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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第六話「謎の天才ゲーマーと自由の戦士ヴァルエメラルド」
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ヴァルエメラルドの実力

 堂々たる名乗りに、しばし誰も反応できずにいた。ひとえに色々とツッコみたいことがあるからだけど、一つずつ整理していこう。

「ヴァルってことは、私たちと同じ魔法少女ってことよね」

「そだよ。お姉さんは青いから……ヴァルブルー?」

「ヴァルサファイアよ。で、そっちのチンチクリンがヴァルルビィ」

「誰がチンチクリンよ」

「へえ、ヴァルレッドじゃないんだ」

 ひとしきり自己紹介を終えたところで、エメラルドはしげしげと二人を観察している。とりあえず、魔法少女であることは間違いないみたいだけど、まだ油断はできない。


「バンティー。いつの間に新しい仲間なんて増やしたの。予め紹介してくれてもいいのに」

 ボクはこっそりバンティーを小突く。しかし、バンティーはだらしなく口を開いたままだった。

「正直に言うバが、俺っちはあんな魔法少女は知らないバ」

「バンティーが生み出したんじゃないの」

 どういうことだろう。バンティー以外にも魔法少女を誕生させられる存在がいるってことか。


「そっちのコウモリさんはもしかして妖精? へえ、ウルル以外にも妖精っているんだね」

「今、ウルルって言ったかバ。まさか、あいつもこっちの世界に来てるのかバ」

 バンティーは身を乗り出す。どうやら、バンティー以外にも妖精がいるというのは間違いなさそうだ。エメラルドはそのウルルというやつから変身能力を授けられたってわけか。


「てめえら、オレを無視するなよ」

 新たな魔法少女の乱入ですっかり忘れられていたが、シーホースカルアは息を噴出しながら威嚇している。さすがに飛び蹴り一発で退場してくれるほど軟弱ではないようだ。

「竹馬さんは黙ってなよ。大事な話をしてるんだからさ」

「た、竹馬だと!?」

 困惑するのも無理はない。タツノオトシゴと竹馬って似てるのか。未来の世界の猫型ロボットの道具からくる風評被害だと思うけど。

「あと、カードが欲しいなら、デュエウィザで挑みなよ。また倒してあげるからさ」

「ふざけんな、この女! 魔砲空殺ブラスタルエアロ

 頭に血が上ったシーホースカルアは空気砲を撃ちだしてくる。臨戦態勢に入っていないエメラルドは万事休すか。


 爆砕音が響き、シーホースカルアは顔を綻ばせる。折角新しい仲間が増える機会だったのに、もうお陀仏か。

「どこ狙ってるの。君の眼は節穴かな?」

 いつの間にかエメラルドはシーホースカルアの背後に回り込んでいた。いきりたって尻尾で振り払おうとするが、

「こっちだよ」

 今度は目の前に移動していた。速度が半端ないな。まるで瞬間移動じゃないか。


「やっほ。元気してる」

 感嘆していると、突然ボクの前にエメラルドが現れた。って、いくらなんでもおかしい。なぜなら、シーホースカルアの前にもエメラルドが存在しているからだ。

 しかも、ルビィやサファイアの所にも挨拶しに来ている。ちょっと、どうなってるの。エメラルドがいつの間にか増殖しているなんて。


「この野郎、分裂魔法なんて卑怯だぞ」

「分裂なんてしてないよ。無限なる幻影よ! 音速を超越し我が身に集え! 超速分身マッハファンタズマ

 エメラルドが魔法を唱えると、ボクの前にいた彼女が二人に増えた。しかも、さっきよりも明らかに数が増えている。やっぱり分裂なんじゃないの。

「まさかだけど、あの子分裂してるんじゃなくて、分身してるんじゃないかしら」

「どういうこと」

「彼の者曰く、高速で移動することで残像を発生させ、分身しているように見せるってね」

 つまり、ボクの前にいるのは残像ってこと。もしくは本体ってこともありえるけど。

「影分身するなんて卑怯な。ええい、本物はどいつだ」

 いらつきながら、シーホースカルアは空気砲を発射する。しかし、闇雲に撃ったところで不発に終わるだけだ。残像にすら当たらないというのが、彼女の尋常じゃない素早さを体現している。


 被弾することはなくなっても、攻撃できなければ仕方ない。もちろん、エメラルドは防戦一方に甘んじているわけではなかった。

「そろそろやっつけちゃおっかな。吹きすさぶ暴風よ! 刃となりて一閃せよ! 蒼天空牙ゼフィルーガ

 複数存在していた残像たちが一か所に集結する。って、そんなところにいたの。エメラルドが仁王立ちしていたのはおもちゃの陳列棚の天辺だったのだ。

 呆気にとられて見上げていると、周辺の空気がとある一転へと集中していく。呪文からして、空気を使う魔法なのは間違いない。シーホースカルアに対抗して、空気砲でも飛ばすつもりなのだろうか。


 いや、集中している場所がおかしい。彼女の肉体の部位の中で、ひときわ激しく揺れている部分があるけど、嫌な予感しかしないのだ。

「あの子、まさかだけど、あれで攻撃するつもりなの」

 華怜も不穏を口にする。うん、まさかアレで攻撃するつもりじゃないよね。でも、自己主張激しく揺れるアレはいつでも攻撃を辞さない構えだ。


「てめえ、オレに空気砲で刃向おうなんていい度胸じゃねえか。受けて立つぜ。魔砲空殺ブラスタルエアロ

 シーホースカルアの全力の空気砲。直撃したらひとたまりもない。迎え撃とうと、ついに危惧していたものが発射される。

「くらえ! アホ毛カッター!!」

 自分で言っちゃったよ。そうなのである。さっきから彼女は自分のアホ毛に魔力を集中させていたのだ。


 かつて、髪の毛で妖怪の気配を察知する少年がいた。だが、髪の毛をカッターにして飛ばすなど、誰が予想しただろうか。でも、問題の少年も髪の毛針で攻撃していたか。

 アホ毛カッターと空気砲が真正面からぶつかり合う。トレードマークのアホ毛を失いすっきりしたエメラルドは固唾を呑んで行く末を見守っている。ディザスカリバーを退けた魔弾と拮抗しているというのが末恐ろしい。

「負けてたまるか! いけ、アホ毛カッター!」

 呼びかけただけでパワーアップして敵の攻撃をぶち破る。ホビーアニメの主人公ぐらいしか使えなさそうな秘技だが、叫んだ途端にアホ毛カッターの勢いが増している。


 やがて、カッターは空気砲を退け、シーホースカルア目がけて直進していった。

「やべえ、ずらかるぞ」

 たまらず自慢の素早さを活かして回避に移る。咄嗟の判断で射程圏外に逃れるとは、あいつの機動力も大概だ。


 でも、アホ毛カッターの方がある意味で無茶苦茶だった。

「曲がって」

 いや、呼びかけて威力を増したからって、軌道まで変えられるはずが……。いや、本当に曲がっている。退避に成功して安堵していたシーホースカルアを真正面から捉えているのだ。

「ちくしょう、こんな技に敗れるなんて」

 敵が嘆くのも無理はない。同情する間もなく、シーホースカルアは爆散した。

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