魔力の暴走とヴァルサファイアの正体
ようやくヴァルサファイアの正体が明かされます。
勘のいい人ならもう分かっていたかな?
「このままチンタラ殴り合ってもキリがないわね。悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ」
一旦距離を取ったルビィは両腕に魔力を蓄積させる。愛刀のディザスカリバーがひときわまぶしい輝きを発している。刀身が巨大化しているのは気のせいではないはずだ。ちょっと、いくらなんでもその魔法はダメだよ。
サファイアも相手が仕出かそうとしていることを察知したようだ。うろたえることなく、同様に両手の先に魔力を集中させている。得意のつららを発射する魔法だけど、弾丸がいつもより巨大だ。もはや、つららというかドリルをぶつけようとしているみたいである。
「いい加減にするバ。魔法少女が本気の魔法をぶつけあったりしたら周辺被害はすさまじいことになるバ」
「じゃあ早く魔法を引っ込めなさいよ、サファイア」
「それはこっちのセリフなんですけど。あんたが降参すればいいじゃない」
「嫌よ。ここまでやって諦められるものですが」
「もう、分からずやね。いい加減にしないと本当にぶつけるわよ」
ダメだ。二人とも意地になって魔法を引っこめる気配はない。このままじゃ共倒れになってしまう。
二人を止めるにはこの力を使うしかないのか。でも、ボクもまた暴走してしまう危険がある。ボクの手で二人を傷つけることになるなんて嫌だ。
でも、何もしないまま二人が傷つくってのはもっと嫌だ。二つの強大な魔力がせめぎ合う渦中に飛び込むなんて自殺行為に等しい。けれども、やるしかないんだ。
膝が笑って仕方なかったけど、ボクは両手を広げて二人の前に立ちふさがった。
「ちょっと、やめなさい優輝。あんた、そんなところにいたらタダじゃ済まないわよ」
「そうよ。早く逃げて」
「嫌だ。二人が魔法を止めるまでどけない」
「それが、止められないのよ」
「くそ、不覚にも私もそうだ」
……え、どういうこと。
「本格的にまずいことになったバ。調子に乗って魔力を溜めすぎたせいで、二人の魔法が暴走してるんだバ。最悪、この空地が吹き飛ぶのを覚悟した方がいいバ」
自分の意思で停止させることができないってこと。バンティーが役に立たない以上、僕しか止められないじゃないか。
飛び込んでおいて今更だけど、全身が震えて仕方ない。傍から見れば矮小な愛玩動物みたいだっただろう。でも、窮鼠猫を噛むって言葉を知ってるよね。ボクだってやるときはやるんだ。
目をつぶってボクは高々とダイヤモンドを掲げた。
「ダイヤモンド!? まさか、あなたが……」
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーダイヤモンド!」
変身の呪文を詠唱すると、まばゆい光とともに、ボクはヴァルダイヤモンドへと変身した。
「ええ!? ちょ、ちょっと、サキちゃん!? あなた、どうして変身できるの」
サファイアが激しく動揺している。手元に呼応して、巨大つららも左右に大きくぶれている。
「優輝、速くどいて。いくら変身しても私たちの魔法を受けたら無事じゃ済まないわよ」
ルビィはどうにか軌道を変えようとする。ボクは咄嗟に首を振った。
「変な所に魔法を撃ったら被害が大きくなる。だから、ボクに向けて撃ってほしい」
「あなた、正気なの」
「そうよ。優輝を攻撃するなんて、できるわけないじゃない」
「いいから。ボクを信じて」
正直、自ら矢面に立つなんて嫌だよ。でも、事態を収めるためにはボクに魔法を集中させる必要がある。恥ずかしながら、中学生にもなって失禁しそうだよ。でも、ダイヤモンドが使えるあの魔法なら、状況を打開できるかもしれないんだ。
溜まりに溜まっている魔力は決壊寸前だ。ルビィたちが制御できるのも時間の問題だろう。その事実を悟っているのか、サファイアが語りかけた。
「本当に撃っていいのね。手加減はできないわよ」
「お願いします」
「あんたまでふざけたこと言ってんじゃないわよ。ねえ、優輝。お願いだからどいてよ」
