決戦! VS破戒帝ゼニオス
最強クラスの蘭子と対戦を続けてきたお陰か、ほとんどの相手が大したことないように思える。そりゃ、全く苦戦しないわけではないけど、面白いように対応策が頭に浮かんでくる。そして、あれよという間に準決勝まで躍り出るのであった。
「ほう、この俺に挑むか。友人とはいえ容赦はしないぞ」
腕組みをしてラスボスを気取っている友人。よりによって、対戦相手は覇王か。蘭子は別グループだから途中で当たることはないと安心していたけど、こいつは想定の範囲外だった。
おちゃらけてはいるが、蘭子と対等に戦えるだけの強敵。カードゲームの大会でもすでに名を連ねている。正直、勝てる見込みは薄い。
でも、公式大会初参戦のボクが打ち破ったとなれば、闇道化師が黙っていられるはずはない。ここで勝てれば本来の作戦が達成できるめどが立つ。
不敵に佇む破戒帝ゼニオス、否、覇王を前にボクは生唾を飲む。実質上のラスボス相手にデッキを切る手にも汗が滲む。
そして、いよいよデュエルスタートだ。
「ボクのターン。妖精からの贈り物を発動。マナを加速させる」
「ランプ戦術の基礎を学んできたようだな。ならば俺は堅牢たる悪魔を召還」
「そっちは相変わらずグラトニーを主軸としているみたいだね」
「俺の悪魔族デッキは最強だからな」
決して誇大表現ではなく、モンスターを展開してもすぐさま除去されてしまい、なかなかダメージを与えることができない。そのせいで、意図しなくとも長期戦に持ち込まれてしまう。だが、強力なモンスターを繰り出せる終盤はボクの主戦場だ。
十分にマナが溜まり、おあつらえ向きに大山のドラゴンを引いた。よし、攻め込むぞ。
「ボクのターン、大山のドラゴンを召還。ボクの切り札だ」
大山のという冠詞が付いているのにふさわしく、巨体を誇示し、鼻息を吹き荒らす。さあ、どう攻める。
「調子に乗ってミスを犯したな。俺のデッキの前に巨大獣を素出しするなんて、愚の骨頂だぜ」
「なんだと」
「我が僕の餌食となれ! 暴食王グラトニー召還」
巨大な牙を剥き出しにした肥満の魔人が登場する。大顎を開くと、ドラゴンの巨体が吸い込まれていく。
警戒はしていたつもりだけど、既に手札に握っていたか。折角の巨大獣もすぐに除去され、おまけに相手の場には攻撃力1100、体力700の化け物が居座っている。残りライフが1000以下のボクがグラトニーのダイレクトアタックを受ければ即ゲームオーバーだ。
「よもや六ターン目にドラゴンを出してくるとはな。返しにグラトニーを握っていなければ危なかったぞ。だが、これで形勢逆転といったところだ。さあ、どうする」
煽ってきてうざいけど、手札にあんな化け物を倒せるカードはない。盾持ちで時間稼ぎをしようにも、相手のデッキは除去カードのオンパレード。グラトニーそのものを倒さなければボクの負けとなる。
打開策はデッキトップに託されている。頼む、グラトニーを倒せるカードよ、来てくれ。
「その様子だと、次の引きに賭けているようだな。だが、現実はカードゲームアニメのように甘くはないぞ。さあ、潔く諦めてサレンダーするのだ」
セリフがカードゲームの悪役っぽいぞ。なおさらこんなところでサレンダーするわけにはいかなくなった。見てろよ、ボクの底力を見せてやる。
「ドロー!」
勢いよく一枚目をめくる。どうだ、何を引いた。この状況を突破できる切り札……。
「来た! 暴虐のドラゴンを召還」
「まさか、そいつを入れているだと」
漆黒のドラゴンが咆哮とともに魔神へと牙を向ける。いくらパワーを強化しようと、ドラゴンの前では無意味だ。
「漆黒のドラゴンは召還時にモンスターを一体除去できる。当然、グラトニーを破壊する」
まさに形勢逆転。相手の巨大獣を葬り去ったことで、戦況はこちらに傾いてきている。漆黒のドラゴンもマナコストが高いので、他のカードがプレイできないのは痛い。でも、グラトニーを瞬殺できたのは大きいぞ。
「調子に乗っているようだが、グラトニーが倒されるぐらいは想定の範囲内だ。呪文、死への導き。こいつはモンスター一体を確定で除去できる。消え去れ、漆黒のドラゴン」
返しのターンでいきなりドラゴンを倒されてしまう。さすがは除去カードの宝庫。すんなりと攻めさせてはくれないか。
その後も一進一退の攻防が続き、山札の残り枚数も少なくなってきた。ライブラリアウト(山札切れ)になっても負けてしまう。あまり手をこまねいている時間はない。幸い、手札補充を多用している覇王の方が先に山札切れになりそうだ。でも、ボクの残りライフも残りわずか。できればモンスターの力で押し切りたい。
「この俺相手にここまで粘ったのには誉めてやろう。だが、ビートダウンの性かお前の手札は残り一枚。俺の五枚の手札には除去カードがわんさか眠っている。果たして攻めきれるかな」
「そんなのやってみなくちゃ分からないよ。ボクのターン。山札より引き寄せた灼熱に潜みし者マグマジンを召還。ライフポイントを200支払い、攻撃力1300の巨獣を出す」
マナコストも10という破格のモンスターだ。おまけに体力も1000あり、簡単には除去できまい。
こいつを倒すなら、攻撃力1000以上のモンスターをぶつけるか、確定除去を使うしかない。並のデッキならば対処困難だが、相手が悪かった。
