魔法という名の錬金術
魔法少女の登場にハウンドカルアは唸りをあげている。変身しても表情は乏しいが、内に秘めた闘志というべきか近寄りがたいオーラが満ち満ちている。
怪物が驚愕しているのは頷けるが、度肝を抜かれているのはボクらも同じであった。
「ちょっと、どうなってんのよ。まさか、あの子も魔法少女だったわけ」
「ウルちゃん、お姉さん何も聞いてないわよ」
華怜と渚先輩に迫られるウルル。
「言ってなかったっけ。すばるんもぼくと同じぐらいの時期に魔法少女になったんだよ」
弁明したつもりか、蘭子が漂々と言ってのける。
「知らないわよ。あんた、全然教えてくれなかったじゃない」
「だって聞かれてないもん」
ベタな受け答えだな。ウルルもまた、「おっしゃる通り、ボクが変身させたんだル」と認めたため、新たな魔法少女というのは間違いないようだ。
警戒を続けていたハウンドカルアだったが、痺れを切らしたのか牙を剥き出しにした。
「ビビっちまったけど、魔法少女が出るくらい想定済みだし~。それに、あんた相手なら本気でやってもいいわけだし~」
「舐めてかかると怪我をする。泣いて謝るなら許してあげないことはない」
「ふざけんなし~。わたしの魔法でやっつけてやるし~。忌むべき凶牙よ! 強靭たりて鋼鉄をも砕け! 鋼牙砕芯」
ハウンドカルアが魔法を唱えると、二対の犬歯が輝きだした。口を閉じていてもなお飛び出していた牙であったが、効力が発揮されるや更に肥大化していく。もはや、口を閉じるのもままならないといったところだ。
肉体強化系の魔法を使ってきたことからして、相手は直接攻撃を得意とする脳筋タイプ。昴の身体能力の高さは追走劇から証明されているわけだが、魔法少女としてはいかなる力を使ってくるのか。
すると、トパーズは足元に転がっていた木の棒を拾い上げた。バトンパスよろしく空中で一回転させると、右手でしっかりと構えた。
「我が意中の万事よ! 彼の万事を贄とし顕現せよ! 再生創造」
魔法の発動とともに、木の棒が発光する。みすぼらしい外見だったはずが、豪華な柄と刀身が備わる、物々しい刃へ変貌していく。一振りすると、彼女の手の内に豪奢な剣が収まっていた。
木の棒、というより長いものを剣へと変化させる。既視感がある魔法だけど、当然彼女が反応した。
「どんな魔法を使うかと思ったけど、私と同じじゃないの」
まさかのルビィともろかぶりだった。しかし、トパーズのことを熟知しているであろう蘭子はしたり顔で戦況を眺めていた。
「愛刀長葱丸」
「なんか変な名前だし~」
うん、もうちょっとマシな名前は付けられなかったのか。せっかくの愛刀が台無しだよ。ルビィのディザスカリバーは名前の通り、西洋の騎士が愛用していそうな意匠だった。対して、トパーズの長葱丸は日本の武士が振るっていそうな日本古来の刀に近い造形となっている。そう考えると、剣道少女である華怜が西洋騎士の剣を使っていたって違和感があるけど。
長葱丸を携え、トパーズは一直線にハウンドカルアへと突進していく。十分に間合いを詰めたところで、掬い上げるように刀を振るった。
一刀両断される。かと思いきや、ハウンドカルアは発達した牙を利用して刀を食い止めた。実際に噛みついたわけだから間違ったことは言っていない。互いに魔法で強化した部位同士、拮抗した競り合いが続く。
力比べになるかと予想されたが、トパーズはあっさりと刀を放棄し、遠距離へと移行した。彼女の手から離れた途端、長葱丸はただの木の棒へと戻ってしまう。折角の武器を簡単に手放すなんて、どういう魂胆があるんだ。
「やはりごり押しは無理がある。ならばこれがいい」
言うが早いか、変身前に所持していたバッグをまさぐりだす。秘密兵器でも隠し持っていたのか。ビーフジャーキーが入っていたぐらいだから、兵器を取り出したとしても不思議ではない。
出てきたのは水鉄砲。うん、水鉄砲だ。それも百円均一で売っていそうなお粗末な代物である。子供のおもちゃなんかで怪物に勝てるわけないよ。
しかし、トパーズは歴戦のガンマンよろしく水鉄砲を構える。まさか、本当に水鉄砲でダイカルアに刃向うつもりか。
「おもちゃを武器にしようなんてうざいし~。そんなの噛み砕いてやるし~」
高を括ったハウンドカルアは大口を広げて襲来する。すると、トパーズはにやりと口角をあげた。
「我が意中の万事よ! 彼の万事を贄とし顕現せよ! 再生創造」
さっきと同じ魔法だ。でも、ルビィの真似っこだったら水鉄砲に使っても意味はないはず。早々に万策尽きたか。
しかし、魔法の発動とともに水鉄砲が光に包まれた。まさかと思う間もなく、水鉄砲は拳銃へと変貌を果たす。
「猟犬には猟銃。これ常識」
「飛び道具とか反則だし~」
「猟銃爆撃君発射」
だから、ネーミングセンスの悪さはどうにかできないのか。まともに銃弾を受け、ハウンドカルアはその場に崩れ落ちる。
物理的に致命傷を受け、ハウンドカルアは立ち上がることができずにいる。トパーズは得意げに拳銃を回すと再びバッグの中に戻した。一体どうなっているんだ。剣だけじゃなく銃までも生み出すなんて。
「ねえ、トパーズが使っている魔法って何なの。レンちゃんのものとは微妙に違うみたいだし」
「バンティーから聞いたけど、ルビィは細長い物を剣に変える魔法を使えるそうだル。でも、トパーズの魔法はそれだけじゃないル。彼女は形質が似ているものがあれば、いかなるものでも自由自在に作り出すことができるんだル。おもちゃの銃を本物の銃に変えたのがいい例だル」
「いわゆる等価交換ってやつだね。素材さえあれば、トパーズに作り出せないものはないよ」
つまり、自由自在に武器を生み出せる魔法を使えるのか。等価交換なんて言葉が飛び出したからか、ボクらの思うことは一つだった。
「あの子、錬金術師みたいね」
ノックダウンしたと思われたハウンドカルアであったが、胸を押さえながらも立ち上がってくる。猟銃を撃たれても無事なんて、どんな体力をしているんだ。さすがは怪物といったところか。
「もう怒ったし~。あんたなんか、丸呑みにしてやるし~」
「その前にお店を滅茶苦茶にしたことを謝って。そうすれば許す」
「ふざけんなし~。誰が謝るかし~」
「そう。じゃあ殺す」
魔法少女が殺すとか言っちゃいけません。ただ、トパーズ当人は冗談をかましているわけではなさそうだ。一体どんな末恐ろしい魔法を発動させるつもりなんだ。
彼女が拾い上げたのはそこらへんに転がっている石ころ。石を武器にするというと、そのまま投げつけるしか思いつかない。イシツブテ合戦みたいな。
手のひらに乗せられている石ころに向け、トパーズはそっと囁いた。
「無機なる偶像よ! 恵みの息吹に依りて躍動せよ! 動神降臨」
さっきとは別の魔法だ。一体どんな効果を発揮するのやら。
そういえば、ハガレンが実写化するみたいだね。ランファンが一番好きなキャラな私めは異端でしょうか。