ルビィが悲痛な面持ちで叫んでいる。しかし、
「いい加減にしたら。策も無しに私たちの前に飛び出してくるわけがないでしょ。それとも、あなたはこの子を信じられないってわけ」
サファイアにたしなめられ、臍を噛む。魔力が集中した剣を今にも取りこぼしそうであった。頼む、華怜。素直に作戦に乗ってくれ。
「ああもう! やってやるわよ。大地を穿つ大剣よ! 鋭利なる刃を以て貫け! 斬撃一貫」
巨大化したディザスカリバーで相手を一閃するヴァルルビィの必殺魔法。迫り来る刀身はさながらギロチンを想起させた。
そして、サファイアもまた必殺の魔法を発動する。
「身も凍りつかせる氷河よ! 刃となりて悪しきを討て! 鋭閃絶氷」
こちらは巨大なドリルのようなつららがボクを貫こうとしている。圧倒的なまでの魔力の奔流に、逃げ出そうとしても腰が引けてしまっていた。
ただ、逃走しては作戦がおじゃんになる。だから、その場にとどまっていられたのは僥倖だった。まあ、喜んでばかりもいられない。一歩間違えれば大怪我の危険な賭けをしているからな。
「ありがたき祝福よ! 彼の者たちに降り注げ! 全治全能」
天空から降り注ぐ柔らかな陽光。矛先はボクだ。効果のほどは把握していないけど、バンティーの話だと最強クラスの回復魔法のはず。なので、ボクが身代わりになって自分自身に回復魔法を施せば被害は最小限にとどめられるはずだ。唯一欠点があるとしたら、当たったらものすごく痛いだろうな。
ルビィの刀とサファイアのつららとボクの陽光が同時に集結する。とてつもない迫力にボクは目をつむる。爆弾でも破裂させたような轟音が轟いた。
結論から言うと、何も感じなかった。攻撃軌道からして二人の魔法が命中したのは間違いない。そんな最中に回復魔法も無事に発動したのだ。一旦重傷を負ったものの、一瞬のうちに治療された。一引く一がゼロになる理論で、一切感覚に干渉しなかったというところだろうか。
無傷で済んだと分かったことで、ボクは全身の力が抜けてしまった。あまりにも無謀すぎる賭けだったもん。失敗したらどうしようって本気で思ったんだよ。ああ、成功してよかった。
安堵しているといきなりルビィに肩を掴まれた。必死の形相でボクの上半身を揺らしてくる。
「あなた、何考えてるのよ。無事だったからよかったけど、あんなの自殺行為じゃない。いくらなんでも無茶しすぎ」
「ご、ごめん。でも、華怜たちを止めるにはこうするしかなかったんだって。第一、ムキになって喧嘩しなければよかったじゃん」
この一言が会心の一撃となったのか、ルビィは二の句を告げなかった。それでもまだ発言したそうに口をもごもご動かしている。
「まったく、完敗ね。無茶苦茶なのは否めないけど、自分の魔法の特性を把握していなきゃ考え付かなかった策。お姉さんもびっくりだよ」
照れくさそうにサファイアは手を差し出す。ボクは破顔し、握り返した。接近したことで、サファイアの顔立ちをまざまざと観察することができる。やっぱり。どことなくだけど、あの人にそっくりだ。
「ちょっとあんたら。勝手に仲良くならないでよ」
「いいじゃない。友情を育むのも大切よ」
「っていうか、既に知り合い同士ですよね」
「……ありゃりゃバレちゃってたか。うーん、さすがにサキちゃんが変身するなんて予想外だったわ。っていうか、普通はありえないわよね」
「ボクもそう思いますけど、変身してしまったものはしょうがないです」
「あのさ。置いてけぼりにしないでくれる。サファイア、あんたの正体は誰なのよ」
これ以上ルビィを焦らさせるのも酷だ。サファイアはやれやれと嘆息すると、胸のブローチを取り外した。
「アーネストシール」
変身解除の呪文が紡がれる。サファイアの全身が光に包まれ、スタイリッシュな少女が姿を現した。ポニーテールが三つ編みに編み直され右肩に垂れ下がっている。変身中はどこに隠されていたのか不明だが、いつの間にか眼鏡がかけられていた。
「やっぱりあなただったんですね。渚先輩」
巷で噂のヴァルサファイアの正体。それは、ボランティア部の部長である渚先輩だったのだ。




