怒りの一撃! クロコダイルカルアの最期
突如、上空より漆黒の弾丸が襲いかかったのだ。細長い雷撃のようにもみえる。付け加えるなら、先端は爬虫類があぎとを開いたかのように分離しており、ルビィとサファイアを呑み込む恰好となったのだ。
明らかに魔法による一撃。しかも、脳筋タイプのクロコダイルカルアが放ったとは思えない。では、誰が攻撃してきたのか。答えは自ずと明らかになった。
「雑魚どもが粋がるな。しばらく黙っておれ」
クロコダイルカルアの腕の位置まで降り立った大司教が砲撃してきたのである。魔力増強したルビィとサファイアを一撃で葬り去るなんて。
強制変身解除された両者を前に、ボクは歯噛みする。脳内の憎悪が助長され、頭痛に苛まれてしまう。なにが「コロセ」だよ。お前がそうしたいのならそうしてもいいんだぞ。
苛立ちを隠せず、地団太を踏む。大司教の表情は分からないけど、ほくそ笑んでいるようにも見える。ボクの仲間をやっつけて優越感に浸っているのか。なんてやつだ。
そして、ボクの逆鱗に触れることを平気でやらかしてくる。上空から響くプロペラの音。胡乱に天を仰ぐと、数機のヘリコプターがクロコダイルカルアを取り囲んでいた。自衛隊のお出ましか。いや、報道機関もありうる。巨大怪獣が出現したなんて、マスコミが放っておくわけがない。
とりあえず、邪魔にならないのなら無視して構わない。だが、大司教の方が見逃すわけがなかった。
「うっとうしいハエどもめ。クロコダイルカルアよ、ヘリコプターを叩き落すのだ」
「待ってよ。あの人たちは関係ないでしょ。手を出さないで」
「知ったことか。ヘリコプターを撃墜させれば、人々はクロコダイルカルアの力に慄くだろう。さすれば、邪神様への糧も増えるというもの。どうせ、邪神様が復活すれば、人類などいつでも根絶やしにできる。その前に数人犠牲になったところで変わらぬだろう」
なんてやつだ。ボクは居てもたってもいられず、その場から駆け出した。すぐにも溢れだしてくる魔力を堪えながらも、クロコダイルカルアの肉体を上り詰めていく。
肩で待機していた大司教と反対側の肩で対峙する。仮面に隠れて奴の表情は読めない。ただ、ボクの方は般若の形相をしていたに違いない。有する魔力がまだ溜まりきっていないのに、すぐにでもあいつをぶっ飛ばしたくて仕方なかったのだ。
クロコダイルカルアの上半身上でにらみ合いが続く。すると、大司教は長髪をかきあげた。
「いい顔をしておる。そなたの魂胆は知っておるぞ。わらわたちが憎くて仕方ないのだろう。ならば堪えることはない。本能の赴くまま、わらわたちを屠ってみせよ」
大手を広げて待ち構えている。冷静に考えれば違和感丸出しだった。最高威力の攻撃魔法を発動しようとしているのに、大っぴらに歓迎しているのだ。
罠だと分かっていたとしても、もはや魔力の潮流を留めることはできなかった。しかも、ボクを煽るように、クロコダイルカルアは前脚を伸ばした。
鋭い爪がかすっただけで、近くを飛んでいたヘリコプターが傾く。あの一撃で比翼を傷つけたのか。コントロールを失ったヘリコプターは眼下の森へと呑まれていく。
「あの人たちは関係ないだろう。なんてことをするんだ」
「多少の犠牲は厭わないと忠告したはずだぞ。わらわたちの戦いに首を突っ込む方が悪い」
冷淡に言い放つ。もはや、我慢するのも限界だった。
「もう堪忍袋の緒が切れた。大司教、クロコダイルカルア、覚悟しろ!」
魔法を放っているボクでさえ目を反らしたくなるほどの閃光が迸る。内から体が引き裂かれそうな衝撃が襲いかかる。少しでも油断したら、自らの魔力で自らを滅ぼしてしまいそうだ。それでも、ボクは一言一言かみしめるように呪文を紡ぐ。
「穢れし者よ! 邪悪なる意思を悔い改めよ! 悪行退散」
満ち満ちたエネルギーを光線へと転換し、大司教を狙い撃ちにする。
「ほう……さ、すが……強いな」
並々ならぬ奔流により、大司教の声が途切れ途切れでしか聞こえなかった。感嘆か余裕か、それすらも分からない。ただ、確かなことは近距離から破壊光線を撃たれては無事ではいられまいということだ。
もちろん、巨大クロコダイルカルアとて例外ではない。膨張する光を庇おうとしているが、容赦なく半身を蝕んでいく。肉体そのものを破壊するというあまりにも惨たらしい一撃だ。崩壊していく自らを眺めながら、やつは断末魔の叫びをあげていただろう。だが、単なる化け物と化してしまったので、表音できない呻きしか聞くことができなかった。
落下していくことからクロコダイルカルアが討伐されたことを察する。原理は分からないけど、少なくとも半身が消し飛んでいるのだ。さすがに無事というわけにはいかないだろう。
ボクもまた急降下しているので無事というわけにもいかないが、消滅していくクロコダイルカルアに比べれば可愛いものだった。まあ、痛いことには変わらないんだけどね。
幸いといっていいのか、クロコダイルカルアが薙ぎ倒した大木がクッションになって、どうにか衝撃を和らげることができた。ただ、腰を強打してしまい、しばらく爺さんみたいにさする羽目になる。十メートル以上の高さから落下して「痛い」で済むって方が奇跡だが。
「優輝」
「サキちゃん」
華怜と渚先輩が駆け寄ってくる。あの一撃で魔力をすべて放出してしまったのか、ボクは変身前の姿に戻ってしまっている。それでも腰の傷が癒えない辺り、まさに命がけの一撃だったのだろう。




