笑わないって約束してくれる?」
「人の考え方に面と向かってケチをつけるほど俺は偉くないよ。ていうか、そろそろ、着くからもったい
ぶらずにさっさと話せ」
新平の脅迫に近い促しに心を決めた功は、スーッと大きく息を吸ったあとで胸の中に温めていた思いを一気に吐き出した。
「真面目に働く人間が馬鹿を見ない世の中を作りたい」
言っちゃった。やっぱり、頭おかしいやつって思われたかな?
功は新平の反応が気になってしかたなかった。
「法律を変えてまともな人間が幸せになる世の中を作りたい。つまりはそういうことか?いいじゃん。そういう単純、いや、シンプルな思考って俺は好きだな。でも、あいにく、俺は法学部出身だけど野球ばかりしていてそういうのに詳しくないから力にはなれないよ。すまんな」
新平は笑いながら言っていたが、功にはここまでのやり取りで十分すぎるくらいのヒントを得ていた。
「あのぅ。夜分遅くにすみません。立花です。折り入ってご相談したいことがありまして……」
孝之のお見舞いから1週間が経った。功は、自分がこれからやろうとしていることが果たして現実的なのかどうなのかを確かめるため、ある人物に連絡した。




