『ノル・スタルジア』〈度し難い者〉
◆◇◆◇◆
会場に急ぎ向かい『伯爵家令嬢』を探すも見当たらなかった。会場には既に多くの人でいっぱいになっていた状況だった
人の『ごった返した』会場の中から『一個人を見つけ出すこと』の難解さを痛感した。シャリーさんはあっけらかんとしていたものの僕としては一刻でも早く謝罪をし、明確な『許し』を受けなければ心穏やかに日常を送れないことは間違いなしだ
どんな報復が待っているのか、怯えながら過ごすと言うのは流石に堪えるものがあるので必死になって探した
「お集まりいただきありがとうございます
規定の時刻となりましたので
これより第一試験の突破者を読み上げていきます」
しかし、そんな気持ちを他所に『伯爵家令嬢』が見つからないまま、教師が登壇し話し始めてしまった
「読み上げられた者は受付を行い
第二試験の準備を行ってください」
◆【第一試験突破者の発表中】
次々に名前が呼ばれていく中で必死に探す。何故怒っていたのかも『有耶無耶』のままだ
「5人目───。」
◆【頭痛がする】
「どうすればいい…ッ」
突然頭に鋭い痛みが走った。この痛みは【大賢者】を使った時に似ている。しかし、痛みはそれ程強くはなかった
頭痛の後───こんなこと前にもあった気がするという『感覚』と『とある言葉』が思い浮かんだ
◆【ストレス性の忘却】
「ノルの馬鹿…」
「…もう、ノルのバカ『??』」───誰かに言われたことのある言葉が記憶の澱の内側から溢れてきた。誰かを怒らせてしまった時、悲しませた時に言われていた言葉だ
この記憶は『本当にあったこと』なのか
「…そうだよな」
思考が上手く回り始めてきた。呆けている場合ではないんだ。考えろ。考えるんだ───『合格』に拘っていた『伯爵家令嬢』はどこでこの発表を聞く可能性がある
「最前列か」
その可能性はなくはない。壇上で通過者の発表をしている以上間近で聞く可能性はある
しかし、これは否定できる。そこまで拘っているなら『わざわざ』僕を待ったりはしない───自分達を待たずに最前列に陣取るだろう
「すみません、通ります」
人混みを掻き分けて、列から離れる。何故、僕達が来るのを待っていたのか。叱責ではなかった
「…通して、すみません」
中央を避け、側面に沿って進む───予想では彼女は列の中央には居ない。『学外』は知り得ないものの『自分達』に真っ先に声をかけてきた様子を見るに『受験者』の中に『親しい者』は居ない筈だ
◆【不安げな伯爵家令嬢】
であるなら『受付』から最も近く『落ちても即去れる』場所かつ『不安の元凶』から最も遠く『ひとり』で居れる場所───そんな『最後列』に到着して『探し人』を目の前にした
「ブルードンさん」
「何よ…」
唇を噛み立ち尽くすその姿から『不安』と『悔しさ』が滲み出ていた
「昨日は先に帰ってしまい
申し訳ありませんでした」
「…ッ、貴方ね」
◆【気を取り直して】
「…貴方、知ってるかしら」
『伯爵家令嬢』が告げた
「英雄学校の年間の受け入れ人数について」
ブルードンさんは最前列で『不安げ』な顔をしていた
「28人目───。」
「30名よ」
教師が28人目の名前を呼んだ
「終わりね…」
ここまで『僕達は』呼ばれていなかった。冷や汗が止まらない、動悸がする。伸ばした手が震える───30名。それが例年の英雄学校の受け入れ人数である以上自分たちの中で誰かが落ちたことを告げていた
「ここまで私と貴方、あの子が呼ばれず
誰かが落ちたみたいね…」
何か間違いをおかした。それは僕だ『点数不明』で足を引っ張った。確実にブルードンさんは受かる。その確信があった
それでもブルードンさんは列から離れていく、目の前が暗くなっていく、どうすればいい、どうすれば───目の前の人の不安を拭える
「レノアさん!」
「29人目、レノア・ブルードン」
「え?」
「30人目、ノル・スタルジア」
「…ぇ」
◆【シャリー・ノルドアの名前が呼ばれなかった】