「さすがの俺でもマグマジンは倒せないと踏んだのだろうが、読みが甘かったな。二体目のグラトニーを召還する」
「二枚目だって!?」
最高レアカードを複数枚積んでいるとは。あっという間に溶岩の魔人は破壊され、おまけに覇王の場には攻撃力1400、体力1100の化け物が登場する。正直、こんなのを倒す手段はデッキに残されていない。資産不足で漆黒のドラゴンは一枚しか入れていないし、攻撃力1000以上のモンスターは出尽くしている。
返しのターンでグラトニーの直接攻撃を受けたらボクの負けだ。なので、このターンでグラトニーを倒すか、勝負を決めるしかない。幸い、あるコンボに使用するカードは手札に残っている。あとは必要となるあのカードを引き寄せるだけだ。
「何回も奇跡は起きんぞ。潔くサレンダーしたまえ」
手札を扇子のようにして、覇王は嘲笑するように仰ぐ。高飛車な態度のまま終わらせて堪るか。
目をつぶって、勢いよくカードを引く。手元に舞い降りたのはアンコモンのカード。使いどころが難しく、普通なら切り札にはなりえない。でも、現状況では頼もしい一枚であった。
ふと、蘭子との特訓の一場面が蘇る。デッキ構成について相談していた際、あるカードを渡されたのだ。
「ランプ戦術のミラーとなると、相手の巨大獣にも対応しなくてはいけない。確定除去は軒並み高コストだから、無闇に入れるとデッキ事故の元になっちゃう。だから、低コストで巨大獣に対応できるカードを入れるのがコツだよ。
そこで、このカード。除去とは違うけど、うまい具合に使えば相手の意表を突ける面白い一枚さ。こいつを使いこなせれば一流と認めていいかもね」
ボクも当初は役に立つのかどうか懐疑的だった。でも、よもや土壇場で救世主となってくれるとは。意外なカードが活躍するからこそ、カードゲームは面白い。
「勝負だ、覇王。ボクはミラージュキャットを召還する」
「なんだ、そのカードは」
覇王が素で驚くのも無理はない。採用率が低すぎて、公式大会ではまずお目に掛かれないカードだからだ。
「ミラージュキャットの特殊能力発動。相手の場のモンスターを一体選択し、その攻撃力と体力をコピーする。対象とするのは暴食王グラトニーだ」
鏡を抱えた子猫が手元の鏡で魔人を映し出す。途端、子猫の攻撃力と体力が急上昇する。可愛らしい外見に似つかわしくなく、その体力は1100。攻撃力に至っては1400だ。
「なるほど、相手の巨大獣の能力を利用する作戦か。だが、そいつは召還酔いしている。次のターンが回れば、最悪グラトニーで相討ちにできる」
「いや、次のターンは回ってこない。残ったマナを使い、突撃隊長オオハヤブサを召還する」
場に繰り出されたのは、ゴーグルを被った二足歩行の隼であった。こいつを前に覇王の表情が曇る。ボクが意図しているコンボに気付いたのだろう。
「オオハヤブサの効果発動。自身の速攻能力を犠牲にする代わりに、任意のモンスターに速攻を付与する。これにより、ミラージュキャットはこのターンに攻撃可能となる」
相手モンスターの高ステータスを利用し、速攻でぶつけるコンボ。必要となるマナ数が多い上、相手の場に依存するため実用性は低い。しかし、嵌まれば強力無比。蘭子より伝授されたボクのデッキの隠し玉となる切り札だ。
余裕綽々だった覇王だったが、必死に手札を探る。しかし、ミラージュキャットの攻撃準備は着々と整っている。
「フィニッシュだ。ミラージュキャットでダイレクトアタック!」
鏡を片手に突進する子猫。このまま覇王まで突撃できればボクの勝ちだ。
しかし、直前になって魔人が立ちふさがる。
「グラトニーでブロック」
しまった。グラトニーはバランサータイプ。状況によっては攻撃をブロックできる。一方的に倒せはしたものの、千載一遇の勝機を逃してしまった。
オオハヤブサに攻撃権はないため、自動的に覇王のターンとなる。ミラージュキャットを倒されたら一巻の終わりだ。ボクは祈るように手を合わせる。
落ち着いた様子で覇王は山札の一枚目をめくる。どうだ、あいつには五枚の手札がある。その中に能力値1000を超えるモンスターを倒す手段があるのか。
すると、肩を落とし、デッキトップに手を置く。まさか。信じがたかったが、次の覇王の言葉が疑念を確証づけた。
「サレンダーだ。よもや、この俺を倒すまでに急成長したとはな」
こぼれ落ちた手札が丸見えになっていたが、体力1000オーバーのモンスターを倒せるカードは存在していなかった。やむを得ずグラトニーを防御に回した時点で勝負はついていたということになる。
予想外の幕切れにしばらく実感が沸かなかった。けれども、勝利を確信し、ボクは雄たけびをあげた。よもや、本当に決勝戦まで勝ち残ってしまうなんて。
奇声を聞きつけたのか、蘭子が駆け寄ってきた。
「ゼニオス君に勝ったんだね。いやあ、特訓の成果が存分に発揮されたようでうれしいよ」
「正直ボクも勝てるとは思ってなかった。でも、本当に決勝まで残るなんて。これも蘭子のお陰だよ」
「いやあ、面と向かって褒められると照れるな」
後頭部を掻きながら、せわしなくアホ毛を揺らしている。なんか、犬の尻尾みたいだな。
「それで、決勝戦の相手は……」
「天才ゲーマーLだね」
「え!?」
ミラージュキャットの元ネタはシャドバのハンサです。無謀なる戦と一緒に使うと相手プレイヤーにぶつけることができます。




