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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
辺境領主の召喚術士、未来のために奮闘する

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274 氷縛の貴公子

「コホッ、ゲホッ……、わ……悪かった。反省した。大自然、激ヤベェな……」

 

 激しい揺れが奏でる不穏な物音に重なって、(いま)だに立ち上がれないクロウの苦し気な声が聞こえてくる。

 

 分かり易く激昂(げっこう)する風精霊(フィーリア)の姿に、なんとなく悪ノリしてる雰囲気を感じたので、白兎獣人(ピョンコ)が慌てて止めに入るを微笑ましく思いながら見守ってたけど……

 息の根を止めるつもりはなかったにしても、よほど我慢ならなかったんだろう。ここまで(むご)い仕置きになるとは思わなかった。


 この、初対面で風精霊(フィーリア)を激怒させるという偉業を成し遂げた赤髪の男は、旅人に(ふん)した特命官だったりする。

 病床のマリーたちに代わって派遣された宮廷魔導術士で、氷縛(ひょうばく)の貴公子などと呼ばれるクールな美青年だ。

 ……なんてことを妻や妹(みんな)から聞いてたけど、実際に会ってみると別人かと思うほど印象が違っていた。


 たしかに顔立ちは整っている。

 だけど、特徴的な大きな目や小ぶりな鼻は、美青年っていうよりも愛嬌があるって印象が強く、口数が多くて行動的な姿はクールっぽさの欠片(かけら)もない。

 背丈も俺と変わらない(ほど)なので……自分で言うのもなんだけど、お世辞にも見栄えがいいとは言えない。

 でもまあ、特命官だけに、変装でもしていくつもの顔を使い分けてるのだろう。

 

 特命官とは、国王直属特別任命官という正式名称の示す通り、国王から任命される特別任務を請け負う者たちのことで、騎士と術士に大きく分けられる。

 聖法騎士、近衛騎士、守護騎士など……騎士の特命官は、王国騎士や兵士を率いて戦ったり、表舞台で華々しく活躍する任務が多く、名誉あるお役目だからと素性を明らかにする者が多い。

 一方、宮廷聖法術士、宮廷魔導術士、宮廷精霊術士、宮廷召喚術士など……術士の特命官は潜入捜査や裏方の任務が多く、あまり目立つと任務に支障をきたすからと、ほぼ全ての者が素性を隠している。

 それだけに、術士同士の場合、相手が特命官だと気付かないまま一緒に任務をこなしてたってことが、当たり前のように起こるらしい。


 一部、水雷の女神マリーや災厄の魔女ウィッチのように、魔物討伐などで派手な活躍をする術士の特命官がいるけど、その場合でも、その正体が王女やアキュート伯爵だってことは厳重に伏せられている。

 一方、聖法騎士のガイゼル閣下は、グルーモア伯爵令嬢にして王女の幼馴染で、努力と実績を積み上げて王女の騎士にまで上り詰めたと広く知られている。

 その名声は、実家であるグルーモア家にも恩恵をもらたらしてるとか……

 

 余談だけど、ガイゼル閣下の物語には新たな逸話(エピソード)が加えられ、王女が英雄に(とつ)(くだり)では、自身も英雄に(とつ)ぐことで「生涯を王女に捧げると誓った」ってことにされ、ますます人気を(はく)してるという。


 この三人の特命官は、非公式ながらも第三王女直属特別任命官ってことになっていた。そこに俺たち、漆黒の召喚術士マスターブラックと紅玉の聖法騎士ディアが加えられたけど、王女が王籍を離脱したことで組織は解散となり、この五人の特命官は国王直属に戻っている。


 そういえば特命官になりたての頃、俺の自覚が足りなかったせいで、漆黒の召喚術士(マスターブラック)の正体は俺じゃないかって噂になったことがあった。

 その時は、ディアーナが漆黒の召喚術士(マスターブラック)に化けて俺と共闘を(よそお)い、両者が握手をするという演出までして全力で誤魔化した。

 俺が王都を去った後も、ディアーナ(ふん)する漆黒の召喚術士(マスターブラック)や彼が召喚する七人の召喚(びと)──いつの間にか、七彩色(しちさいしき)の守護者セブンガーディアンズなどと呼ばれている──が、王都で活躍し続けたことで、疑惑は完全に払拭(ふっしょく)された。

