犬猿の仲
サファイアが変身を解除したということで、ボクたちも元の姿に戻る。変身前で一堂に会するのはこれが初めてとなる。
「未だに信じられないな。サキちゃん、魔法少女に変身するなんて、性転換手術でもしたの」
「現在進行形で男です。それよりも、先輩こそいつの間に魔法少女なんてやっていたんですか。全然知らなかったですよ」
「秘密にしていたから当たり前じゃん。えっと、数か月前だったかしら。ダイカルアの怪物に遭遇していて困ってたら、そこの変態コウモリと出くわしてね。なし崩しに魔法少女にされたってわけよ」
「俺っちも覚えているバ。サファイアはこの世界に来て二番目に変身させた魔法少女だからバね」
ダイカルアの怪物が出現し始めたのは半年ぐらい前だったはず。ならば、渚先輩はずっと前から人知れず怪物を倒し続けてきたってわけか。部活でも先輩だけど、魔法少女としても先輩になるな。
「それで、サキちゃんはどうやって魔法少女になったの。男も魔法少女になれるもんなのね」
「ダイヤモンドの場合は特例だバ。本来、男は魔法少女になれないはずだバ」
「でも、なっちゃったんだよね」
それで、スパイダーカルアと遭遇し、初めて変身した時のことを説明した。つい最近ニュースで報道されていたから、渚先輩も合点がいったようだった。
「すごい新入りが現れたと思っていたけど、まさか身内だったとはね。私の全力の魔法を防いじゃうなんて、噂通りの力だわ。どう? 私と魔法少女のユニットを組まない。少女同士ピッタリでしょ」
「いや、ボク男なんだけど」
「え~。その姿似合ってるわよ」
指摘されて、ボクが着用している服装に気が付いた。覇王と茶番を繰り広げた時の女装姿のままだったのだ。裾を押さえて内股になる。
「あ、あんまり見ないでください」
「いいじゃん。似合ってるわよ」
笑いながらボクの肩を叩いてくる。もう、後で絶対いじられるじゃん。
ふと、幼馴染の方に視線を移すと、怨嗟が籠った表情で爪を噛んでいた。まずい、華怜のはらわたが過熱を始めている。煮えくり返る前にフォローしないとまた面倒なことになってしまう。
「ねえ。いくら部活の先輩後輩だからって、仲良すぎない? さっきからいちゃついているようにしか見えないんですけど」
「ああ、あなたもいたわね。あれれ、もしかして嫉妬しちゃってるの。可愛いわね」
どうしてわざわざ発破をかけるかな。華怜の額にしわが寄ってるよ。
「今回はうやむやになったけど、あんたとの決着はきっちりつけさせてもらいますからね」
仲間に宣戦布告してどうするんだよ。華怜のことだから、引き分けってのが一番納得がいかないだろうけどさ。
「まだやるつもり。あのままやっていたら私の方が勝っていたってのは明白じゃない。身の程をわきまえた方がいいわ」
そして、渚先輩も売り言葉に買い言葉を仕掛けないでください。
「彼の者曰く、弱者に無謀な戦いを挑む資格なしってね。そこそこやるようだけど、ダイヤモンドに比べるとひよっこじゃない。もうちょっと修行した方がいいわよ」
「言ってくれるじゃない。いつか泡噴いても知らないからね」
犬と猿というか、虎とドラゴンというか。どうしてこの二人って反りが合わないんだろう。
「バンティー、二人をどうにかできないの」
「俺っちは妖怪じゃないから、なんでもかんでも俺っちのせいにしないでほしいバ。魔力適正だけを見て魔法少女にしているから、人間関係は専門外だバ」
「そんな、無責任よ。サファイアをクーリングオフできないってわけ」
「人を物質扱いするなんていい度胸ね。ならば、あなたはさながら粗大ごみってところかしら。バンティー、廃品回収の日を調べてくれない」
「誰がゴミよ。この胸デカ女」
「貧乳が粋がってて可愛そうね」
「キーッ! むかつく!!」
「もう! すぐに喧嘩しないでよ!」
一応心強い仲間ができたってことになるけど、前途多難すぎる。せめて、世界で有名な猫とネズミみたいに仲良く喧嘩できないのかな。
ギャーギャー喚いていると、バンティーがおずおずと切り出した。
「ところで、君たち何かを忘れているんじゃないかバ」
「別に忘れているものなんかないわよ。華怜の乳じゃない」
「あんたねえ」
だから、渚先輩はいい加減にしてください。でも、忘れているものか。うーん、何かあったっけな。さっき出てきたダイカルアの怪物は先輩がきちんとやっつけたし。
ん? ダイカルアの怪物? 今日出てきた怪物って豚だったよね。豚、焼き豚、チャーシュー……。
「あああああああああああああああああああああああ!!」
「どうしたのよサキちゃん。いきなり大声出して」
「いけない、すっかり忘れていたよ。早く助けてあげなきゃ」
ボクとしたことが。ぽっかり頭から抜け落ちていたよ。




