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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
田舎の宮廷召喚術士、領主となって奮闘する

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252 恐怖の慈悲

『お兄さま、敵軍が行動を開始しました』


 メイプルから連絡が来る前から、俺も敵の動きを監視していた。


『ああ、こちらでも確認した。やはり、かなり減ってるようだな』

『敵兵は二千五百。うち千は行動不能になっています』

『つまり、商都メルシアに向かったのは千五百ってところか……』


 嫌がらせ三人組……もとい、これが偵察班の成果だった。

 行動を開始した千五百も万全な状態でないのは明らかだ。そちらの対処は商都の兵に任せるとして……

 俺たちは、動けずにいる千の兵士を徹底的に叩くことにした。


『さすがに敵も、もう勝ち目がないって分かってると思うけど、それでも撤退しないのは何か理由でもあるのか? まだ何か、切り札みたいなものがあるとか……』

『帝国の人たちは、逃げ帰ったのが見つかったら処刑されますからね。だから、オーミリカの人たちに何かを吹き込んで、戦いに駆り立てているのかと。それに、もし切り札があるとすればゲヌマの魔物でしょうか』

『でも、連れてきている様子はないけど』

『そうなんですよね。ですから、注意すべきは特殊な能力を持った術士ですね』

『まあ、そんなところだろうな……』


 勝ち目があると思っていなければ、進軍はしないだろう。

 よほどの切り札を持っているのか、それとも、よほど王国の支配が受け入れられないのか……


『ところでメイプル。残ってる敵兵の状況は分かるか?』

『幻覚キノコとしびれ薬を使ったと聞いています。そのせいで、ほとんど動けない状態のようです』

『それでも、このまま戦闘せずに……ってわけにはいかないだろうな』

『多少暗示にかかり易くなっているはずですけど、それは難しいでしょうね。逆に、誰かがお兄さまのことに気付いて敵だと騒いだら、一斉に襲い掛かって来るかもしれません。ですので、気を付けて下さいね』

『それは……恐ろしいな。じゃあ、そろそろ俺たちも作戦位置に移動するよ』

『はい。それでは無事を祈っていますね』


 移動を始めた敵兵たちは、かなり遠ざかった。

 これだけ離れれば、見つかることはないだろう。


 サクヤは移動中の敵を、クロエとディアーナは残留兵の様子を監視している。


「じゃあ、そろそろ行くよ。マリーとメイリアも気を付けて」

「ハルキの方が心配ですけど……。シア、お兄さんを護ってあげて下さいね」

「任せて。シア、ハル兄を護る」

「それじゃ~、さっさと終わらせてぇ、向こうを助けに行くわよ~」

「そうだな。シア、行くぞ」


 みんなで小さくうなづくと、出来るだけ身を隠しながら、それぞれ所定の場所を目指して散って行った。




 曇り空になって少し過ごしやすくなり、山道を歩いてもそれほど汗を掻くことは無かった。

 所定の場所──敵の野営地が見渡せる、ほど近い崖の上で俺とシアは身を隠す。

 ここまで接近しても気付かれないのだから、周囲の監視すらまともに機能していないと考えていいだろう。

 

 メイプルから作戦開始の合図を受け取り、俺は目立つようにマントを翻しながら立ち上がった。

 そして、手にした集音器(マイク)に向かって話しかける。


「なんだ、せっかく出向いてやったのに、まともに動けぬのか?」


 少し離れた場所に設置された二つの拡音器(スピーカー)から、増幅された俺の声が流れ始める。

 マリーとメイリアが設置したものだ。

 敵兵たちは驚いているが、思った以上に動きが鈍い。


「愚かにも王国に反旗を翻した賊どもよ。このハルキが、この場で一掃してくれるわ……と、勇んで参上してみたものの、すでに天罰が下されたようだな……」


 よくやく敵兵たちが、周囲に注意を払い始めた。

 やはり南東地方(オーミリカ)から連れてこられた者たちは、訓練を受けていないようだ。

 幻覚キノコの影響もあるんだろうけど、全く統制がとれていない。それ以上に、注意力が散漫なのが気になる。


「此度の挙兵は、帝国の陰謀によるものなのは明白。このまま愚かなる帝国の企みに踊らされ続けるというのであれば容赦はせぬ。だが、軽挙妄動を反省し、再び王国の臣民として国王に忠誠を誓うのであれば慈悲を与える」


 ようやく敵兵たちが俺の姿を見つけたようだ。

 こちらを指差して何かを言っている。


「死にたくなければこの地を去れ! そのまま、家族のもとへと帰るが良い。ただし、帝国の者と歯向かう者には容赦せぬ。この地に留まるというのなら、一片の慈悲も与えず、バラバラに分解して肥料にしてくれるわ!」


 サッと腕を振り上げつつ、バサッとマントを翻す。

 それを合図に、敵兵の野営地で、轟音と共に雷光が乱れ踊る。

 そんな中、俺に向かって矢を放とうとしていた男が、黒狼(ニック)によって打ち倒された。


 野営地の中心付近で、太い光の柱が立ち昇る。

 その直後、空中に大きく映し出された、女神のような姿をしたディアーナが、シャランとひとつ錫杖を慣らして聖句を唱え始めた。

 その声は、拡音器(スピーカー)らしきものを使っていないのに、離れた場所に居る俺の耳にまで届いて来た。


「天に刃を向ける蛮族どもに告げる! 騒乱を起こし、大地を穢す愚か者どもに、女神の裁きが下るであろう!」


 言葉には感情が込められていないけど、目に見えない圧力が襲って来る。

 上空に「実った稲穂」の聖印が現れ、徐々に輝きを増していく。

 そして、ディアーナは静かに呟いた。


天罰の光(パニッシュメント)


 聖印から光のシャワーが降り注ぐ。

 これは、敵対する者には苦しみを与え、味方には癒しを与える聖法術……だったはず。

 

 いち早く逃げ出した者もいたが、これを合図に敵兵は、苦しみながらも一斉に、南東地方(オーミリカ)に向かって逃走を始めた。

 ふらふらとした危なっかしい足取りで、何もかも打ち捨てたまま、助け合うこともせず我先にと去っていく。

 そんな中、苦悶の表情で地面を転がる者たちが残された。


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