闇道化師登場
迎えた決勝戦だが、正直出来レースだった。師弟対決でまさかの逆転劇。なんてドラマを期待したものの、現実はそう上手くできていない。
長期戦に持ち込んだ準決勝とは一変して、序盤から容赦なくモンスターを繰り出してくる蘭子に防戦一方となってしまっている。大山のドラゴンを出そうにも相手の盤面が充実しすぎており、処理を優先せざるを得ないのだ。
ようやくドラゴンを出せそうというタイミングで、蘭子はにやりと口角をあげた。
「奮戦してきたのは認めてあげるけど、ぼくの切り札を出しちゃうね。グレゴリアスドラゴンを召還」
一歩遅かった。相手の場にはモンスターが3体いる。よって、攻撃力500で召還酔いすることなく攻撃できる。
「一斉攻撃」
おまけにボクの場にガーディアンはおらず、まともに攻撃を受けてしまう。これが致命傷となり、敗北を喫することとなった。
優勝賞品のプロモーションカードを手に悦に入っている蘭子。相手が悪かったとはいえ、ここまで来たからには勝ちたかったな。
肩を落としていると、昴に小突かれた。傷口に塩を塗るような真似をしそうで身構える。
「カードゲームの結果で一喜一憂している場合ではない。本当の勝負はここから」
その言葉でボクは気づかされた。ゲーム大会の上位入賞はあくまで副次的目的でしかない。生唾を飲みこみ、周囲を窺う。会場内は更にごった返しており、不審人物が混じっていたところで藪に紛れそうだ。
騒ぎが収まるまで会場に留まっていたが、結局目当ての人物と遭遇することはできなかった。さすがにショップ店内で勧誘行為をするほど大胆ではなかろう。
諦めかけて、連れ立ってショップを後にする。
「やっぱり、闇道化師なんて都市伝説だったんじゃないの」
「そんなはずはないよ。この目で確かに見たんだから」
懐疑的な渚先輩に対し、蘭子はいきり立って主張する。全国津々浦々で目撃されている不審人物が都合よくボクらの町に現れるなんて、まさに天文学的確率だ。だから、さほど期待を寄せずに歩んでいた。
そして、人通りの少ない一角に差し掛かった時である。凄まじい悪寒に襲われ、ボクらははたと足を止める。幽霊の類が出るには時期尚早だ。魔法少女が幽霊を怖がっていては本業を全うできそうにないけど。幽霊嫌いの魔法少女は一応いるみたいですが。
遠方よりコツコツと地面を踏み歩く音がする。タップダンスでもしているのか無駄に軽快だ。サーカス会場ならまだしも、近所迷惑にしかならない町中でダンスをするなど、無駄に警戒を高めざるを得ない。
女性陣五人におしくらまんじゅうをされるというある意味羨ましい状況の中、ついに不審人物が姿を顕わにする。
おしろいを施しているかの如く、顔面全体が真っ白。そんなキャンパスに色とりどりな星や丸が描かれていた。赤と白のモコモコとしたクラウン衣装に、謎の足音の原因となった黒のブーツを履いている。あまりにも場違いな格好に、却って恐怖心が刺激される。
さすがに慄く一同だったが、最も恐慌しているのは蘭子だった。無意識とは思うが、ボクの袖をしっかりと握っている。いつもお気楽の彼女がこの上なく身構えているのだ。話題の渦中にある闇道化師というのは間違いない。
怪しげに佇む道化師だが、突如執事よろしく深々と一礼をした。
「初めてお見知りおきします。私めは闇道化師と申します」
名前、そのままかよ。通り名かと思っていたけど、まさか本当に名乗ってくるとは。
「闇道化師ってふざけた名前しているわね。私たちに何か用? 妙なことをするなら警察を呼ぶわよ」
先導して煽りをかけたのは華怜だ。生理的に萎縮している他四名とは違い、堂々と矢面に立っている。
勢いの良さに怯んでもおかしくはないのだが、闇道化師は反対に鼻で笑い飛ばした。
「警察ですか。そんなものが役に立ちますかね。私めをどうにかしたくば、魔法少女でも呼べばいいでしょう」
「魔法少女」なんて単語が飛び出し、余計に警戒心を強める。よもや、こちらの正体がバレているのか。いや、蘭子以外は初対面のはず。しかも、エメラルドが誕生する前に出会ったというから、既に正体を知っているとは考えにくい。つまりは、ハッタリで探りを入れているのだろう。ならば、相手の挑発に乗ってたまるか。
とはいえ、相手の異様な雰囲気は相変わらずだ。返答に窮していると、闇道化師は瞠目して指差した。
