248 平和な旅に駆け込む伝令
十二人とはいっても小柄な者が多いので、頑張って詰めれば、全員で乗れないこともない。
客室に荷物を置かなければ、旅客馬車にはそれだけの容量がある。
だけど、せっかく馬車が二つあるのだから、荷物──飲料水や食料など、旅の必需品は分散しておいたほうがいい。
そうしておけば、もし片方がダメになった時でも、もう片方で旅が続けられる。
それとは真逆の発想で、片側に人を集め、もう一つに荷物を集めておけば、いざという時、荷物を捨てて逃げることができる。
……だけど、精神収納があれば、そもそも馬車に荷物を積み込んでおく必要はない。
精神収納は召喚術士の能力だけど、他の系統にも似たような能力がある。
とはいえ、当たり前のように使ってるから忘れがちだけど、術士の中でも一部の者しか使えない希少な能力らしい。
そんな便利な能力を持っていると悪人に知れたら、身の危険が跳ね上がる。
だけど、それほどの能力を持つ者が弱くて無防備なわけがなく、襲っても返り討ちに遭うのが関の山だ。
俺も負けない自信はあるけど、わざわざ危険を呼び込む必要はない。
だから普段は、魔導袋や魔導鞄を使ってるように装っている。
ほんの僅かな容量のわりに高価だから、それはそれで奪われる危険があるけど、コソ泥程度なら一人で対処できるし、たとえ奪われても中身は空っぽだ。
要するに、このように不特定多数の目がある状況では、そんな便利な能力があるのだとバレない程度に荷物を積んでおく必要があった。
たとえ破棄することになっても惜しくないものばかりだけど、そんなこともあって、俺たちは六人ずつに分かれて馬車に乗っていた。
俺としては女性の方々には、少しでも快適な旅客馬車を使ってもらいたかったけど、領主様を荷馬車に乗せるなどとんでもない……と、ロアとエレオノーラさんから大反発を受けてしまった。
使用人のロアはともかく、エレオノーラさんは賓客扱いなのだから旅客馬車に乗ってもらいたかったけど、姉と一緒の居たいと言われたら反対もできない。
それに、メイリアとシェラも領主だし、ファルとディアーナは聖法騎士、マリーに至っては元王女だ。
なので、戦力バランスを考慮しつつも時々入れ替わったりしながら、思ったよりも快適な旅を楽しんでいた。
旅なら宿場町をもとに旅程を立てるけど、軍隊の場合は野営地候補をもとに行軍予定を立てることになる。
いずれ、リーフォニア領で軍が編成できるようになれば、そういうことを学ぶ必要も出てくるだろう。
安全な水の確保や、食料となる野生生物の分布なども含めて……
ようやくグィルムに入り、この行軍もあと二日ほどで終わる。
もう六日目となると慣れたもので、天幕ぐらいは自分たちでも組み立てられるようになった。
それに、サンディーが料理番に混ざったり、シアやクロエが狩りに同行したり、こっそりサクヤがやって来て俺の護衛をしてくれたりと、妹たちも楽しみながら活躍してくれている。
「お兄さま。何か心配事でもありますか?」
まだ明るいけど、じきに日が暮れ始めるだろう。
まだ設営の作業音が響いているけど、兵士たちの声は元気で楽しそうだ。
それに、移住者たち──解放された奴隷たちも、疲れた様子を見せていない。
横倒しの丸太に布をかけた即席の椅子に腰掛け、そんな光景を眺めながら、和やかな雰囲気を感じ取っていた。
隣に座るメイプルが、いつものように微笑みながら俺を見つめてくる。それを見ると、俺も自然と笑顔になる。
「心配事? 別にないけど、なんで?」
「いえ、なんだか物憂げに見えましたので」
物憂げ……
そんなつもりは全くなかったけど、どこかにそういう気持ちがあったのだろう。
手伝いに出た妹たち以外は、旅の汚れを落としに行っている。
だから近くには、メイプルと幽霊状態になって護衛してくれているサクヤしかいない。
「旅って、なんかもっと緊張感とか悲壮感があったりするはずなんだけど、なんだか楽しいなって思って……」
「はい。楽しいですね。……なのに、そんなお顔をされているのですか?」
「そんなつもりはなかったけど、たぶん帝国や皇国がある限り、この平和も長く続かないんだろうなって……、そういう気持ちが出たんだろうな」
「安心してください。お兄さまは、私たちが絶対に護りますから」
「護られてばっかで情けないけど、頼りにしてるよ。サクヤもな」
何気ないこんな時間も、俺たちにとっては貴重なものだと思える。
ボーっとしているように見えても、頭の中ではいろんなことが渦巻いて、少しずつでも整理しようとしているのだ。
そんな貴重な時間が、馬のいななきから始まる騒ぎで中断された。
「伯爵閣下、お騒がせして申し訳ありません。たった今、メルシアからの伝令と申す者が参りまして、重要にして火急を要す報告があるということですので、できればお立ち合い願えますでしょうか?」
「うむ、了解した。すぐに向かおう」
俺たちは、ただ行軍に同行させてもらってるだけの立場だ。この軍を統括している者は別にいる。
なのになぜか、俺たちがこの軍を率いているかのようになっていた。
まあ、ないがしろにされるよりはマシだから、それはいいとして……
商都メルシアといえば、フロイス子爵領の領主町だ。そこからの伝令ならばシェラにも知らせる必要がある。
「メイプル」
「わかりました、お兄さま」
何事にも手順は必要だ。
立ち上がった俺はサクヤ……ではなく、白兎獣人を呼び出すフリをする。
気合を込めて手のひらを前に突き出し……
「ピョンコよ! 我が呼びかけに応え、姿を現せ! 召喚!」
それっぽく振る舞うと、軽装鎧に仮面をつけたウサ耳少女が現れて、俺の前にひざまずく。
「マスター、お召しにより参上したぴょん☆ 何なりと命令をするぴょん☆」
思わず言葉に詰まる。
なんかもう、白兎獣人の役作りがすごく馴染んていて、感動すら覚える。
未だに恥ずかしがっている黒猫獣人とは対照的だ。
「ピョンコよ、シェラに伝令の件を伝えよ。然る後、速やかに行動を起こせるよう皆にも準備をさせておけ」
「はっ、承知したぴょん☆」
軽く頭を下げると、霞のように消えた。
「メイプルも来てくれ。お前の意見が聞きたい」
「はい、お兄さま」
メイプルに渡されたマントを旅装束に上から装着すると、ヴァサッと翻しながら伝令のもとへと向かった。




