シーホースカルア、脅威の実力
「純情可憐! 我、ひたむきなる情熱の戦士! ヴァルルビィ!」
「傍若無人! 我、尊大なる威光の戦士! ヴァルサファイア!」
名乗った瞬間、二人の間隙を空気砲が通過する。相手は容赦しないな。
「ちょっと、名乗っている間は攻撃しないお約束なんじゃないの」
「特撮番組のセオリーを律儀に守る怪物はいないってわけね。なら、こちらも本気でいかせてもらうわよ。身も凍りつかせる氷河よ! 刃となりて悪しきを討て! 鋭閃絶氷」
サファイアは手のひらにつららを生成し、シーホースカルアへと投げつける。しかし、シーホースカルアは高速移動でかわしていく。再度狙いを定めようとしても、ちょこまかと動き回って標的を固定できないのだ。
「すばしっこくてうざいわね」
「じゃあ、ぶった切ればいいんじゃないの。バンティー、細長い物ってない」
「言うと思ってかっさらってきたバ」
嫌な予感しかしない。未だに原理は不明だけど、バンティーが翼をクロスさせると、黄色くて細長い物体が転げ落ちた。
うん、細長い物だ。でも、これを武器にするのは忍びないんじゃないかな。中二病的に言えばムーンライトブレードになるだろうか。黄色い皮に包まれ、三日月状に婉曲した果物。
「バナナって。まあ、背に腹は代えられないか」
まさか、本当に武器にするつもりじゃないよね。素直に食べた方が有益だと思うよ。心配をよそに、華怜はバナナを掲げる。下にスティックがついていたら美少女戦士みたいだった。
「邪を裂く聖剣よ! 尊大なる御霊を我が手中に宿せ! 聖剣変化」
バナナが愛刀ディザスカリバーへと変化する。元がバナナなだけに強度が危ぶまれる。
ディザスカリバーを片手に突進するも、シーホースカルアの移動速度の方が勝っている。追いついたと思ったら、既に後方に回り込まれているのだ。斬りつけるどころか、あいつが放ってくる空気砲を防ぐので手一杯となってしまっていた。
「あいつの動きを止めないと話にならないわね」
「じゃあ、こうするまでよ。有象無象の愚者よ! 慄きその身を凍てつかせよ! 冷結微笑」
サファイアがウィンクを施すと、シーホースカルアの周囲に霜が発生する。氷の粒へと変換され、本体へとまとわりつく。
おあつらえ向きに相手を氷結させて動きを封じる魔法だ。いくら高速移動を売りにしていても、氷漬けにされてはどうしようもないだろう。
実際、シーホースカルアは足首を凍らされ、顔をしかめていた。いいぞ、これなら攻撃を当てられる。ルビィは意気揚々とディザスカリバーに魔力を充填する。タツノオトシゴがモチーフなためか、相手は軟弱そうだ。ルビィの全力の攻撃が決まればひとたまりもなかろう。
煌々とした輝きを放つディザスカリバーを担ぎ、ルビィは突進する。氷に四苦八苦しているシーホースカルアに防ぐ手立てはない。よし、これで終わりだ。
「遍く大気よ! 砲弾となりて貫け! 魔砲空殺」
今までと同じ空気の弾丸。いや、勢いを増している。たまらずディザスカリバーを防御に回すけど、刀身が刃こぼれを起こす。たったの一撃でこの様だ。何度も受けたらなまくらにされるのは必定である。
「あいつ、魔力を隠していたとでも言うの」
「最初に撃ってきた空気砲はろくに魔力を消費しない、いわば通常攻撃みたいなものなんだバ。改めて魔力を注入することで本来の威力を発揮させたんだバ」
能あるタツノオトシゴは空気砲を隠すというやつか。なんのこっちゃ分からんけど。しかも、本気を出していなかったというのは別の形でも露呈した。
サファイアの魔法で氷漬けにされていたはずが、あっさりと高速移動を開始しているのだ。
「やっぱり、水相手に氷は相性が悪いわよね」
だから、何の話をしてるんですか。ミノタウロスカルアに倣うなら、元の魔力差で効果を発揮しなかったのだろう。ガキが変身したにしては実力が不相応だ。
相手の動きに翻弄されているうえ、ディザスカリバーを鈍らにする空気砲を放ってくるのだ。反撃することもままならず、ルビィとサファイアは逃げ惑うばかりだ。
「雑魚は黙ってろよ。俺はあのカードを手に入れないといけないんだ」
怨嗟を込めて、シーホースカルアは二人を卑下する。言い返そうにも負け犬の遠吠えにしかならない。どうする、変身するか。でも、商業施設で大暴れして建物を壊滅させるわけにはいかない。かといって、手をこまねいていては二人がやられてしまう。意を決してボクはダイヤモンドを握りしめる。まさにその時であった。
「ウルトラ、ミラクル、パワフル、スペクトラル、ダイナマイト、ドメスティック、バイオリック、ギガンティック、デストラクションキック!!」
よく分からない技名を叫びながら少女が乱入し、シーホースカルアへ飛び蹴りを喰らわした。って、いやいや。何やってんの。不意を突いたためか、思い切り首筋に当たってるけど。でも、怪物相手にライダーキックって自殺行為に等しい。
いや、そうでもない。地面に降り立った少女の姿にボクたちは驚愕することとなった。ルビィやサファイアと似たようなフリルのついたドレスにグローブとブーツ。華怜と背丈がどっこいどっこいの小柄で、幼さが残る顔立ち。そして、胸のリボンには緑色の宝石のブローチが飾られていた。
あまりにもルビィやサファイアと特徴が酷似している。ただのコスプレとも思われた。でも、飛び蹴りを受けたシーホースカルアが真面目に痛がっている。ただの人間だったら、ダイカルアの怪物に会心の一撃なんて加えられない。規格外の脚力を有しているというだけでも、一般人でないことは確かだ。
「てめえ、何しやがる」
いきなり飛び蹴りされたシーホースカルアは憤慨する。謎の少女は鼻息を鳴らすと、人差し指を突き出した。
「カードゲームの大会を荒らすなんて、学校の先生が許しても、このぼくが許さないんだかんね」
決め台詞とともにアホ毛が揺れる。とりあえず、助けられたってことでいいのかな。
「いきなり現れて、誰なのよあんた」
ルビィが先行して疑問をぶつけた。すると、少女は間近に寄り、まじまじと観察し出した。同じ少女とはいえ、いきなり凝視されてルビィは戸惑っている。
「その格好コスプレ? すっごくよくできてるじゃん」
「コスプレじゃないわよ。っていうか、質問に答えて」
「本物の魔法少女なの? へえ、すばるん以外のは初めて見たな。あ、ぼくの名前だよね」
咳払いすると、少女は横を向き、手のひらを広げてルビィを指し示した。風都の二人で一人の探偵の決めポーズに似ているけど気のせいか。
「疾風怒濤! 我、奔放たる自由の戦士! ヴァルエメラルド!」




