『ジェンナ』〈藁にもすがる受付嬢〉
◆◇◆◇◆
聞く限り冒険者側が特定の方を指名するという必要性を感じない『専属受付嬢』───受付嬢の方を指名し、限定的に応対してもらうというギルドの形態。別名『応援システム』というもの
◆【無指名】
必ずしも担当をつけないといけない制約はないとのことなので───僕は『多く熟せる』方を選ぶことにした。Bランクの『一撃のデカい』依頼なら指名を選ぶところながら、今は不利が大き過ぎる
「ノルさんはどなたかを指名しますか?」
「いえ、僕は表受付を今後とも利用させて頂きます」
「よろしいんですか?」
「はい」
そもそも冒険者側に対するメリットが薄い───これ考えたやつは『人をよく知っているやつ』だなと感じたが『商売の腕』はゴミだと思った
『人を守るため』に作られたシステムの裏をかいた、面白い政策だ。しかし『ギルド』の売り上げを伸ばすために『改悪』を招いた。これでは本末転倒だ
『関心』こそすれ『共感』『賛同』はしかねる
◆【疑問は尽きない】
「そもそも聞く限り不便と感じるんですが
何故専属をつけるんですか?」
「理由は2つありまして、ひとつは報酬の増加
ふ、ふたつ目は大抵の受付嬢の方は
貢献してくださった方にご褒美を
用意しているんです」
何だそりゃ
「褒美となると、何か貰えるんですか」
「えっと…肩揉み券だったり、握手券だったり
あとはお買い物同伴券などがあります」
子供のお手伝いかな?何が、いいんだか
肩揉みはプロのものを受けることより良いとは思えないし、握手券に関しては訳が分からない。買い物同伴なんて休日にアリスとやっている。それが頑張った褒美に?何がしたいのか。はっきり言って謎だ
「皆さんにはあまりよさそうに見えませんが
受付嬢側は特別手当が支給されたりと
かなり重要なんですよ」
「なるほど」
本質が変わっていないのだから冒険者側へのメリットではなく、受付嬢側にメリットのある制度なのは当たり前だった───確かにそれは納得できた。利用はしないけど
◆【人気指名1位サラについて】
そうなるとだ。指名一位の方は何か突出したものがあるのだろうか
「サラさんは何か
センスがいいとかあるんですか?」
「やっぱりサラさんが気になりますか」
「そうですね」
「…」
「飛び抜けた表の成績を見せられると
気になっても仕方ないと思いますが」
「何だ。そういうことですか」
「?」
ほんの一瞬だけ───空気が重くなった
「彼女、胸が大きいんですよ…それに経験豊富で
それで毎月、胸に触れても良いという
権利を券という形で発行してるんです」
「…」
呆気に取られる内、次々に羅列された『夜を彩る褒美』の話は、どれもこれもが官能的な内容のものばかりで正直、引いた
殆ど上位の成績をおさめている受付嬢だった。オーディンってこんなんばっかなんか
◆【受付嬢の熾烈な争い】
興味がないと言えば嘘になる。しかし、これ程までに堂々と『身体を対価に差し出す』となると───分不相応な僕からしてみれば申し訳ないと思った
「…大変ですね」
恐らく数をとっている人もいるとなれば、それこそ過酷だ
「いえ、全員が全員その手の行為に
手を出してるわけではないですし
それに、これも仕事の一貫ですので
気にしないでください」
無理を言うな
「…気にしますよ。流石に」
もうエグいんすよ───心が萎れる。気を取り直して、依頼板にでも足を運ぶことにする
◆【矢先に服の裾がつっかえた】
おいおい、勘弁してくれ。この絶望的なまでにグロテスクな現実を知ってしまったんだ。一刻でも早く逃げることを許して───カウンターのささくれに引っ掛けたかと思い、振り返る。僕の服はカウンターなんかではなく、身を乗り出したジェンナさんに摘まれていた
「ジェンナさん?」
「…」
◆【個室へと連れられた】
簡素な部屋。休憩室的な広さ、こもった空気の独特な重さと鼻をつく乾燥した匂い、人の気配がない密室───扉が閉められ、より一層の重苦しさが全身を包んだ
「あの、ノルさん…私を指名してくれませんか?」
「…ジェンナさん?」
押し込まれた部屋の中
「ずっと成績が悪い受付嬢はクビになるんです」
外の音と隔絶された空間、小さな音すらも耳に聞こえてくる───『シュル』と制服の下に着る布地、独特の音が背中の方から聞こえた




