『スタルジア家』〈準男爵家〉
◆◇◆◇◆
「アリス?遅刻するよ?」
家に帰り、まだアリスの靴が玄関先にあるのを見て、玄関口から家の中に向けて声を掛けた
返事はなかった。キッチン、風呂場、洗濯場を覗いてみてもアリスの姿はなかった
◆【ガタッと音が聞こえた】
「アリス?」
音が聞こえたのは上階からだった。不思議に思いつつ階段を上がっていく途中、アリスと鉢合わせた
「お兄様!お帰りになられてたんですね」
「うん、少しって言ってたしね」
アリスの様子が少しおかしい。頬が紅潮している。熱でもあるのかも知れない
「アリス、体調は大丈夫?」
「お兄様、アリスは大丈夫ですよ
どこも悪いところはございません」
「そう、あまり無茶をしてはダメだよ?」
「お兄様は優しいですね」
念の為にと熱を取ってみても高くはなく、呼吸の乱れもすぐに治った。時間は余裕があるもののもう出なければ走らなければならない時間ともあり、玄関でアリスを見送った
◆【皿を洗い、病人食を作る】
ふと、アリスが下の階へと降りていった前の記憶を辿る。不思議なことにアリスが現れたのは彼女の部屋の位置とは見間違うことのない別の位置からの出現だった
それは僕や『父の部屋』がある通路だ
「アリスは一体
父の部屋で何をしていたんだ」
温めたタオルと食事を持って母の部屋の扉をノックした
◆【母に食事を持っていった】
「ノル?もう、週末なのかしら」
「今日は時間ができたから…」
フォー・スタルジア。アリスや僕の母。銀髪でおっとりとした雰囲気の女性だ
「身体拭くよ」
「ありがとうね」
日に日に痩せ細っていっている。倦怠感が常に付き纏っているとのこと。熱はなく、心拍数に大きな変動はない様子だ
「はい」
前の方を母に任せて、部屋の換気を始める。使い終わったタオルを回収して、食事を配膳する。洗濯場に洗えるものを入れてくる
食事が終わるまで休憩がてら母の容態を記録していく、そんなこんなをしていると母が食事を終えた
「安静にしていてね」
「いつもありがとうね、ノル」
消化や呼吸器系に異常はなかった。筋肉の衰えも異常な消耗はなかった。原因不明。母を蝕む病魔の情報はどの学術書にも記録はなかった
◆【奥の部屋に違和感】
母の部屋を後にしてキッチンに戻るべく視線を上げた時、ノスト・スタルジアの部屋の扉と僕の部屋の扉が僅かに開いていたのが見えた
「アリスの仕業かな…」
見られて困るものはないがこうも堂々と入られると文句の一つも言いたくなってしまう。実際には言わないが
「お金かな…それとも。お金かなぁ」
お小遣い、増やすべきだろうか
◆【悩みのタネは尽きない】
食器の片付けを終えて自室に向かい、扉を開けるとほのかに甘い匂いがした。香水だろうか?まさか体臭を気にして態々香を焚いてくれたのだろうか
その割には香の発生源は分からず、窓は開けっぱなしと辻褄が合わなかった。取り敢えず換気をしておき、本題に移った
◆【ノスト・スタルジアの部屋】
部屋に入るのは久しぶりか、初めてか。少なくとも行方不明の通知を受けてからは近づくことすらしなかった部屋だ、アリスは一体何のために入ったのだろうか
ドアノブを掴み、部屋の中へと入った───そこは埃っぽく、物が散乱した物置となっていた。山と積まれた荷物の数々からは仄かに魔力を感じるものもあった
濃ゆく香る甘い匂いは先程嗅いだものと同様でアリスがここに入ったのは間違いなかった
装備や道具類が所狭しと置かれているものの辛うじて残る足の踏み場を頼りに奥へ奥へと進む、まるで導かれるようにして───すると、最奥の机に赤い手帳が無造作に置かれているのを確認した
「…ノスト、父の手帳だ」
持ち上げ裏を確認すると名前が書かれており、父の所有物で間違いなかった
「…あゝあ、何だこれ?」
同じ文字が何度も繰り返し書かれており、何のことだかさっぱりだった。仕方なく手帳を最初から読んでいるとそれが目に止まった
「これ『失踪者の捜索記録』だ」
◆【父の部屋で手記を見つけた】




