251 ゲリラ無双
我ながら、らしくないことを言ってしまったとは思うけど、シェラのためだけではなく、南海地方や南東地方のためにも、この商都メルシアは、絶対に傷つけさせるわけにはいかなかった。
だから、敵がこの地に来る前に、ゲリラ戦術で敵の数を減らすと決まった。
メルシアには大きく分けて三種類の兵がいる。
フロイス家で抱えている従士たち。自警団に所属する民兵たち。そして、冒険者などを一時的に雇う傭兵たちだ。
従士は三百名ほど。民兵は多くて二千名。動員をかければ倍ぐらいにはなるけど、質が伴わなければ被害を増やすだけになる。
不足する兵は、傭兵を雇うことになるけど、命を捨てる覚悟がある者はほとんどいないだろう。
傭兵たちは優勢であれば勇敢に戦うだろうけど、劣勢になれば逃げ出す者も出てくる。だから、常に優勢だと思わせなければならない。
その為にも、決戦になる前に、できるだけ敵の数を減らしておきたい。
「じゃあ、シェラ、ファル、ちょっと行ってくるよ。商都のほうは任せたよ」
「決して無理はなさらないで。ご無事を祈っております」
「ありがとう。でも、シェラのほうが大変になるかも知れないから、気を付けてね」
「はい」
注目が集まる中で行う出発の挨拶は、セレモニーのようなものだ。
下手なことは言えないし、できるだけ勇ましく、残る兵たちに勇気を与えるような演出をしなければならない。
シェラと握手を交わすと、次はファルだ。
白銀の聖法騎士は、その場にいるだけで兵の士気が上がる。
「ファル、頼んだ」
「安心して任せてくれればいい。援軍が来ると分かっていれば、方法はいくらでもあるからね」
ここでも鋼鉄のハグが行われ……
先にシアを馬に乗せ、その後ろに俺が乗ると、ディアーナが乗る騎馬と並んで、商都メルシアを離れた。
メイプルとは、移動中も情報交換をしている。
報告を受け取るだけって時がほとんどだけど……
サクヤとクロエが偵察してくれたおかげで、敵の陣容はだいたい分かった。
蛮族と言われていたけど、中心となるのは潜入していた帝国兵で、キュリスベル王国に併合されたことを不満に思っている南東地方の者たちを集めて、挙兵したようだ。
そこに、ならず者たちの集団を雇い入れ、この人数に膨れ上がった。
『そういうことですので、狙うべきは帝国兵ですが、警戒が厳重なのは間違いありません。数を減らすのならば、ならず者集団からでしょう』
『まあ、そうなるよな』
正直に言えば、俺が出張るよりも、妹たちだけで動いたほうが効率的だ。
跳躍や幽霊化が使える彼女たちならば、ゲリラ戦で無類の強さを発揮するだろう。
俺はというと、移動ですら妹まかせになっている。
遠目から見たら、俺がシアを乗せて馬を操ってるように見えるが、実際に馬を操っているのはシアで、俺はその後ろに乗せてもらっているだけだ。
もちろん、俺だって訓練をしてるから、馬での移動ぐらいは普通にできる。だけど、人馬一体の動きを見せるシアには到底敵わない。
俺の存在価値はと言えば、帝国から嫌われているという、その一点に尽きる。
自分で言うのも悲しいけど、優秀な囮であり、敵の足並みを崩す切り札になる。
かなり使いどころが難しいけど、メイプルなら上手く使ってくれるはずだ。
『敵の数は三千ほどですから、今夜でどれだけ減らせられるかがカギですね』
『あれ? 五千って言ってなかったか? もしかして、多く見積もってた?』
不覚を取らないために、敵の数を多く見積もることもあるらしいけど……
『当初は五千近くいましたけど、サクヤちゃんが、夜な夜な火災を起こしたり半鐘を鳴らしたりして安眠や休息を妨害した結果、脱走者が続出しているようです。それに、私が作成した怪文書も少しは効果があったのかと』
『……そうか。そんな戦い方もあるんだな』
『今夜はその仕上げですので、クロエちゃんと、ディア姉さまにも手伝ってもらって、薬も使って派手に暴れていただこうと思っています』
『それで敵が撤退してくれれば、楽でいいんだがな……』
『本当に、そうですよね』
遠く離れた地で、俺とメイプルの溜息が重なった。
俺たちは、山の中にある監視小屋に入った。
ここからなら、敵が野営地にするであろう場所が見渡せる。
さっそくディアーナが嫌がらせ担当と化した偵察に加わり、サクヤ、クロエの三人がかりで、夜を待たずして行軍中の敵に何やらいろいろと仕掛けている。
もし実体化したり人型になる必要がある時は、敵に見られてもいいように、いつもの召喚獣人姿──獣耳、獣尻尾、フリフリメイド服、仮面姿になるよう言ってある。
敵にどれだけ浸透しているか分からないけど、もし俺の召喚体たちが現れたと気付けば、それだけでも何らかの効果がある……かも知れない。
たとえば、警戒を強めて疲れてくれれば、それだけでも戦力ダウンになる。
しばらくして、村に避難した輸送班から抜け出したマリーとメイリアが到着した。なので、遅めの昼食を食べることにした。
こんな状況でも、食事は豪華で贅沢なものだった。
中途半端な時間なのに、サンディーがわざわざ料理して、精神収納経由で送ってくれたのだ。
いわばここは戦地の最前線と言ってもいいだろう。そんな場所で、温かいだけではなく、美味しい食事がいただけるのだから、すごく嬉しい。
「本当に、ハルキの妹さんたちは優秀ですわね」
温かいスープを上品にすくいながら、マリーがしみじみと呟く。
「自慢の妹たちですよ。でも、もうマリーやメイリアとも姉妹なんだから、変に気を使う必要はないよ。メイリア、お代わりは?」
「そうねぇ、いただくわ~」
なんとも緊張感がないが、こんな和やかな時間を過ごしながら、明日の決戦に向けて、しっかり食べ、しっかり眠って英気を養った。




