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『黄金スライム』〈希少性の高い魔物〉

◆◇◆◇◆


 ダンジョン内は静寂を貫いていた


 程なくして閉じた『鉄扉』が音を立てて閉まって以降音という音は僕が動く度に出す布擦れ音、足音、呼吸音ばかりだった


◆【入り組んだ通路】


 暫く歩いてみたものの、石煉瓦の壁が永遠と続いている。僕の足音が乱反射して鼓膜に届く頃には重奏擬きになる程には静かだった


 視界の確保は壁に掛かった等間隔の松明で問題ないものの気が滅入る───全く変わり映えのしない景色が続いている


◆【声ではない声】


『…勇敢なる者よ、良くぞ来てくれました…』


 突然、女性の声が聞こえてきた。返事をしようとしたものの『その声』は音によるものでないことに気がついたので聞きに徹した


『二層で待っています…そこで…ス…』


◆【音が擦れて聞こえない】


「…」


 警戒するべきか否か、決めあぐねる。警戒するに越したことはないのだが、どうにもこの声?は特定の人物に向けたものではなく、定型分として垂れ流しにされている様だった


 仕組みも意図も分からない。敵か味方か定かではないが、それでも歩き出す。二の足を踏む理由にはならないからだ


◆【剣を抜き構える】


 開けた通路を前に警戒をする理由は、先の声が聞こえた辺りから不定期に『水音』が聞こえ始めたからだ。近くに水場があるなら良し、或いは。いずれにしろ警戒をするに越したことはない


 剣を構えて、息をころす


 しかし、何もいきなり気が向いたから警戒をしたと言うわけではない。水の気配がないのに水音がすると言うのは『とある魔物』が近くにいる可能性を示唆する重要な情報だ


『魔物』と言うのは大小様々、四足でもあり二足でもある。時には6、8。はたまた一足、浮遊と決まった形や生態を持たない存在


 しかし、最も単純にして明確な定義は『人に仇なす存在』───本能レベルで人に仇なすことを目的とする存在の総称である


◆【両腕に収まるほどの大きさの液体袋】


 警戒をしていると通路の先でそれを見つけた。松明の光を反射する身体。全長30cm四方の楕円系の魔物───スライム


 万物を溶かし吸収する存在とされ、吸収したものによってその性質を変える特性を持つ


◆【目の前には金色のスライム】


 鉱石でも吸収した見た目をしている。スライムは元来透明性を帯びる。しかし、眼前のそれらは鏡面が如き反射を帯びていた


 しかもだ。金色のスライムというのは歴史的にみても数十年単位での発見数がとてつもなく少ないのだ───しかし、それが三体も現れたとなれば興奮を禁じ得なかった


 何せ、黄金スライムはどの文献においても謎が多く、残されているものと言えば『非常に美味で香り高い物』として記されているばかりだ。通常のスライムは養殖を除き、生物濃縮により『毒性』や『危険性』を獲得すると言うのにだ


 まさか、研究者は我慢しきれずに食べてしまったが故に謎が残ってしまったんじゃないだろうか


◆【スライムの気性】


 通常のスライム同様に好戦的で、体液を敵に目掛けて放出する攻撃的な一面を示してきた。避けて床に付着したそれに『腐食性』や『揮発性』の"け"は見られなかった


◆【盾を構えて距離を詰める】


 初めての戦闘に及び腰ながら前に進むしかないと己を鼓舞して前に出る。構えた盾越しにスライムからの攻撃が若干の抵抗を生む。しかし、それらは脅威にはならなかった


 勢い任せに剣を叩きつける。するとスライムの身体は抵抗なく両断された。むしろ振り下ろした剣の勢いが床の石材にそのまま当たったがために手が痺れる程の衝撃に襲われたのは言うまでもない


「〜つぅ!」


◆【身体中を駆け巡る熱】


 やぶれかぶれながらにその場にいたスライムを倒しきり、安堵したのも束の間、身体が熱に侵された。全身が燃えんばかりの感覚に意識が飛び掛けるもその熱は程なくして治った


「何だったんだ…」


 熱の消失と同時に多幸感が生まれた。心なしか身体が軽くなった気さえする


◆【戦利品はスライムの身体】


 両断した黄金スライムは不思議なことに動く気配がない。無意識的に両断したはいいものの、これが有効打になってよかった


「…文献通りなら」


 スライムの吸収性は"しばしば"人間の間で『食料』としての活用が見られる。それは養殖に限った話であり、野生のスライムは基本的に加工を経ていなければ『生物濃縮』により、不調をきたすこと間違いなしなのだが───僕は好奇心に負けて文献通りの『可食』を信じて齧り付いた


◆【美味とは少し違う甘味な味わい】


「(モッ、モッ、モッ)」


 スライムの食感は何と言うか、なんだろうか。見た目通りなのか、お汁粉に入っている『白玉』の様なものだった


 蜂蜜の様な甘さではなく、もっと精製された純粋な甘味的な甘さをしていた


「…ハッ」


 蟹の身と似た『特性』なのか、無言で食べてしまっていた。これは確かに『不思議を残す』味わいだった


◆【何と言うか】


 進んだ先で4体の黄金スライムを倒す過程で、『アレら』が吐き出す体液に『毒性』や『威力』がないことを確認した


「…」


 そこでひとつの結論に至った


 好戦的。なのに弱い。それでいて食用に向いている。これが持つ『希少性』というのは───人為的、自然的な『乱獲』による淘汰が生み出した悲しきものなのではないのかと言う結論に至った


「…進もう」


 スライムの身体を回収した袋がその『希少性』の原因を物語っており、倒した黄金スライムの内。その大半を迷宮に残すことにした


 スライムの『飼育の手引き』における『繁殖』や『交配』の方法に習っての行動をした。スライムは同族のそう言った身体を吸収することで個体数の絶対数を維持することができるのだとか───身体を全て回収してしまったなら減少の一途を辿ることになってしまうだろう


◆【後重いし、単純に嵩張る】

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