対決! ぷよよんぱ
盆で帰省していたりして、更新が遅れました
あまりにも納得がいかない敗北に、華怜は地団太を踏んでいる。しかし、そんな彼女に追い打ちをかけるように闇道化師は顔を切迫させてきた。
「約束しましたからね。あなたには石になってもらいますよ。全身を巡る血肉よ! 恐怖に慄き岩石と化せ! 眼魔石化」
闇道化師が眼をこれでもかというほど開く。直視した華怜は声をあげようとしたが、喉を絞められたかのように吃音しか発することができない。
停止させられたのは声に留まらなかった。数秒間直視されたのち、闇道化師が去っていくのだが、華怜はその場から一向に離れようとしないのだ。不穏さを感じ、ボクらは恐る恐る華怜へと近寄る。
「大丈夫、華怜」
彼女の肩を揺する。しかし、返事がない。無論、ただの屍ではない。即死したのではないことは、かすかに漏れ聞こえる呼吸音から分かる。それでも、華怜は微動だにしないのだ。
いたずら心を起こした昴が彼女の全身をくすぐる。こんないたずらをされたら、すぐさま殴り掛かって来るのが常だ。だが、いくらくすぐろうとも反撃されることがない。あまりの異常さに逆に恐怖したのか、昴は自発的に手を引っこめる。
「一体どうしちゃったの。レンちゃんが全然動かないんだけど」
「これが、これがあいつの魔法なんだ」
以前、闇道化師と対峙したことがある蘭子が臍をかんだ。そういえば、あいつは負けたら石にすると言っていた。ひょっとして、華怜がかけられている魔法がそうなのか。
「私めの得意魔法ですよ。相手に恐怖心とともに強烈な暗示をかけることで、全身硬直を引き起こすことができるのです。さて、まずは一人目のオブジェが出来上がりました。この調子であなた方全員を私めのコレクションに加えて差し上げましょう」
深々と腰を曲げるものの、ボクらは身震いしていた。奴が冗談を言っているのではないかと華怜の体を必死で揺らす。だが、彼女が反応を示すことはない。普段だったらすぐさま噛みついてくる渚先輩の悪口攻撃にも微動だにしなかった。挙句の果てに昴がお尻を触るという痴漢攻撃を仕掛けたものの、効果はないようだ。
あっさりと脱落者を出したことでボクらの士気はだだ下がりであった。それでも、渚先輩は頬を叩くと矢面に立った。
「今度はお姉さんが相手よ。そうね、あのゲームはどう」
指定したのは「ぷよよんぱ」というパズルゲームだった。いわゆる落ちゲーというやつで、ランダムに出てくる様々な色のスライムを同色で四つそろえていくのが基本となる。見事そろえることができたらそのスライムは消滅し、先にラインの一番上までスライムを積み重ねてしまった方が負けとなる。
公式で様々なコンボや裏技が搭載されているだけに、これで真っ向勝負して勝つのは困難だ。渚先輩も承知の上だろうが、あえて選んだということは秘策があるというわけだろう。
「心配しなくていいわよ。私、けっこうこのゲームをやりこんでるんだから。そんじょそこらの裏技なら返し技を知っているわよ」
パズルゲームが得意だったなんて、一応納得できる趣味ではある。もちろん、闇道化師も勝負を快諾し、お互い筐体の椅子に腰かけた。
渚先輩がミニスカの魔導士、闇道化師が魔王のキャラクターを選びゲームが開始される。ボクだったら単純に同じ色を揃えようとするけど、両者ともに最初はあえてスライムを消そうとしない。段々とスライムが積みあがっていき、観戦しているこちらの方がひやひやする。それでも、蘭子は冷静に戦況を眺めている。
「序盤は無闇にスライムを消そうとしないというのがこのゲームの基本さ。二人とも大量コンボを狙っているみたいだし」
素人目からすると無茶苦茶にスライムを並べているようにしか見えない。ただ、蘭子が言うにはある一手が起爆剤となってものすごいコンボが発生するのだそうだ。
スライムが画面半分を覆いつくした頃、先に渚先輩が動いた。
「彼の者曰く、やるときはタイミングが大事ってね。行くわよ」
