おしおきされるエメラルド
元の子供の姿に戻ったのを確認し、エメラルドはボクらの元に歩み寄って来る。攻撃方法はアホだけどなかなかの実力者だ。人懐っこそうな笑みを浮かべ、ルビィとサファイアを見つめている。
「あ、あんたやるじゃない。でも、油断しただけで、私も本気を出せばあいつくらい倒せたわよ」
ルビィは強がりを言うけど、エメラルドは相変わらず観察を続けている。そして、唐突に口を開いた。
「ルビィとサファイアだっけ。君たち、さっきのに苦戦してたみたいだけど、本当に強いの? ダイヤモンドくらい強いのなら問題ないんだけどな」
「あなた、さっきからヴァルダイヤモンドを気にしてるみたいだけど、どういうつもりなの」
「別に深い意味はないよ。ただ、最強の魔法少女と戦ってみたいだけだからさ」
それはそれで問題があるよ。目の前で宣戦布告されては心中穏やかではない。
「君たちも知ってるでしょ。シン・ワニラをたった一人で倒した最強の魔法少女。ダイカルアの怪物も大したことないのばっかだからさ、一度最強の相手と戦ってみたかったんだ」
「ちょっと待って。戦ってどうするのさ」
思わず口を挟んでしまった。一瞬怪訝な顔をされるけど、構わず手を頭の後ろで組む。
「単純な理由だよ。ゲーマーとして、最強の相手がいたなら攻略したくなるじゃん。最強の魔法少女なんだから、さぞかし歯ごたえがあるだろうな」
強敵を夢想して浮足立つって、どこぞの戦闘民族ですか。勢い任せで髪を逆立たせて変なオーラを纏いそうで怖い。
興味を失ってドロップアウトしてくれればめっけもんだったけど、エメラルドは突拍子もない提案をふっかけてしまう。
「そうだ。せっかくだから、君たちでウォーミングアップさせてよ。二人がかりだったら、ダイヤモンドのお膳立てになるじゃない」
待て待て待て。さりげなく喧嘩をしかけないでよ。案外というまでもなく血の気の多い二人が聞いたら黙っていられるはずがないじゃないか。
「ねえ、先輩。お膳立てってことは、私たち雑魚扱いされてるのかしら」
「サキちゃんと意見が一致するなんて珍しいわね。先輩として、礼儀知らずにはお仕置きするのも仕事だからね。今回は協力してあげてもいいわよ」
ほら、やる気満々じゃないか。また魔法少女大戦だなんて、収拾がつかなくなるよ。
「バンティー。どうにかして止められないの」
「人間関係のこじれは専門外だバ。疲弊させて強制的に変身解除させるしかないんじゃないかバ」
それって、気のすむまで戦わせろってわけ。二人だけでも大変だったのに、三人で暴れたらもう滅茶苦茶だよ。
ボクが苦悩しているのも知らずに、女性陣は火花を飛ばしあっている。下手をしなくても、この建物が消し飛びそうだな。後で魔法で直すか。それとも、父さんの仕事を増やしておくか。それ以前に三人の安否が保証できないし。ああ、もう色々と面倒くさい。
一触即発の雰囲気を漂わせている三者。あまりやりたくないけど、ボクが矢面に立てば多少は被害を抑えられるか。魔法少女同士で戦うなんて気が進まないけどな。しぶしぶダイヤモンドを手にする。すると、何者かがボクの隣を通り過ぎていった。
背丈は渚先輩と同等、あるいはそれ以上だろうか。パーカーを被り、緩慢な動作でエメラルドに近づいていく。まさか、新たな戦力か。いや、外面は一般人っぽい。魔法少女を称するのなら、もっと美麗な衣装を着ていてもおかしくないはずだ。
突然の乱入者にルビィたちは面食らって固まってしまっている。唯一、エメラルドは破顔して手を振る。
「あれ、すばるんじゃん。どうしたの……」
彼女はそこで言葉を区切ることとなった。なぜなら、謎の少女がいきなり腹パンをお見舞いしたからだ。
