『自浄作用』〈上流階級の仕事〉
◆◇◆◇◆
「先に行っててくれ、直ぐ戻る」
「私は憲兵を呼んでくる」
オズバーンさんとブライトネスさんが列から抜けて会場と詰所へと向かう最中、決闘場の施設から出たところに『それ』がいた───『支援詐欺』の暫定犯罪者
「待ちなさいグダス・ケントール」
「…」
往来の真ん中、レノアさんが5人組の一団を呼び止める───近くで催されていた大会のこともあり別段不思議な様子は見られない様に見えるものの、その実情を【鑑定眼】で見ている僕にとってはあまりに惨い空間であり、経験によりそれを感じとっているルナさんも同様に顔を顰めた
「何故呼び止めたか、分かりますね?」
「さっぱりだな」
◆【強気の子爵家】
レノアさんは伯爵家の令嬢だ。そんな人に対する言葉遣いではなかった。しかし、その心意は彼の口から語られた
「一般審査員が何を正義は我にありとか
思っちゃってるわけ」
『一般審査員』───今回僕が応募した枠のことだ。その性質上、侯爵からの直接依頼とは違う。詰まるところ『家柄』を盾にしているのだ
「呪いの装備を今すぐに提出しなさい
そうすれば家の名には
傷がつくことはないでしょう」
しかし、困ったことにレノアさんは『伯爵家』───それも依頼された側の人だ。どの方面から見ても勝てる要素はなかった
「呪いの装備を使っていると言う証拠は?」
「証拠なら───」
「まさか鑑定眼で、なんて言いませんよね?」
「…」
◆【鑑定眼詐欺】
『鑑定』を持っている。それは『物の価値を見定める』ことができると言うこと───ただの石であろうとも『宝石』と言ってしまえば『価値』を付与できる。これが鑑定眼詐欺だ
転じて『怪しい』ことに『白/黒』を設ける場合に、その発言権の強さは言わずもがな───近年問題になっている
「───まさか、あの時『鑑定』をされて
それを間に受けたなんてことはないでしょう?」
◆【小賢しい】
「そうですね。確かにこちらの審査員が
鑑定結果を偽っている可能性も
考えなくはありませんでした」
ケントールが鼻で笑った───確証や証拠もなしに拘束を行うことは先ずできない。それができてしまっては『怪しきは死』ができてしまうからだ
「なら、もう行ってよろしいですか?」
「…」
ことを急いてしまったのか───人を小馬鹿にした様な笑みを浮かべたケントールが振り返り歩き出そうとした瞬間、憲兵にいく手を阻まれた
「ですので第三者機関。とまではいきませんが
鑑定眼を持っている確かな証拠を
この場に召喚致します
それまで拘束させて頂きます」
「ッチ」
ケントールは髪をかきあげ、レノアさんへと近づいていく───僕は半身を突き出し、それに割って入った。レベル差があろうとも人数による有利はこちらにある
「何度も言わせんな。平民風情が
誰の許しがあって俺を拘束できんだ?」
「…まだ、察しがつきませんか」
◆【余裕の笑みが崩れる時】
ハーレム自慢大会の『仮面』がゆっくりと、下から上に持ち上げられる。その下にあった顔がグダス・ケントールの強気をたじろがせた
予想外とでも言う驚きっぷりだった。それは『平民』と呼んだ人物の正体が『伯爵家』───目上の存在だったことにより引き下がらざるを得なくなったためだ
知っていて犯す罪より『知らぬで犯す罪』は重罪となる───今回において、それは貴族基盤の社会の『法』よりも大切な『品位』の問題であり、それを欠いた行動。即ち獣が如き所業は『重罪』となり得る
「待って、頂けますね?」
レノアさんが仮面を脱ぎきり、ケントール子爵を睨みつけた
「…!!おい───」
「リーダー!」
「【解呪】!!」
グダス・ケントールが何かしようとしたのをいち早く察したルナさんが『2人』の装備に掛かっていた『呪い』を『相殺』した
しかし、『シャリー・ノルドア』の『解呪』ばかりは間に合わなかった───独特な武器による、第二次審査の1題目にも見せた『目にも止まらぬ斬撃』がルナさんの腹目掛けて放たれた
巨石を刹那に両断する一撃が生身に迫る
◆【『抑制』→『助成』】
【本心】
〈自己の感情表出を助成する〉
【100】
◆【1169】
「イ"っ」
「え…」
シャリーさんの武器の刃先が僕の手の側面から反対側の側面までを通っていく軌道を見た。そんな意識の加速の直後、熱にも似た痛みの感覚が数瞬で挟まった───小指の付け根の少し下辺りを滑る様に、骨などお構いなしに刃物が僕の手の甲の上をゆっくりと反対側へと滑っていくのを目の当たりにする
「───っ!」
痛みはどうにもならなかった。痺れと『失血』を無理矢理になかったことにするために【治癒】を使う───中指まで抜けていたそれにより、感覚がほんの少しの間だけ消失し、元に戻っていく、その感覚は『煮湯に手を突っ込んだ時の様なモノ』だった
◆【踏み込み、手を突き出て尚】
宙を舞う僕の人差し指、力無く垂れ下がる中指、手を抜けた武器はルナさんに迫って進み続ける───しかしながら、完全に無駄とはならなかった。肉の抵抗で僅かに速度の削がれたそれは回避の猶予を獲得するだけの隙を作り出せた
「…確保!」
失敗した。それでも人死にばかりは回避しなければならないとシャリーさんの武器を全力で壊しにいく───振り抜いた手を掴み上げ、ありったけの攻撃を武器に『集中砲火』する
『武器』も『呪いの装備』ながら壊す他なかった───グダス・ケントールを不問にしようともだ
◆【砕けた剣】
刃こぼれ、歪み、削れた果てに『折れた剣』をシャリーさんの手からひったくり、遠くに蹴飛ばした
「良かった…」
シャリーさんは『失神』となったものの、命に別状がある様子はなかった
「ノル殿!」
ルナさんが僕の人差し指を持っていた
「ルナさん…ありがとうございます」
「正気ですか!?【ヒールショット】!」
銃口を突きつけられ、引き金が引かれた───そ『白光』が飛び出し、僕の身体を包んでいく、全身に走っていた極度の緊張が解かれていくとルナさんに摘まれる形で傷口に人差し指が添えられた
それは徐々に感覚を纏っていくと『痺れ』から『痒み』へと治まっていった【1174】
「良かった〜くっついて
ん、…うぅ…ぅ」
◆【2人を抱える】
まるで僕の不調を肩代わりした様にルナさんは僕に倒れ込んできた
「グダス・ケントール!
ルナ・ヒーラーに何をした!」
ブライトネスさんがグダス・ケントールを組み伏せ『確保』していた。他3名も『保護』済みであり───『支援詐欺』は一応の幕引きとなった




