『アルバート公爵家』〈解呪の拒否〉
◆◇◆◇◆
教会から出てアルバート公爵家に向かう───お供は『シャリーさん』『虎丸さん』で【探知】を使って場所を確認してからの移動となった
◇【執事セラス】
お嬢様が自宅に戻ってからというものの、自室に籠られている───食事時ですら自室に運ばれるのを望まれている。ずっと他人と会うのを避けておいでだ
「お嬢様」
私が声を掛けても扉越しに『いつも通り』の命令が飛んでくるばかりだ
「誰も、通さないで」
「…承知しております」
◆【窓の外でシャリーさんが聞いている】
公爵邸を見つけ、近づく事、扉まで数歩。シャリーさんが静止し、マリアさんが面会を拒絶していることを知った
「───みたいで」
「凄まじいですね」
アマネさんからの情報で公爵家ではなくマリアさん個人で辿り着いたことは知っている。聞いていたのは『〜死印』の特性を理解したところまでだったが辿り着いているのだろうが───【解呪】の『代償』を知っている口だ
◆【攻めあぐねる】
『覚悟』もより強固なものだと感じた。ならば遠隔での【解呪】と思ったものの───【解呪】は『極小範囲』だった。接触でなければこれの発動はできなかった。誤算だった
『どうするノル。強行することも我ならば───』
「…」
公爵邸に入るべきだろうか、窓を突き破る───貴族の間で瞬く間に噂になるだろう。調べられでもしたら家族に被害が及んでしまう
「そこの者、そこで何を…貴方は」
「セラスさん、お久しぶりです」
◆【面会拒絶】
公爵邸の前でセラスさんに見つかった───しかし、面識があったことが幸いし、通報は免れた。それにしてもいつ見ても執事然とした背格好だな
「なるほど、休日に態々御足労を
しかし、現在お嬢様は誰とも会いたくない、と」
「どうにか、できませんか?」
「…私にはどうにも」
セラスさんが冷たく言い放つ───しかし、その表情から『悲哀』を感じた
「セラスさん?大丈夫ですか?」
「ノル様は…」
セラスさんが何かを言おうとし、口を閉ざした。助けを求める様でいて、それでいて『主』の言いつけを遵守することを優先する葛藤をしていた
「セラスさん」
「…何でしょうか」
「マリアさんに言伝を宜しいですか?」
「言伝、でございますか」
◆【一時撤退】
『良かったのか?』
「まだ、1日ある。今無理に行っても
時間だけが過ぎるし、セラスさんが
衛兵を呼ぶかも知れないから、ここは一先ず」
「でもノル。マリア様は本当に学校に来るの?」
「来るよ。マリアさんの立ち居振る舞いと
アマネさんから聞いた『学校に行く理由』から
出席はしてくる」
「明日、死ぬかも知れないのに?」
「死ぬかも知れなくても家名に準じる
命尽きるその日まで、それが貴族だよ」
木端の僕でも守るそれを『公爵』が破るとは思えない───そう、信じるしかない。だからこそ今は離れる。明日に備えて準備を整えるために一度帰宅した
◇【『明日お時間よろしいですか?』】
「マリアお嬢様」
「セラス、今度は何ですか。勉強の…」
「ノル様より言伝を仰せつかっておりまして」
「…どの様なものですか?」
「明日の放課後、マリアお嬢様に
都合をつけて頂ければと」
「…考えてみます。今日はもう下がりなさい」
開いていた本を閉じる。明日に迫った『十六の死印』の期日に手が震える。慣れたはずの痛みがぶり返してきた
遠ざかる革靴の音が耳に響く、静かになった部屋で窓の外を見るとまだ陽の高いことを知った───明日が怖い、この光が沈むことが酷く恐ろしい
「…ルナさんには断りの手紙が届いたかしら」
『どうかご自愛ください。その心だけで救われました』旨の断りの手紙───他人の命を費やしてまで生き永らえることは望んでいない。こんな親不孝者を父上、母上、兄上は許してくれるでしょうか
眺め続ける程に伸びる陰を認めれば、演技の内に湧く『恐怖』と『諦め』───それと『暖かな抱擁』の『熱』だ
「なんて、はしたない」
死への恐怖を『劣情』で嗜めるなど、あってはならない───だというのに、あの時感じた『安心』を恋しく思ってしまう自分がいることが酷く恐ろしいことこの上ない。もし死ぬのなら『安堵の内』でなどと殿方への迷惑を考えることのない私利私欲を優先するなど、この17年に達する年月を否定する蛮行です
「…」
身内でさえ頼み辛いことであるというのに




