謎のゲーセンとパンチングキング
内部を一望してみたものの、とりあえずツッコみたかった。所狭しと並べられた筐体といい、ファミコン世代を想起させる電子音といい、この場所を形容するとしたらこうするしかないよね。
「ゲーセンかよ」
実際、スーパーのゲーセンで見かけたことがあるゲームもいくつか陳列されていた。それどころか、年代が十年ぐらい古そうなゲーム機も置いてある。
市営体育館並の敷地に所狭しとゲームがあるものだから、とにかくうるさい。壁の穴からこんなところに通じているなんて、魔法でも使わないとありえない。相手がダイカルアと判明している以上、魔法なのは確定的だけどね。
「驚いているようですね。ここにあるゲームは私めが趣味で集めたもの。古今東西、著名なゲーム機を取り揃えております」
「本当だ。インベーダーゲームまである」
蘭子がはしゃいでいる。インベーダーって、1970年代後半にものすごくブームになったゲームだっけ。そんなものまで確保しているなんて、どれだけ廃人なんだ。
疑似ゲーセンに出鼻を挫かれてしまったが、敵の本拠地の真っただ中にいることは間違いない。どこに罠が仕掛けられているか分からないから注意しないと。身構えていると、闇道化師が大手を広げながら近寄ってきた。
「私めとの勝負はゲームの五番勝負といきましょうか。ここにあるありとあらゆるゲーム。そこから好きなものを選んで私めと勝負していただきます。ゲームに関しては素人の集まりでしょうから、ハンデとして私めに一勝でもできたら勝ちとします」
「随分と自信があるじゃない。なら、まずは私が行くわ」
「だから、一番手はぼくだかんね」
「いや、相手の手の内が分からない。万全を期すために蘭子を大将に据えた方がいい」
いきりたっていた蘭子だったが、昴にたしなめられて大人しく引っこむ。安易に華怜が人身御供にされているけれども、最強の戦力である蘭子を温存しておきたいというのは道理ではある。
華怜は普段あまりゲームをやらないみたいだけど、一体どのゲームで勝負を挑むつもりなのだろう。あちこち見て回った末、一台のゲーム機の前で立ち止まった。
「決めた。これで勝負よ」
えっと、パンチングキング。筐体の真ん中にボクシングのグローブが設置してあり、液晶画面には二桁の数字が表示できるようになっている。大体90年代の初頭に製作されていそうなちょっとレトロなゲームだ。
っていうか、これってパンチ力、つまりは膂力を競うゲームだよね。
「華怜、どうしてこれを選んだの」
小声で尋ねてみると、あっけらかんとして答えた。
「相手はゲームオタク。ならば体力は大したことがないはずよ。ならば、単純に力比べで勝敗が決まるゲームなら私が有利じゃない」
さすがは華怜。肉体言語で勝負を挑もうという魂胆だ。しかし、作戦としては筋が通っている。道化師の外見はお世辞にも筋肉質ではない。むしろ、スラリとして軟弱そうではある。筋力で勝負をかけるのなら、剣道で鍛えている華怜の方が断然に有利だ。
シャドーボクシングをして華怜は機械と向き合う。「アーユーレディ」とレトロゲームにありがちな陳腐な英語音声が流れる。唯一の不安点は華怜もまたこのゲームに初挑戦ということだが、ただパンチをするだけならば戦術もクソもないだろう。
腕を大きく一回転すると、腰を落として的に狙いを定める。ここがナメック星ならかめはめ波を発射しそうな勢いだ。幼馴染として忠告しておく。パンチングキングさん、逃げて。
「チェスト!!」
現役剣道部員の腹の底からの気合。勢いもそのままに的へと強烈なパンチが叩き込まれる。
交通事故でも発生したかのような爆音が響き、マシンのメーターが勢いよく回転する。人間のパンチではありえない音がしたよね。呆気にとられていると、マシンが成績をはじき出した。
「エクセレント!」
くぐもった電子音と共に表示された点数は98点。デフォルトになっている99点に迫る高得点だ。いや、あのデフォルト点数って理論上の最高値で普通にやっては出ないはずだよね。昔のゲームだからバグってるとも思ったけど、ありえない爆音を聞いた後だと本当に叩きだしたと信じる他ない。
「大したものです。このゲームで90点以上はプロレスラーでも難しいとされていますのに」
「暗にプロレスラーより腕力が強いと証明してるわよね」
渚先輩、わざわざ指摘する必要性はないと思います。当人は高得点を出してご満悦で聞いていないが。
ともあれ、闇道化師が勝つなら99点を出すしかなくなった。ゲームのオーナーとはいえ、最高得点を叩きだすのは至難の業だろう。もしかして、もう決着してしまったか。
「あなたがここまでやるとは予想外でしたよ。では、私めの番ですね」
軽く肩を回すと筐体へと向き直る。「アーユーレディ」という電子音とともに的が起きあがった。のらりくらりとだらしなく腕を揺らす道化師に、ボクらの間から失笑が漏れる。まさか、攻略不可能と悟って戦意喪失したか。
そのまさかだった。繰り出されたのは弱々しい気の抜けたパンチ。猫パンチの方がまだ強力そうだ。勝ったな、ガハハ。殴るというよりも触るといったほうがふさわしい一撃を受け、メーターが勢いよく回転する。どうせ5点ぐらいが関の山だろう。
しかし、一の位が指し示した数字は「9」であった。いや、まだだ。たった9点で華怜の圧勝に違いない。だが、淡い期待はすぐに裏切られることとなった。
「ありえない。あんなしょぼいパンチでどうしてこんな点が出るのよ」
華怜が瞠目している。ボクらもまた、表示された得点に言葉を失っていた。闇道化師が獲得した点数。それは「99点」だったのだ。
「この機械壊れてるでしょ! どうやったら幼稚園児以下のパンチで最高得点なんか出せるのよ」
納得がいかない華怜は吼えかかる。どこぞのパンチ一発で宇宙人を葬り去れる禿げ頭のパンチを見せられたのならともかく、一切やる気がないパンチでは納得がいかない。それはボクらも同意だった。
ブーイングを浴びせかけられた闇道化師はひょうきんな態度で説明した。
「どうやら、あなた方はこのゲームの裏技を知らないようですね」
「裏技だって」
単純なゲームの筆頭格であるパンチングキングに裏技なんて存在するのか。
「のちに製造されたバージョンでは修正されたようですが、90年代初頭に製造されたこの筐体には致命的なバグがあるのですよ。プレイヤー1側の的の左端を一定の力量以下で叩いた場合、強制的に最高得点が出せるのです」
「そんなんインチキじゃん」
蘭子がすかさず吼えかかる。だが、闇道化師は悪びれることなく胸を張った。
「私めは裏技を使ってはいけないと言ってはいませんよ。ゲームの攻略法を知っているか否か。勝負は既に決まっていたようなものです」
挑んでおいて後の祭りだが、相当厄介な展開になってしまった。相手は設置してあるゲームの裏技までも熟知している。つまり、相当やりこんだゲームがないと土台にすら立てないというわけだ。




