『ビッグラビットの焼肉』〈新人歓迎の意〉
◆◇◆◇◆
「ローラちゃん、ビッグラビットの
討伐証に、肉ね。どうせ肉が目当てだろ?」
マリアさんのことが気がかりながらビッグラビットを提出した
「解体もしてくれたんですね」
「おう、ノル坊のおかげでな」
◆【ビッグラビット3体分の肉を納品した】
夕方になったギルドの中、ついでとばかりにガモンさんから『裏庭』に来るように言われた。今日は帰ろうかと思っていたものの『顔は出しとけ』と、要領を得ないことを言われ、強引に連れて行かれた
入団試験以来に通る『そこ』には肉の焼ける匂いに混じって『ビール』の匂いがし始めた
◆【裏庭で焼肉】
ギルド会館の裏庭───そこには冒険者らしき人が何人も『ジョッキ』片手に僕達を見ていた。いつもの『訓練施設』などではなく、鉄板を持ち込んで『ビッグラビットの肉』を各々で食べている光景が広がっていた
「皆さん!」
声のした方を見ると『先程の通路』からローラさんがやってきていた。そのまま裏庭の中央まで歩いていくと裏庭全体に聞こえる大声で云った
「期待の新人、ノル・スタルジアさんが
Dランクに昇格しました!」
どうにも『冒険者ランク』が上がったようだった
◆【大歓声】
僅かな間を置いて裏庭全体が『音爆弾』となった
「おめでとう!」
「これで君も我らがオーディンの冒険者だ」
「パーティを組むことがあったらよろしくな!」
「つーか、新人なのにビッグラビットを
よく倒せたな!」
「Dランク、おめでとう!」
上がる歓声と乱れる拍手の音、賛辞の言葉に面を食らった。落ち込んでいたこころに『温かいもの』が満たされていく、身体の芯から『多幸感』が湧き上がる
騒々しくも、何処か落ち着く雰囲気によって自然と幸せのため息が漏れた
「ありがとうございます」
◆【1300】
「いやぁ、はぇな。1週間も経ってねぇよな…」
「なぁに、俺たちみたいに稼いだ銀がなくなるまで
浪費して怠惰に過ごさなきゃ珍しくも───」
「だから、俺を…」
肉が焼ける匂いと音が再びし始める。香辛料やらの匂いではなく、肉特有の焼けた匂いが屋外のはずなのに充満していく
酔っ払い特有の呂律の回っていない『デロンデロン』の状態の人達が樽を徐に持ち上げ近寄ってくると、そのままガモンさんと共に『お酒』を頭から被ることになった───一杯ってそう言う『いっぱい』なの?
「おい!樽をんなことに使うなよ!勿体無い」
「そこにちょこっと残ってただけだろ!」
「お前もやって貰ったろ」
新人歓迎の宴を兼ねての活動の様だ
「この感じ、毎年やってるんですか?」
「あぁ、この時期には決まってビッグラビットが
指定区域からこっちに流れてくるからな
間引きついでに食ってんだよ」
「あぁ、あいつら下手したら街まで来て
一般人にも被害出すからなぁ」
◆【盛られた肉】
「ほい、主役さん」
「ありがとうございます」
全体によく火を通された肉が山と積まれた皿を受け取る。味わいは鶏肉に似ているものの、全体的に淡白で噛みごたえのある肉だった。美味しい
「お疲れさん」
「追加の肉が来たぞ!やけやけ!」
「お前、交われ!俺も食いたいんだよ」
なんだかわちゃわちゃしてる
◆【1350】
「大将、あんたもこれ食うか?」
「これ、何ですか?」
「ビッグラビットの水晶体の刺身…
これを酒で流し込むと美味いんだぁ」
皿に綺麗に並べられた透明感のある『それら』はビッグラビットの目の中にある『珍味』だった───ここでは解体せず、専任の解体業者に依頼するのだとか
「食べないなら、俺がもらうぜ」
「い、いただきます」
「お?Dランク様が刺身行くらしいぞ!」
◆【食え食えコール】
それは強い弾力があった。箸で持ち上げればしなりを見せ、見た目だけで言えば『スライム』だった
裏庭全体のやかましさが一層の盛り上がりを見せ始めた。ガモンさんも一緒になって囃し立てる中で僕はそれを口へと運んだ
「…っ!」
甘塩っぱい、何かの調味料かとも思ったものの、舌で転がす度にその甘みは広がりを齎す。水がそのまま形を保っている様で、噛むたびに千切れていき、喉へと『するっと』入ってくるのが分かった。不思議な味わいだ
「美味いだろ?」
「不思議な味ですね。嫌いではないです」
「おい!聞いたか?いける口だってよ!」
普段は味わえない『珍味』。新たな見識はただ『知った』と言うだけでなく、『充足感』や『達成感』を受けるものだった
3切れを口にしたところでお暇させてもらった。この後のことを話し、お酒はまた今度ということで『勘弁』してもらった
◆【1650】
『酒の匂い』『焼肉の匂い』を纏った僕を出迎えたアリスは「兄様だけ狡いです」と不機嫌を招いてしまった
依頼達成報酬の『60,000リア』で───帰りに『ステーキ肉』を買ったことと、それが今晩の晩御飯であることを伝えると『相殺』と言う形で許された。ステーキ定食を平らげたアリスはとても嬉しそうだった
母へは『厄払いの桃砕水』───甘みの強い桃という果物を砕き、いくつかの薬草と一緒に軽く煮込み、口当たりと薬効を引き出したものを飲んでもらった
体調に変化はないものの『顔色』は多少良くなった気がする。本人もいつも以上に穏やかな様子で『美味しい』と云っていたので余裕があれば出していこうと思った
◆【1690】