って、何やってんのさ。魔法少女相手にいきなり殴りかかるってどういう神経してんの。しかも、もろに入っているから、エメラルドは苦悶の表情を浮かべて呻いている。冗談抜きで痛そうだな。
「ひどいよ、すばるん。いきなり殴るなんてさ」
「ひどいのは蘭子の方。見ず知らずの相手に因縁つけるのはいけない」
抑揚に乏しい口調ですばるんと呼ばれた少女は窘める。パーカーの横から素顔がのぞいたが、垂れ目なこともあって眠そうな印象を受けた。でも、変身後のエメラルドがたじたじになっている。そこまで強敵には思えないんだけどな。
「せっかく魔法少女を見つけたんだよ。実力を図らせてもらってもいいじゃん」
「相手は迷惑している。無理強いはしない方がいい」
「ええ~。すばるんのけちんぼ」
そう口にした途端、エメラルドは口を押えた。咄嗟に後頭部を向けて表情を隠したけど、彼女はいかなる顔を目撃したのだろうか。邪推すると恐ろしいことになりそうだからやめておこう。
「ふ、ふん。今日の所はこれくらいにしといてあげるんだからね。でも、次こそはあんたらを叩きのめしてあげるんだから」
「さっさと歩く」
すばるんなる少女に連れられて、エメラルドは退散していく。ダイカルアの怪物は倒せたからいいけど、嵐みたいなやつだったな。ヴァルエメラルド。本当に何者なんだ。
変身を解除した華怜と渚先輩はご立腹だった。手柄を乱入者に奪われたうえ、一方的に喧嘩を吹っ掛けられたのだから当然だ。
「新しく魔法少女が出てくるなんて聞いてないわよ。バンティー、あんた本当に知らないのよね」
「だから、ヴァルエメラルドなんて知らないバ。でも、あいつがこっちに来ているのなら、新たな魔法少女が生み出されていたとしても不思議ではないバ」
バンティーの知り合いということは、未知の妖精がいるってことか。色々と疑問は残るけど、先だって解決しておかなくてはならないのは目前の少年だ。
すっかり伸びてしまっている魁罵少年を介抱してやる。呻きつつも瞼を開き、頭を掻いている。
「うう、カードが、カードが」
まだカードに執着してるよ。よほどバハムのカードが欲しかったんだな。
「本当に大丈夫。さっきまで怪物になっていたし」
「そうそう。ダイカルアの力ってすげーんだぜ。まあ、負けちまったからもう怪物にはなれねえけどな。お姉さんも一度教団に顔を出してみなよ」
小学生から熱心に布教されているんですが。ガキにまで布教するなんて、ダイカルアの連中は徹底しすぎだろ。
「そんなことより、あのカードがないとやばいんだ。練りに練ったデッキでLに勝てなかったんだし、これ以上強くなるなら、レアカードの力を借りるしかねえ」
「たかがカードゲームの話でしょ。そこまで熱心にならなくても」
「もしかして、お姉さんは知らないの。このゲームで負けるとやばいことになるんだ」
意味ありげにデッキに視線を落とす。ただのカードゲームっぽいけど、負けてペナルティなんてあるわけないよね。夢幻少女になるとかだったらゴメンだよ。
少年に別れを告げ、ボクは自前のカードデッキを広げる。変哲の無いカードだけど、秘密があるのだろうか。エメラルドの件といい、謎は深まるばかりだ。とりあえず、やるべきことは滅茶苦茶になった施設の修復だろう。建築能力を持った魔法少女とか現れてくれないかな。
次回予告
すっかりはまってしまったデュエウィザ。新しいカードを買いにカードショップへ行くことにする。
その道中に出会ったのは意外なあの子。おまけにダイカルアのピジョンカルアまで襲ってくる。
そして、まさかのエメラルドと対戦!? 魔法少女大戦はこりごりだ!
次回、TS魔法少女は戦いたくない第七話「ヴァルエメラルドの正体は誰だ!?」