赤色のスライムを一番右へと重ねる。すでに三つの赤スライムが重なっており、まずは四つのスライムが消える。すると、一緒に連なっていた黄色がすぐ下のスライムへと重ねり、二連鎖を達成する。
そこから先はピタゴラ装置もかくやという勢いだった。面白いようにスライムが消えていき、同時に連鎖数も増えていく。連鎖数に応じて、相手フィールドにお邪魔スライムを降らすことができ、コンボを阻害することができる。すでに八連鎖に達しており、相当数のお邪魔スライムを出現させられるはずだ。
結局、十連鎖を達成し、闇道化師のフィールドはほとんどがお邪魔スライムが埋め尽くされた。一方、渚先輩のフィールドはほとんど空だ。相手がお邪魔スライムの処理をしている間にダメ押しのコンボを決めることができれば勝利は確定だ。
「すごいよ、先輩。このゲーム強かったんですね」
「けっこうやっていたからね。四分の三ぐらいまでお邪魔を降らすことができれば後は楽勝よ」
すでに勝った気でいる渚先輩は鼻歌混じりだ。闇道化師は手早くスライムを並べていくが、画面一杯に達するのも時間の問題である。そして、いよいよスライムが最上部に達する。渚先輩は小さくガッツポーズをした。
だが、突如画面にポーズがかかった。アーケードゲームの筐体にゲーム内の時間停止なんて機能はついていないはずだ。無論、ゲンムの父親の能力のせいでもない。突然ゲームを停止させられ、渚先輩は困惑しながらボタンを叩いている。
「ちょっと、突然バグるなんて聞いてないわよ」
「これは失礼しました。十年以上前のゲームですから調子が悪いのでしょう」
そう言って闇道化師はボタンを操作する。不満を顕わにしながら渚先輩もゲームに戻る。しかし、画面を前に頬をひきつらせた。
「どういうこと、これ」
先輩が愕然とするのも当然であった。これはどう考えてもおかしい。
闇道化師の盤面ほとんどを埋め尽くしていたお邪魔スライム。そいつがすべて通常のスライムに変わっているのだ。お邪魔はいくら消してもコンボが成立しないが、通常になっていたとしたら訳が違う。至難の業ではあるものの、重なりに重なったスライムを一気に消された場合、渚先輩の盤面は一気にお邪魔スライムで支配されてしまう。
「ショータイムの始まりといきましょうかね」
一歩間違えれば自爆する局面にも関わらず、闇道化師に怖気は微塵もない。まさか、大量コンボを確信しているのか。
嫌な予感はすぐに的中した。「ぱよえ~ん」という間抜けな掛け声とともに、次々とスライムが消滅していく。コンボ数は渚先輩が打ち立てた十連鎖を軽々と超え、倍の二十連鎖に達しようとしていた。
「二十って、理論上の最高コンボ。狙ってできるもんじゃないって聞いたことがあるわよ」
「狙ってはできませんが、プログラムとして設定されている以上、再現はできる。別におかしなことはしていませんよ」
異常コンボの前におかしな挙動をしていたのを棚に上げ、嫌らしい笑みを浮かべている。次なるコンボ攻撃を仕込んでいた渚先輩だったけど、すべてが水の泡だった。コンボが終了した直後に振ってきたのは盤面の九割を覆うスライム。ゲーム開始直後でないと耐えることができない、事実上の即死攻撃であった。
試合終了し、先輩は筐体に拳を打ち付ける。納得できないのも道理だ。突然のポーズからのお邪魔スライムの消失。闇道化師が裏技を使ったのは間違いない。
「卑怯よ。反則技を使うなんて」
「難癖はやめてもらいたいですね。ゲームが古くてバグっただけかもしれないじゃないですか。それとも、意図的にポーズを起こせるのであれば教えてもらいたいものです」
あくまで白を切る闇道化師に先輩は二の句が告げずにいる。追い打ちをかけるように、闇道化師は先輩の眼を凝視した。
「全身を巡る血肉よ! 恐怖に慄き岩石と化せ! 眼魔石化」
また例の魔法だ。体育でお手本になるような気を付けの姿勢を取り、そのまま硬直してしまっている。呼びかけながら頬を指で突いてみるも、一切反応がない。華怜に続いて先輩までもが石化の餌食となってしまった。




