戦隊ヒーローでお約束のアレ
「クロコダイルカルアよ。大言壮語を吐いておきながらだらしないな。ダイカルアにおいて失敗した者はどうなるか分かっておるな」
「待ってくれ。俺様はまだやれる。それに、大司教様が求めていた存在がようやく見つかりました」
「分かっておる。ヴァルダイヤモンドとやら。そなたこそがわらわの追い求めていた者。そう言いたいのだろ」
一瞬視線を送られたけど、それだけで身がすくむ思いだった。これまでに対峙した怪物が束になったとしても、容易に跳ね返されるほどの迫力がある。
「大司教って言ったわよね。あなたがダイカルアのボスってことでしょ。ならば、あなたを倒せば万事解決ってことじゃない」
「お黙りなさい、小娘」
同じ小娘のはずなのに、山犬に恫喝されたぐらいの迫力がある。クロコダイルカルアが萎縮するのも頷ける。普段強気の華怜も例外ではなく、たった一言で押し黙ってしまった。
「大司教様。俺様に今一度チャンスを。あいつを倒せるのであれば何でもします」
「ほう、何でもと言ったか」
懇願するクロコダイルカルアを大司教は一瞥する。口角が上がっていたのは気のせいではないはずだ。
大司教は懐をまさぐると、ゴム栓が施された試験管を取り出した。中には毒々しい紫の液体が詰まっている。どう考えても普通の飲み物ではない。いや、飲み物であることすら怪しい。
謎の液体を前にクロコダイルカルアの表情が一変した。積極的に迫っていたはずなのに、後ずさりすらしているのだ。加えて、蛇に睨まれた蛙の如く、恐慌で固まってしまっている。
「大司教様。何でもと言いましたが、そいつはまずいんじゃねえか」
「男に二言はないという格言があるだろう。そなたも男ならば自らの運命を受け入れたらどうだ。拒めばどのみち死が待っておるぞ」
「し、しかし。そいつだけは勘弁だぜ。そんなもんに頼らずとも、魔法少女どもを根絶やしにすりゃいいんだろ。ルビィとサファイアには勝ったんだし、余裕だ……」
「ダイヤモンドに勝てねば意味はない」
苦し紛れの言い訳も大司教の一言で封殺された。クロコダイルカルアは目を泳がせているし、やばい代物だというのは確定的だ。
目に留まらぬ速さで片手が繰り出される。か弱い細腕のはずなのに、強引に下あごがこじ開けられた。抗おうとしているが、一向に口が閉じられることはない。華奢な体のどこにそんな力があるのか。
強制的に開口させられている方は堪ったものではない。もがいているが、容赦なく口の中に紫の液体が流されていく。悲痛の呻きを発するクロコダイルカルアは敵ながら同情を禁じ得なかった。
試験管の中身が空っぽになると、やつはようやく顎を閉じて四つん這いになった。だが、安心する暇もなかった。謎の液体を嚥下した瞬間、クロコダイルカルアの全身に異変が生じ始めたのだ。
「嫌だ、俺は嫌だ!!」
悲鳴を上げるものの、体の変調は止めることはできない。
永遠とこだまする叫びは徐々にくぐもっていった。すでに化け物じみているが、鳴き声まで怪獣のそれへと変貌しようとしている。そして、全身の筋肉という筋肉が盛り上がっている。正真正銘の筋肉ダルマになるつもりか。厄介どころの話じゃないぞ。
いや、筋肉ダルマならまだよかったかもしれない。クロコダイルカルアは更に質の悪い存在へと進化を遂げようとしているのだ。
錯覚でなければ、やつの全身が肥大化している。瓦礫の山を追い越し、近くにあるアパートと肩を並べるほどに成長する。いや、おかしいでしょ。しかも、変調は留まることを知らず、電信柱を追い抜き、ついにはフェスの会場全体を一望できるまでになった。
認めたくはないけど、クロコダイルカルアに起きた変調を説明するならこうするしかない。
「あいつが巨大化した」
「バンティー、怪物が大きくなるなんて聞いてないわよ」
「戦隊の怪人が大きくなるのならお約束だけど、あいつらも同じってわけ」
「だから、なんでもかんでも俺っちに聞くなバ。ダイカルアの怪物が大きくなるなんて想定外だバ」
バンティーも知らない魔法なのかよ。推定して十倍ぐらいの背丈にまで巨大化したクロコダイルカルアはけたたましい雄たけびをあげる。もはや怪物というか怪獣と称する他ない。
巨大クロコダイルカルアが一歩踏み出すと、とてつもない地響きが起こる。いくらなんでもこいつを相手にするのは無理でしょ。巨大ロボでも使わない限り勝てっこないよ。でも、ロボットを使う魔法少女なんて……一応、いるけどさ。
「バンティー、あいつを倒せるようなロボットとかないの」
「そんな都合のいい兵器はないバ」
華怜も同じ考えだったみたいだけど、あっさり反論された。
「じゃあ、私たちも巨大化したらいいんじゃない。そういう魔法ならあるでしょ」
「実例が目の前にあるから存在するのは確かだバ。でも、おそらくあれはダイカルアのオリジナル魔法だバ。俺っちたちが住んでいた国では確立されていないバ」