 だからまあ大丈夫だとは思ってたけど、さすがにクロウとの初対面は緊張した。


 俺はリーフォニア領主として、クロウは王宮から派遣された王国魔導術士として挨拶を交わした。その時の態度や、その後の様子を見るに、俺が特命官だとは全く思ってないようだ。

 まあ、バレたところで黙っててもらえばいいだけの話だし、クロウも同じ立場だけにその辺りは心得てるはずだろうけど。

 ちなみに俺がクロウのことを知ってるのは、いつものように妹たちが自主的に調べたからで、その評価は「合格」というもの。

 さすがにその素性までは教えてもらってないけど、マリーたちの代わりに派遣されるような特命官だけに、かなり優秀な術士らしい。

 となれば、心配すべきは俺のほうだ。


 俺の役割は、島で発見された帝国の拠点(アジト)に、王国兵を案内すること。だけど……

 リーフォニア伯爵が王国兵の案内を兼ねてワルトクラム島の視察に向かったところ、たまたま帝国の拠点(アジト)を発見し、そこで飼育されていたゲヌマの魔物と戦闘になるも、王国兵の活躍によって見事討伐された。

 ……っていう筋書き(シナリオ)が、王宮によって用意されている。


 どうやら王宮は、王国兵の駐屯(ちゅうとん)を不安に思う領主たちに向けて、ひと芝居を打つつもりらしい。

 メイプル(いわ)く、王宮の要請を受け入れたリーフォニア伯爵の判断は正しかったのだと主張(アピール)することで、王宮の権威を高めるとか、王国兵の駐屯(ちゅうとん)を正当化するとか……

 ともかく、その筋書き(シナリオ)を成功させるには、俺の演技力が重要になってくる。

 

「やっぱ英雄って呼ばれる傑物(けつぶつ)は、どっかぶっ飛んでんだな。魔物退治に行こうってのに、随員(ずいいん)が幼い妹と子供バニーメイドだけって。いくら妖精の力が凄いっつっても、これじゃあ面倒が増えるだけだろうに」

 

 俺のことに詳しいのなら、護衛(シア)と召喚獣人の実力も理解してそうなもんだけど、本気で無力な子供たちだと思ってたりしないか心配だ。

 そのことも含めて、クロウにはいろいろと言っておきたいことがある。

 

