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『アリス』〈かわいい妹〉

◆◇◆◇◆


 制服に袖を通し、バッヂをつける───今日は英雄学校の初日だ。青々とした森の木々が風に揺れ、早くも枯れた葉を飛ばしてきた


「…」


 それを摘み眺めれば、虫食いの痕が目立っていた。摂理とは言え、少しばかりしんみりとしてしまった


◆【1309】


 昨日のうちに失った『LP』の量───自覚を持たないだけで皆がLPを対価に日々を送っている。それが意味する所を、何と呼ぶべきか


「ん?どうぞ」


 不意に扉が叩かれ、僕しかいない部屋に鈍い音が満ちた。部屋の『それ』が腐食して空洞ができているせいだ


「お兄様、おはようございます」


「おはようアリス」


 珍しくアリスも支度を終えていた。『教育学校』───【スキル】発現後に通う学校の制服姿のアリスは心配そうに僕を見ていた


「いよいよですね…お兄様」


「うん、気は進まないけどね…」


 ブライトネスさんの出資がなければまず通おうとは思わない銭ゲバ教育機関の日々を連想して、少しばかりため息が出た───こんな後ろ向きにモノを考えるのはいつぶりだろうか


◆【手を引かれる】


 ため息を溢した直後、アリスが制服のネクタイを整える僕の手を引っ張ってきた


「アリス?」


「お兄様、来年、私を英雄学校に

 通わせて頂けますか?」


「…」


 青天の霹靂だった。アリスがおねだりを言った


 アリスはとても物静かだ。感情の起伏が乏しいわけではない、寧ろよく笑い、よく学ぶ、何でもそつなくこなせる───スタルジア家の『天才』だ


 幼いゆえに何かを強請ることはあるはずながら『聡い』為、我儘の一つも言わなかった。家庭の事情を察してか、早熟だからか、とても大人しかった


 勝手に部屋に入られた時ですら、怒りより先に『何かしてあげられないか?』と思った程だ


 そんなアリスが我儘を言ってくれた。おねだりをしてくれた───それがどうしようもなく嬉しかった。やばい涙出そう【1329】


「お兄様?やっぱり…」


 不味い、不味い。嬉しさのあまり固まってしまってた


「勿論、いいよ」


「本当ですか!」


 いつもの様子からは想像つかない喜び様を見せている───嬉しそうにはしゃぐアリスが掴んでいた手を離し、ハグをしてきた。いつまで経っても可愛い妹だ【1334】


 学費の問題はどうにかしよう。ブライトネスさんへの返済もあるし、そうなったらギルドのランクを上げて稼ぎを増やしていかなくてはいけないな───それでも、嬉しさが勝るのは言うまでもない


◆【ふと疑問】


 しかし、ここ最近アリスの動向が妙に活発だ。何かあったのだろうか?


「でも突然だねアリス」


「尊敬するお兄様に近づきたいんです!」


「そんな大層なことをした記憶ないんだけど…」


「謙遜を、ギルドでのこと

 この耳に届いてますよ」


 期待の新人ってやつかな?何だか恥ずかしいな


「虹色バッタの新色を発見したと聞きました」


「ん?」


 何それ初耳なんだけど?あ〜あれか『競売』のやつ───『限りなく無色に近いバッタ』のことか。今日の暇な時間にギルドに行かないといけないな


 もしかして


「…余裕が出たから我儘を?」


 視線の先で俯いたアリスがポツリと呟いた


「いけませんでしたか?」


「全然」


 本当に健気だな…願わくばこのまま『聡く立ち回って欲しい』な


◆【離れないアリスの手】


 それにしてもハグ長いな…


「アリス?学校に遅れちゃうよ?」


「ここで」


 制服越しに生温かい感触がした───


「ここで離してしまったら、遠いどこかへ…

 行ってしまいそうで」


 ───制服越しにアリスが泣いていた。父のことがトラウマになっているのだろう


「…」


 アリスの頭を撫で『誓い』を立てる


「『必ず帰ってくるから何度でも』」


「…お兄様は狡いです」

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