カメレオンカルアの口撃
カメレオンカルアとしても、一気に三人もの魔法少女が出てくることは想定外だっただろう。明らかに動揺しているのが窺い知れる。
「へ~いへいへい、ピッチャービビってる」
「エメラルド、ゲートボールやってるんじゃない」
「いや、ベースボールでしょ」
「知ってた。わざと」
「そう。お姉さん、突っ込んで損したわ」
「てめえら、俺を無視しておしゃべりしてんじゃねえ」
堂々とおちょくられて黙っている道義はない。いきりたって舌による先制攻撃を仕掛ける。
単純な打撃に対応できないほど魔法少女は軟弱ではない。しなりながら来襲する舌を躱すと、
「冷結微笑」
サファイアは氷の魔法で相手の足もとを固める。発動が成功したということは、魔法耐性が異様に高い相手ではなさそうだ。
「ナイスだよ、サファイア。吹きすさぶ暴風よ! 刃となりて一閃せよ! 蒼天空牙」
すかさずエメラルドがアホ毛カッターを生成して追撃する。腕をクロスして防御を試みるが、柔肌には十分な痛手となっているようだ。
更に、エメラルドはグラウンドに転がっていた石ころを手に取り、コイントスの要領で弾き飛ばす。
「無機なる偶像よ! 恵みの息吹に依りて躍動せよ! 動神降臨」
「オラオラオラ! またまた出てきてやったぜ、覚悟しとけよ、オラァ!」
相変わらずテンションが高いロックマンだ。不規則に飛び跳ねながらカメレオンカルアに体当たり攻撃を仕掛ける。エメラルドとトパーズの猛攻に早くも討伐寸前だ。三対一では圧倒的だったかな。
ただ、カメレオンカルアも黙ってやられているわけではなかった。下半身の動きを封じられたとしても、攻撃できないというわけではない。
「黙っていれば、粋がるなよ小娘どもが。蠢く饒舌よ! 茨の如き熾烈を与えよ! 口舌尽難」
さっきの魔法だ。攻撃の間隙を潜り抜け、サファイアへと舌を差し向ける。凍結魔法の維持に躍起になっていたサファイアは回避が遅れてしまった。
舌による一撃がヒットする。かと思ったが、舌は彼女の周りを漂い、必要以上に接近する様子はない。先ほどもそうだが、単なる直接攻撃ではないのか。
しばらくして舌が引っこんでいくが、同時にカメレオンカルアの氷が解除されてしまった。身動きがとれるようになった怪物はブレイクダンスもかくやという勢いでアホ毛カッターとロックマンを跳ね返す。
「ちょっと、あいつの動きを止めててよ」
「サボってはダメ」
エメラルドとトパーズに諌められるが、サファイアに反応はない。それどころか、四つん這いになって項垂れている。一体何をされたんだ。
「そんな……チーちゃんが私の事をうざいと思ってたなんて」
カメレオンカルアの魔法を受けてから、同じようなことを呟いている。不審に思ったエメラルドとトパーズが彼女の周りを囲んだ。しかし、その一瞬が怪物の狙いだった。
「一緒くたになってくれて好都合だぜ。口舌尽難」
二人へと舌が差し向けられる。今度もまた周囲を漂ったまま攻撃しようとしない。それにも関わらず、二人の顔色が一変していく。やがて、舌が元通りになると、エメラルドとトパーズもまた落胆してしまっていた。
「華怜よりもチビって、ずっと牛乳飲んできたのに」
「最近太ったは言わない約束」
さっきから遺恨めいたことを呟いている。一体カメレオンカルアに何をされたんだ。
「そろそろ種明かしをしてやろうか。俺の魔法口舌尽難は相手の心を探り、最も気にしていることを囁く。言葉の暴力は時に腕っぷしの暴力よりも苛烈ってわけさ」
つまり、相手にとって最も効果的な悪口を言う魔法なのか。いくら肉体を鍛えようとも、精神的に攻撃されては意味がない。まさか、こんな離れ業で魔法少女三人の動きを封じるなんて。
魔法少女が戦闘不能になったことで、形勢は一気に逆転された。仲間の体たらくに、華怜はポケットの中の宝石に手を伸ばそうとしている。それだけはダメだ。みんなを救うためとはいえ、ここで変身しては正体を晒すことになる。
ならば、ボクが行くしかない。正直、ダイヤモンドの力でも精神攻撃を防げるかどうかなんて分からない。でも、やるしかないんだ。覚悟を決め、ボクはダイヤモンドを掲げる。まさにその時であった。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ!」
どこかで聞いた名乗り口上だ。脇に電脳人間タックルでも居そうである。どこから声を発しているんだ。首を動かしていると、「あそこだ」と生徒の一人が指差した。
体育倉庫の上でマントをたなびかせ、腕組みをしている。着用しているのは黒い紳士服。俗にいうタキシードというやつか。高所で佇むタキシード男という時点で十分変人ではあった。
だが、そいつが変人であるのを決定的にしたのは顔に被っていたあるものであった。彼の姿を直視した途端、女子生徒から悲鳴が上がる。もちろん、黄色い悲鳴ではない。生理的嫌悪感からくるものだ。男のボクでさえあれはないと思うよ。女子中学生が目にするには毒に違いない。
なぜなら、男が被っていたのは女性もののパンツなのである。
それも、帽子のように頭に被るのではなく、顔面を覆うように被っている。当人は誇らしげに威張っているようだけど、白いパンツがすべてを台無しにしていた。
いよいよ作中最狂の問題人物が登場します。