 この船は、有事の際に軍用船として徴発されるけど、普段は大陸と離島を結ぶ定期船として利用されている。

 今回、領主や王国兵が乗船してるけど、徴発したわけじゃないので一般の客も乗っている。

 そんな場所で迂闊(うかつ)筋書き(シナリオ)を口走らないでほしい。

 もし今回のことが茶番だと露見す(バレ)れば、不都合な(マズイ)ことになる。

 最悪の場合、他の領主や領民たちから「我々を(だま)そうとしたのか」と糾弾(きゅうだん)され、これまで積み重ねてきた信用が一気に瓦解(がかい)しかねない。


 風精霊(フィーリア)のこともそうだ。

 彼女は俺の様子を見に来ただけで同行するとは言っていない。

 だから、戦力としてアテにされても困る。

 そもそも、俺たちは案内役で、戦闘に参加する予定はない。


「……言っておくけど、私は加勢しないわよ」


 クロウの物言いが気に入らなかったのか、再び風精霊(フィーリア)剣呑(けんのん)な気配を立ち昇らせてるけど、それは気付かなかったことにして……


 何よりも俺が気になったのは「子供バニーメイド」って言葉だ。

 言われてみれば、そんな風に見えるけど……

 まさか、俺のことを、召喚した幼い白兎獣人にフリフリメイド服を着せて喜ぶような、そんな人物だと思ってるのだろうか。

 だとしたら、あまりにも心外すぎるし、的外れにもほどがある。


 そもそも、サクヤは召喚体じゃなくて契約精霊だ。

 白兎獣人(ピョンコ)への変身はサクヤ自身が始めたことで、俺は一切関与していない。

 それに、召喚獣人の服装(コスチューム)をフリフリメイド服に決めたのは……誰だったか覚えてないけど、少なくとも俺じゃない。

 そのことをしっかりと分からせてやりたいけど、今の俺にそんな余裕はない。

 なので、任務に支障がないよう、ひと言だけ伝えておく。


「この……三人に(まさ)る……ごえいは、ないよ」


 実際、この三人の目を盗んで俺に危害を加えるのは、ほぼ不可能だろう。

 だから、安心してベッドに()せってられるわけで……


「……にしても、まさか英雄様に、こんな弱点があるとは思わなかったぜ」

「同感……だ。俺自身……おどろい…てる」

 

 もしクロウが英雄というものに強い幻想を抱いてたのなら、この醜態(しゅうたい)を見て、さぞガッカリしただろう。

 

「大事な役目があるってのに、船酔いで使い物にならないってのはシャレにならんからな。ほら、薬だ。さっき、親切な婆さんに貰った(もん)だが、すっごい効き目だぞ」


 紙袋を受け取った白兎獣人(ピョンコ)は、中から小さな紙の包みを取り出すと、軽く振って音を確かめ、スンスンと匂いを()ぐ。


「粉薬ぴょん? クロウ様、感謝するぴょん☆ それではマスター、お水を用意してくるぴょん☆」

「……ああ、頼む」


 白兎獣人(ピョンコ)は紙袋を手にしたまま、上品にお辞儀をして部屋を出ていく。

 その姿をボーっと(なが)めてたら、シアが身体を寄せてきた。


「ハル兄、身体、起こすね」

「……そうだな。そっと…たのむ」


 小さな身体に似合わぬ力強くも安定した力で、優しく抱き起こされていく。

 激しい動きは厳禁だ。ゆっくりと、ゆっくりと、まるで重病人のように扱われながら徐々に姿勢を変えていく。

 ようやくベッドの上に座ると、いつの間にか白兎獣人(ピョンコ)が部屋に戻ってきていた。


「マスター。飲むぴょん☆」


 薬を飲むのもひと苦労だ。こみ上げるモノに(あらが)いながら、まずは水だけを口に含んで、ゆっくりと飲み込んでいく。

 

「島に伝わる特別な秘薬らしい。試してみたら、ほら、この通り」

 

 ついさっきまで「冬の海は荒れやすいって話だが、さすがにこの揺れには参ったな……」なんてボヤいてた男が、笑顔で(おど)けるほどだ。ダメ元でも試す価値はある。

 シアに身体を支えてもらいながら、白兎獣人(ピョンコ)に助けてもらうという情けない姿で、水と一緒に粉薬を喉の奥へと流し込む。

 少し後味が苦いけど、耐えられないってほどじゃない。もうひと口、その苦味を洗い流すように水を飲む。

 

 ふぅ、と小さく息を()いて、再び横になろうとしたけど、不意に揺れが穏やかになったような気がした。

 不思議に思いながらも、今度は自分の力だけで身体を起こす。

 

「なんだこれ? 薬の効果か?」

 

 冗談のように揺れが気にならなくなった。

 ならばと床に立ってみる。

 船の揺れで身体がふらつくものの、気分が悪くなったりはしない。

 しかも、手足から(しび)れが抜け、ちゃんと力が入るし踏ん張れる。

 

「うそだろ……? 島の秘薬、すごいな。あの苦しみは何だったんだ?」

「だろ?」

「クロウ、助かったよ」

「礼なら薬をくれた親切な婆さんに言ってくれ。それよりもだ、この荒波で船が沈まんよう祈るぜ」

「……だな」

 

 物がぶつかり合う音や船体の(きし)む音を聞きながら、ニヤリと笑うクロウにつられて俺も笑顔を浮かべた。


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