『エマ・ブライトネス』〈近所の美少女〉
◆◇◆◇◆
風が吹き、より一層瞼を固く閉じた。このままいっそ目を閉じ続けられればなと思った
「おっはよーノル!もう準備できたのー?」
彼女の声を聞くまでは、そう思っていた
◆【朝陽に重なる君は男爵家】
逆光が形作る彼女の陰の抜群のスタイルは陶器の曲線美を思わせる。風が梳く金髪は収穫を待つ小麦畑が風に揺れるようでいて、澄んだ碧眼は宝石と見紛う程美しい
「お、おはようございます。ブライトネスさん」
同じ学校に通っていた、同じ学年にいた、近所ということ以外に接点はなかった。家柄が違う。階級が違う。性別も違う。彼女が宝石なら僕は砂つぶだ。比べることが烏滸がましい─── 何故僕に声を掛けてくれるのか分からない
その点においては彼女が『優しいから』で片付く、この場合分け隔てなく接する彼女がただ声を掛けてくれただけのことだ
◆【偶像との雑談】
「今日からノルと一緒に司書だ〜!
色々教えてね先輩」
誰もが目を奪われる輝きだ
「…」
「どうしたのノル?」
伝えても仕方がないな。今日会えたのは嬉しいけども、それは僕が一方的に抱く敬愛だ。無数に存在するうちのひとりでただの知り合い
「僕は今日、お休みを頂いているんですよ」
「え!そっか、残念…」
「そうだ。ブライトネスさん。これを」
「んぇ!なになに?…手帳?」
「はい。僕が司書として働いた8年間の経験です
どうぞ活用してください」
「え!いいの!ありがとうー」
「特に日課と雨天時のところをお願いします」
でも丁度よかった。口頭での引き継ぎがこの場でできるのはとても助かる
「まるで辞めちゃうみたいだねー」
「…ですね」
◆【夢のひと時】
いつまでも聴いていたい綺麗な声の彼女が遠ざかって行く、夢見心地だった。先まで感じていた憂鬱さはなくなり、心に余裕が生まれていた
そうだ、クヨクヨしていられない。早く次の就職先を見つけなければいけないんだ
「…」
でも、受け入れ時期はとっくに過ぎてしまっているんだよな。どうしよう
◆【取り敢えず家に戻った】




