第3章 『捨てる神あれば拾う神あり』
第26話 機械人間
「それじゃ、勤務は来月の1日からということでよろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございます。そっちの方がうちとしても給料の計算がしやすいので助かりますよ」
退職から5日後。功は、あっさり次の仕事を決めた。
介護職って世間じゃ底辺とかボロクソ言われているけど、8年も続けていたらそれなりに評価してくれるところもあるんだな。やっぱり、職歴って大事だね。
若さと勢いしかなかった前回と違って今回の転職活動は、職歴と資格が予想以上に面接官の心証を良くしたのだろう。
面接したすべての会社(といっても3社だけだが)から<うちに来ませんか?>と声を掛けられた。
「あなた。私、今からスーパーに行くから里佳子と一緒にお留守番お願いね。あっ。そうだ。帰りにクリーニング店に寄ってこの前、出したスーツ取って来るわね。だから、ちょっと、遅くなるかも」
「うん。わかった」
初出勤日の前日。功は、学校から帰った里佳子と一緒にドラマの再放送を観ていた。
「お父さん。お母さんから聞いたけど明日から新しいお仕事に行くの?」
ドラマが終わると、里佳子が唐突に口を開いた。
「そうだよ」
「私、4年生だけど、お父さんは1年生だね」
お父さんは1年生って上手いこと言うなぁ。
里佳子の言葉に功は、心の中で座布団を運んでいた。
「本日よりお世話になる立花功です。業界未経験者ですが、何卒よろしくお願いします」
翌日。新しい職場に顔を出した功は、朝礼で元気よく挨拶した。
今度の仕事は、ビル清掃会社の派遣社員だ。
<スタートは派遣社員ですが、働き次第では正社員登用もあるからね>
面接の際、人事の担当者はそう言っていたが、同僚の社員達曰く、それは限りなくゼロに近い確率で大半は派遣社員のままらしい。
「お疲れ様です」
「おぅ。お疲れ」
今の職場は、基本的には残業なし。土日祝祭日は休み。もちろん、夜勤もない。
不安定な身分と給料の安さに不満がないわけではないが、『双葉』時代のシフトを思えばそんなことは大した問題ではなかった。
いつまでこの働き方を続けられるかわからないけど、要らないって言われるその日まではやってやる。
健全な肉体に健全な精神は宿る。
地道に続けていた散歩と筋トレ運動は、肉体のみならず精神面の方にも好影響をもたらしていた。




