246 帰途の行軍
「なあ、メイプル。何でこうなった?」
いやまあ、こんなことを言ってもしょうがないけど……
それでも、心の整理をつけるためにも、そう問い質す。
それに対するメイプルの答えは、単純明快だった。
「全てはお兄さまのためですよ」
うん、そうだろう。その点は欠片も疑ってないけど……
どうやら質問の意図が正しく伝わらなかったようで、期待していた答えは返ってこなかった。
ようやく王様から……正しくはマリーからだけど、王都を離れる許可が出た。
それに先立って黒猫獣人となったクロエがリーフォニア領で、俺たちを受け入れるための準備を進めていた。
それはいいんだけど……
挨拶回りを終えて王都を出発した俺たちの馬車は、なぜか三千人を超える兵士の行軍に組み込まれていた。
それどころか、こちらには元王女のマリーに加え、白銀の聖法騎士と紅玉の聖法騎士がいることもあり、まるで俺たちが軍を率いているかのようだった。
「……なんで、こうなったんだろうな……」
リーフォニア家の紋章が刻まれた旅客馬車の中から整然と進む行軍を眺めつつ、再び俺は溜息交じりにそう呟いた。
前の時もそうだけど、今回も奇妙なことが起こり過ぎた。
そもそも王都に来たのは、南海地方の有力貴族であるオスディン伯爵とオースワール伯爵に挨拶をし、ミアの店を手伝い、ディッケスでお世話になった元領主代行のグレン・ネガーさん、改め、ギルバード・ベルゲンさんに挨拶をするためだった。
そのついでに、商業組合の用事や、もし領主や特命官としての用事があるのなら、それらもまとめて終わらせておこうと思っていた。
ミアの店──アクアマリン服飾店は無事にオープンを果たし、毎日のように混雑するほどの人気で、上々の滑り出しを見せている。
それに、キッシュモンド商会も順調らしい。
それは良かったんだけど……
ギルバードさんと会った時に、ベルエム商会のことに詳しいという彼の主、カルミ子爵と面会することになった。
そこで俺の出自に関する情報を得て、成り行きで子爵の病気を(女神の奇跡として)癒した結果、ウォーレン家はカルミ家の後援を受ける事になった。
それとは別件だけど、冒険者組合のキャロル姉妹から繋がった縁で雷聖フィリー様と知り合い、ニーバス伯爵家も後援に加わった。
肝心のオスディン伯とオースワール伯だけど……
なぜか、両伯爵の悪事を暴いて捕縛するって結果に。
そのついでに、俺と漆黒の召喚術士マスターブラックは別人だっていう印象操作を試みたけど、まあその話は別として……
この功績で俺は、ユーカティア三等勲章、リーフォニアの家名と伯爵位、それに伴う領地の加増を拝領した。
しかも、王女を含む四人との結婚を王族の方々に祝福していただき、ロアとの関係までもを認めてもらった。
ここまで来ると、もう自分でも何を言っているのか分からなくなるけど……
さらにそこに、王都周辺に巣食う帝国組織の壊滅と、皇国の手先であるオース教の悪事を暴いた功績が加わる。
その余波で、開放された奴隷たちの一部を、リーフォニア領で受け入れることになった……
波乱万丈にも程があるが、そんな経緯を経て、この行軍に参加している。
その理由なんだけど……
リーフォニア領へと向かう俺たちの人数が膨れ上がり、自分と五人の妹、四人の嫁、ロアとエレオノーラさん。これだけで十二人。そこに王都で採用した配下と、解放した奴隷が加わって、総勢百名近くになってしまった。
そこに南海地方の領主たち──ルベール子爵家、ギルグラッド男爵家、グリム男爵家の者たちや、南東地方で領主代行として赴任する貴族たち御一行も加わっているので、食料や旅の荷物を運ぶだけでも大仕事になる。
そこで、兵士の行軍に組み込んでもらい、その辺りの手間──炊き出しや荷物の管理などを請け負ってもらっている。
兵士といっても徴募兵ではなく訓練を受けた正規兵なので、俺たちに絡んでくるといったトラブルもなく、賓客扱いをされながらの行軍となる。
「何の訓練を受けてない百人で移動することを考えたら、こうして護ってもらえるのはすっごく助かるけど、やっぱ三千人ともなると物々しいな。しかも、王国と王家の旗印に、リーフォニア家の紋章まで掲げられてるし……」
「王宮の配慮と、兵士の皆さんの寛容さに感謝ですね」
そうなるように仕向けたであろうメイプルが、そんなことをシレっと口にする。
とはいえ、これ以上安全で確実な旅はない。
ちなみにこの軍勢は、治安維持任務で派遣された兵士たちだ。
大半は南東地方へと向かうので、この大行列とは南海地方のグィルムで分かれることになる。
その先は、俺たち百人に二百人ほどの兵士が同行し、ディッケスを目指しながらそれぞれの任地へと散っていくことになる。
その肩慣らしというか、まずは傍都ベルの近くで野営することになった。
まだ日は高いけど、初日だけに綿密に確認を行うようだ。
それをよそに俺たちは、予定通り荷馬車に乗って傍都ベルへと向かった。
この馬車は、ディッケスから王都へ向かう時にも乗っていた当家所有の荷馬車で、積載能力が高く、それでいて乗り心地も快適という優れものだ。
サンディーが御者を務め、俺とシア、メイプル、マリーとファルを乗せて、傍都ベルの門をくぐる。
王都から近いとはいえ、そこそこな量の輸送を請け負った。
「こっちはやっておくから、みんなは行ってきていいよ」
「そうだな……。じゃあ、ちょっと行ってくる」
荷物の受け渡しをサンディーに任せ、残る五人でノスフィアベル浄楽園と名付けられた、新たな施設へと向かった。




