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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第九話「謎の覆面戦士登場! 新任教師の潘帝太郎」
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新任教師潘帝太郎

 現れたのはイケメンだった。すごくざっくりした説明だけど、第一印象だけ述べるならそう言うしかない。異国情緒めいた赤毛に、整った顔立ち。微笑みかけるだけで、女性陣は腑抜けになってしまっている。先生らしくスーツ姿だけど、色白の肌といい燕尾服とマントを着せたら似合いそうだ。完全に吸血鬼になっちゃうけど。でも、先生よりもドラキュラのコスプレの方が数倍しっくりくるんだよな。


 ひそひそと「噂以上にかっこよくない」と評価が下される。第一印象で心をつかむことには成功したようだ。潘先生はひとしきり教室内を一望すると、ボクへと視線を送る。こいつ、確信犯か。

 そして、チョークを握ると力強く自分の名前を書き連ねた。えっと、この名前は……。さすがに華怜は気が付くよね。

「この度、五宝中学に赴任してきた潘帝太郎ばん ていたろうだ。みんな、よろしく頼む」

 本名を少し弄っただけじゃん。名字はまだしも、帝太郎は確信犯でしょ。こんなのに騙されるわけ……。

「帝太郎先生か。やばい、かっこよすぎなんですけど」

 ダメだ。華怜は友達と夢中になって感想を語り合っている。顛末を知らないとはいえ、どうして気が付かない。


「えっと、帝太郎先生の担当教科は……」

「保健体育。それも保健専門だ」

「はい、保健体育ですね。さっそく今日の二時間目の授業を担当してもらいます」

 渾身のボケも折木先生によってスルーされた。あいつだったら納得の回答だ。これだったら正体が分かるよね。

「体育か。男子と女子のどっちの担当だろう」

「できれば女子がいいよね」

 ダメだ。これでもまだ気づく様子はない。あいつのことだから、どうにかして女子体育担当に割り込んだんじゃないかな。


 白けている男子勢をよそに、ホームルーム後に潘先生の周りには人だかりができていた。新しい生徒や先生が来た時の恒例、質問攻めだ。

「潘先生は前はどこの学校だったの」

「島津の中学で同じく保健を教えていたぞ」

 抜かりなく回答を用意しているんだな。島津は近くの町の名前だし。

「好きな芸能人は」

「青木美空だ」

 誰それ。女子生徒たちは若干反応に困っている。ボロを出したか。

「知らないのも無理はないかもしれないな。ちょっとマニアックな女優だから」

「へえ、女優さんか。今度作品を教えて」

 危なげなく切り抜けやがった。


「うむ、青木美空とはコアなところをついてくるじゃないか」

「覇王、知ってるの」

 覇王がしたり顔で会話を盗み聞きしていた。彼も知っているということは、マニア筋の間では有名な女優さんなのかな。深夜帯に主に出ているとか。

「彼女は人気急上昇中のAV女優だ」

「ろくでなしすぎるでしょ」

 女子中学生にAV女優なんか勧めないでください。むしろ、なんで覇王は知っているのさ。

「違法アップロードされた動画で見たことあるぞ」

 中学生がAVなんか見ちゃいけません。あと五年早いよ。


 さて、二時間目の体育の時間となった。この日は男女合同で陸上競技だ。保健の専門家と言っていたけど、律儀に体育もこなすわけね。

 「男子はランニングだ」とかなり投げやりの指示を下され、ボクらはしぶしぶグラウンドを走る。その間、女子たちは中心部で走高跳の練習だ。単純に走っていてもつまらないから、視線は自然と女性陣の方に集まることとなる。


 軽快な助走とともに、次々とバーを飛び越えていく。時たま失敗する度に温かな笑いが起きる。むしろ、当人たちはミスした方が楽しめているだろう。

 ボクらの道楽はというと、男の性ではあるが跳ぶ瞬間に集約される。女の子が走高跳に挑んだ場合、上半身がどうなるか。想像にお任せするけど、つい感想が漏れ出ちゃってるんだよな。

「すげー、また揺れたぞ」

「走高跳とか、潘先生はいいチョイスするぜ」

 どこが揺れているかって、女の子の上半身で揺れるところといえばあそこしかないでしょう。たまにあまり揺れない子がいるけど、指摘しないのが優しさというものだ。


「ちくしょう、間近で見ることができる先生が羨ましいぜ」

 ボクの後ろを走っている男子が悔しがる。端から観察するのが目的なんじゃなかろうか。指導するふりをして視姦しているのはお見通しだからね。女性陣は気が付いていないだろうが、だらしない表情をしているのは遠方から丸わかりであった。


 ランニングもノルマの半分を過ぎ、倦怠感に支配されてきた頃。グラウンドの中央からひときわ大きな歓声があがる。どうせまたおっぱいでしょ。あ、まともに言っちゃった。

 いや、違う。幼馴染として失礼ではあるけど、彼女がおっぱいで注目されることはない。では、どうして異様に騒がれているのか。理由はバーの高さにあった。


 支柱の四分の三を過ぎるという、男子でも飛ぶのが難しい高位。下からくぐれるぐらいの小柄にも関わらず、勢いの良い助走と共に軽々と飛び越す女生徒がいたのだ。魔法少女の加護を受けずとも並外れた体力を持つ少女といえばひとりしかない。無論、華怜だ。

 おっぱいの力に頼らず歓声を集めるとは、華怜の体力恐るべしだ。拮抗する生徒がいないせいで、もはや彼女の独壇場となっている。


 すると、だらしない顔で傍観していた潘先生がすっくと立ちあがった。スタート地点に戻ってきている華怜になにやら話しかけている。一体、どんな話をしているんだ。運よく彼女たちの近くを走りかかったので、会話が漏れ聞こえてきた。

「君、なかなかやるな」

「そうですか。これくらい楽勝です」

「では、先生も本気を出そうか」

 そう言いながら潘先生は準備運動をしている。まさか、飛ぶのではなく跳ぶつもりか。嫌が上でも女子たちの羨望の眼差しを集める。

潘帝太郎、何者なんだ(白々しい)

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