「おやおや。そちらのお嬢さんはどこかでお会いしましたね。確か、とある少年をコレクションした時に一緒にいたような」
「やっぱり、兄貴を知っているのか。兄貴をどこへやったんだ」
「あやつの妹でしたか。なるほど、兄妹そろってコレクションするというのも一興。さっそく餌食にさせてもらいますよ」
近寄ってくるバンティー以上の不審人物に、自然と後退する。
だが、こちらも負けてはいない。華怜はバックから護身用として携帯しているおもちゃの剣を取り出す。そのまま肉弾戦となった時に少しでも戦力にするためとっというのは表向き。真の目的はヴァルルビィになった際にディザスカリバーの媒介とするためだ。ちなみに、十八ニンジャ―の一レッドの主力武器「アカカリバー」だったりする。ネーミングがひどいな。
迫り来るピエロにおもちゃの剣を向けるというシュールな局面が繰り広げられている。すると、闇道化師は懐よりカードの束を取り出した。絵柄を目の当たりにしてボクらは息を呑む。見間違えようが無い。あの意匠はデュエウィザだ。
「君たちのことはずっと拝見していました。デュエウィザがお強いのですね。カードゲームの大会で優勝できるということは、ゲームの腕も相当ということでしょう。ここはひとつ、私めと勝負していただけないでしょうか」
「ちょっと待って。どうして私たちがデュエウィザが強いと分かるのよ。それに、ずっと見ていたって、あんたあの会場にいなかったじゃない」
渚先輩が目ざとくかみつく。わざわざ追及するべきことでもなさそうだが、確かに疑問ではある。
感心したようにため息を漏らすと、闇道化師は腕を組んだ。
「単純な話です。ずっと見ていたのですよ」
「だから、会場のどこにいたのよ。ピエロの恰好なんかしていたら目立つでしょ」
「会場にはおりません。しかし、しかと目に焼き付けておりました」
どういうことだ。会場にいないのに見ていたなんて。こういうとき、「あれれ、おかしいぞ」なんて惚ける眼鏡の小学一年生がいたら助かる。
疑念を抱えたまま膠着状態に陥る。状況を打破したのは、闇道化師のあっけらかんとした一言だった。
「簡単なことだ。あの会場にはスパイがいてな、逐一情報が送られていたのだよ」
「スパイだって。そんな、一体誰が」
「フフフ。ダイカルアの信者が全国に何万人いると思っている」
自らダイカルアと明かしたことで、余計警戒心を強めることとなる。そんじょそこらのガキがシーホースカルアになるご時世だ。信者である子供を唆し、ターゲットになりそうな者がいないか逐一報告させていたのだろう。
「与太話はこれくらいでいいだろう。私めの噂は聞いているはず。もし、バトルを拒めば問答無用でコレクションに加えてやろう。さあ、どうする」
選択肢を与えているようで、実際は戦うしかない。相手は奇術師だ。尻尾を巻いて逃げようものなら、先回りされるのが関の山である。そもそも、こちらには逃げるなんて毛頭考えてはいない。
なおも威嚇を続ける華怜を差し置き、蘭子が最前列に躍り出る。
「兄貴の仇は討たせてもらうかんね。ぼくが相手だ」
「いや、私が相手よ。あんなふざけたやつ、野放しにしておけるものですか」
「こういうのはお姉さんに任せるのが筋じゃない」
「私が行く」
ちょっと、こんな時に喧嘩しないでよ。闇道化師が呆れかえっているじゃないか。
ため息を吐きつつ、闇道化師は指を鳴らす。すると、すぐ傍の壁に人間一人が通れそうな穴が穿かれた。中の様子は窺い知れないけど、変哲の無い町中に続いているということだけはなさそうだ。
「そちらは五人もいるのです。せっかくですから、まとめて相手をしてあげましょう。どうぞこの穴にいらしてください」
執事よろしく前屈みになる。いらっしゃいませと言われても、どう考えても罠だ。そう易々と入場するなんて愚策だ。
なんて、身構えていたけれど、
「よし、一番乗りはいただきだ」
「ずるいわよ、私が先」
蘭子と華怜が我先にと穴の中へと突撃していく。ダメだ。あの二人には警戒心なんて言葉は縁もゆかりもない。
蘭子たちが勝手に突入してしまったため、ボクらも躊躇しているわけにはいかなくなった。「彼の者曰く、虎穴に入らずんば虎子を得ずってね」と渚先輩も覚悟を決めているし。蘭子のストッパーである昴も入るのを辞さないだろう。
ええい、もうどうにでもなれ。半ばやけになりつつも、ボクは謎の空間へと足を踏み入れた。