巨大化も無理か。と、いうより生身の人間が巨大化した場合、お約束展開になって主にバンティーが得をすると思う。ほら、洋服までは巨大化できないってオチだろうからさ。
クロコダイルカルアも自身の異変に困惑しているのか、さっきから微動だにしない。でも、ひとたび暴れ出したら悲惨なことになる。どうにか膠着を保っているけれども、大司教はステップを踏んでクロコダイルカルアの全身を駆け上がっていく。頭部まで到達すると、後頭部を叩いた。
「クロコダイルカルアよ。そなたの望み通り多大なる魔力を与えてやったのだ。己が欲望のままに蹂躙するがよい。そなたのような巨体が暴れ回れば、それだけで邪神様への糧が増えるであろう」
大司教にそそのかされ、クロコダイルカルアは咆哮する。今のところは昏倒しているバグカルアばかりだけど、こんな化け物が出現したんだ。いずれ、報道陣や野次馬がやってくるだろう。もちろん、自衛隊も出動するけど、戦車だと焼け石に水に違いない。
手をこまねくしかない絶望的な状況。けれども、バンティーは勢いよく翼をはためかせた。
「諦めるのはまだ早いバ。ダイヤモンドだったらあいつを倒せるかもしれないバ」
「ボク!?」
「どうして驚いているんだバ。君の魔法は司教であるクロコダイルカルアを一撃で黙らせたんだバ。もし、全力で撃てば巨大な怪物だって倒せるはずだバ」
「いや、無理だって。あんなのはさすがに倒せないよ」
「復活したかと思ったら臆病風に吹かれたかバ。君ならやれる。そう信じているバ」
だから、変に期待しないでよ。巨大怪獣と戦うのは魔法少女じゃなくて光の巨人だって。
ただ、バンティーの言うことも一理ある。もし、頭の中の変な声に従って、全力で光線を撃ったらどうなるだろうか。いや、考えただけでも恐ろしい。下手したら周辺に甚大な被害が出るかもしれない。おまけに、倒せなかったのならあまりにも悲惨だ。建物を壊滅しておいて、怪物は無事でしたなんて、どうにも責任が取れないよ。
怪物相手に天を見上げるしかないボク。すると、肩に手を置かれる。首を回すと、華怜が親指を立てていた。
「さすがにあいつ相手だったら、ボクに任せとけとか言わないわよね」
「むしろ、誰かに任せたいぐらいだよ」
「私も一人であんなのに敵うとは考えていないわ。でも、私と力を合わせればどうにかなるんじゃない」
華怜との連携プレイか。二人がかりであればどうにかできるかも。すると、もう片方の肩が叩かれる。
「彼の者曰く、秘密戦隊は五人の力を合わせて戦ったってね。私たちは五人もいないけど、三人同時に戦えば勝算はあるわ」
渚先輩もやる気満々だ。女性陣二人が臨戦態勢に入っているのに尻込みしているわけにはいかない。さすがに男の沽券に係わるからな。
それでも、ダイヤモンドを取り出すには勇気がいった。ちょっとでも力を緩めたら手からこぼれ落ちそうになる。ずっと持っていられるだけでも奇跡だった。
ボクは頬を叩くと、高々とダイヤモンドを掲げた。
「こうなったらもうやけくそだ。華怜、渚先輩。あいつを倒すよ」
「言わずもがなよ」
「まあ、お姉さんに任せておきなさいって」
並び立つ三人。白、赤、青。三色の宝石が輝きを放つ。数十メートルもの体長を誇るお前にとって、ボクらは取るに足らない存在だろう。でも、油断していると寝首を掻かれるんだぞ。
まばゆい光を受け、ボクらは変身呪文を詠唱する。三人同時変身。特撮番組でのお約束中のお約束が実現する。
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーダイヤモンド!」
「ルビィ!」
「サファイア!」
現実の時間にすると僅か0.05秒。だけど、その間にボクらは目まぐるしい変化を遂げる。着ていた服が分解され、色とりどりのドレスが着装される。グローブとブーツを身に着け、胸には大きなリボン。ブローチとして宝石が収まる。
「清廉潔白! 我、すべてを統べる戦士! ヴァルダイヤモンド!」
「純情可憐! 我、ひたむきなる情熱の戦士! ヴァルルビィ!」
「傍若無人! 我、尊大なる威光の戦士! ヴァルサファイア!」
三色の魔法少女が一斉に並び立つ。
「まさに圧巻だバ。みんなの力を結集して、巨大クロコダイルカルアを倒すんだバ」
バンティーに仕切られるというのは癪だけど、ボクらの意思は一つだった。互いに顔を見合わせると、巨大な怪物に向かって突進していく。
物語が佳境を迎えたところで特撮トリビア。
スーパー戦隊において、初めて巨大ロボが登場したのはバトルフィーバーJである。けっこう有名だから、トリビアでも何でもないかな。
ちなみに、作中で触れたロボットに乗る魔法少女とは、魔法騎士レイアースのことです。




