『エマ・ブライトネス』〈喫茶店で談話〉
◆◇◆◇◆
喫茶店に入り注文をする。その後は窓辺で『写し』を広げて眺める。頭の片隅に記憶、記録を詰め込んでいく───必要なのは『知識』であって『感想』ではない、頭に詰め込むだけ詰め込んで後で復唱すればいい、要所要所の『気になる』文書を見て、目を止め、読み、次へ
それを繰り返す内に気がつけば『注文』した品が来たので空間を開けて、再び読み耽る
◆【湯気が冷めた頃】
「…んと」
ヨミール草の文献に粗方、目を通し終えた。半数以上が『栽培における難解さ』を語るものだった───『純度上昇』のみを持つヨミール草が如何に希少で何十年と続く課題であるかが頭を木霊していた
4分の1は『純度上昇』の『仕組み』を語っていた───最も初期のものでは、入れるだけで『薬効が上がったこと』について書かれており『近代』になって『入れて数分待つことで不純物を沈殿させる』と『薬効』の持つ『効能』を深く『分析』したものが上がった
最後の4分の1は『代替研究』だった。『純度上昇』は何もヨミール草に限ったものではない『純度上昇』の『効能』を持つ薬草は山とある
しかし、その殆どが『特化』、特定の薬品にのみ効果をもたらすものであり、ヨミール草の様に『それだけ』という効果を持つものはふたつと無い───文献の締め括りに『ヨミール草』の特別性が語られるものが大半だった。たった一つを除いて
「近い将来…」
◆【文献の内容より】
───近い将来、『純度上昇』を持つヨミール草の絶滅の危機を我々は考えなくてはならないものと結論づけます
ヨミール草、その秘めたる力『純度上昇』この薬草が既存の薬品の効能を増幅させるという特異性は、薬草学における画期的な発見であると確信しています。これの『汎用性』の高さは、これまで類を見ないものであり、あらゆる薬品との組み合わせにおいても、その『効果』は期待できます
この発見においては薬品開発における、新たな地平を切り開く可能性を秘めており、期待を持つ他ないものです
しかしながら、その類稀なる『汎用性』は、同時に深刻な懸念を齎すことになります。ヨミール草の『純度上昇』という『効能』は決して珍しいものではない───しかし、その『汎用性』において右に出るものはなく、もし『これ』に頼り切った時代において『ヨミール草』の採取量が減ったのであれば、時代の崩壊を招くことになるのは想像に容易いことです
昨今では乱獲が進み、ヨミール草の個体数が急速に減少していることは極めて危険視しなければいけない状況であり、全く採取できないといった状況は避けなければならないのが実情です
本題である『ヨミール草の代替可能品種に関する論文』の執筆において、まさにこの『問題』は避けるべく執筆したものになります
ヨミール草の『純度上昇』を、どのようにして『代替可能な品種』によって保護していくか───そして、その代替品種の研究開発と並行して、ヨミール草自体の保護・繁殖策を講じなければ近い将来、薬品業界は歩みを止めざるを得なくなります
未来においてこの『論文』に目を通すものがいたなら、この研究が『ヨミール草の絶滅』における副次災害の歯止めになることを期待するばかりです
◆【要約】
「…」
この時代より数十年前の文献で『現代』の問題の解決策を考える人がいたことに驚く、まさに今、その問題の再現となりつつある状況だ
今でこそ店頭に『回復薬』という一般的な『身体不調によく効く薬』が並べられてはいるものの『ヨミール草』がなくなれば価格高騰し、最悪の場合『生産されなくなる』ことだろう
「…でもなぁ」
ヨミール草の完全なる代替は不可能とまで言われている───『純度上昇』単品となった時、それの再現となった時、困難さは筆舌に尽くし難いものとなる。どうしたものか
「ノル〜まだ、忙しそうだね」
「え?ブライトネスさん?」
◆【席の向こう側に偶像顕現】
「司書の仕事は?」
「交代の時間になったからお昼休憩
それより、ノルはどうしたの?
『写し』を頼むなんてさ、学者さんみたい♪」
席を挟んで向こう側、思考の優先順位が押し出されて『エマ・ブライトネス』が躍り出た───『写し』を整えて傍に置いて空間の確保をした
「ふと、最悪を肌で感じ、表面化する前に
これをどうにか止められないかと
考えていたんですが問題は根深いようです」
「凄いなぁノルは、それ伯爵家が
解決するべくお金を掛けてる問題だよ?」
「そうなんですか?」
流石の貴族階級の人達だ。僕程度が『問題』とした時には既に『解決』に奔走している───それでも解決できていないということに『不穏』さが残るのが何とも言えない不気味さがある
「でもねぇ、ヨミール草の年間の採取量と
栽培量を考えた時に相殺には至ってないみたい
男爵家は依頼を出して
採取で収支の相殺中だよぉ…」
やっぱり、栽培は期待するのは難しいな。技術不足というよりは『需要過多』なのだろう───抜本的な解決が必要だ
「…」
「ノル?それ飲まないの?」
「え?あぁ、すみません」
◆【栽培は既に進められていた】
「なら僕はマーリンの後を継ごうかな」
「マーリン?」
「うん、この論文で『ヨミール草の代替』に
関して研究をしていた人なんだ」
「へぇ〜偶然もあるんだね」
「偶然?」
ブライトネスさんは肩肘をついて『論文』の『マーリン・ソーサラー』を指差していった
「その人【賢者】を持ってた人なんだよ
ノルってばそんな人に追いついてるんだ」
「そうなんですね…」
「知ってる?マーリンは好色家で
奥さん達と良く接吻を交わしてたんだってぇ」
「知りませんよ」
「ノル真っ赤だよ」
「ほっといて下さい」
光栄だなんて思ったことを少し後悔した
◆【793】




