『ジッポの森』〈魔力の淀みとドリアード〉
◆◇◆◇◆
ここに来るのは数日ぶりになるだろうか─── 今は月明かりすら飲み込む暗闇と梟の鳴き声ばかりが耳に入る。時たま聞こえる足音は『トロル』が森を歩き回る音だろう
夜に寝静まった街の近くにある『ジッポの森』は今日も平和を表に晒していた
◆【森の現状について】
「どうですか?」
「任せてください。と言いたいところですが
森の中を見て回らないと、です」
『では、見て回ろう』
ドリアードさんを抱えて虎丸さんに乗せ、2人の後ろを着いて歩くことにした
◆【魔力の滞留】
「…」
「完全に淀んでます」
『この森は死んでおるのか?』
「いえ、寧ろ活き活きして、ます」
「どういうことですか?」
ドリアードさんが近場の木に触れ、虎丸さんから降りると、地面に耳を当て、振り返って言った
「この森から何か沢山盗ったりしましたか?」
『とった』と言うとヨミール草のことだろうか
「薬草を…採り続けてます」
「それが、原因です」
◆【持ちつ持たれつ】
「森が採られることを嫌い、魔力を蓄えてます
特定の、植物の種類に偏りが増えたのは
それが盗られない、魔力を少なく咲かせられる
だから───」
そう言うことだった───森は『ヨミール草』をトられ続けたことで魔力の枯渇を危惧して『ヨーミル草』の草畑に変わってしまった
◆【それでも数本生える理由】
「ヨミール草が生えるのは何故ですか?
採られない様にするなら、それこそ
ヨーミル草ばかりにすれば済む筈ですが」
「森はそれだけでは立ち行きません
人の介入あってこその環境もありますので」
「難しい問題ですね…」
『どうにかできぬのか?』
「森に働き掛ければ、できなくはありません
なので、すぐに取り掛かりますね」
◆【生命同調】
直ぐに取り掛かると言って程なくして森の中心に到着した
今回はトロルを避ける必要がなかったことが大きい、何しろ道案内をしてくれた───傅くと表現すれば適切だろうか、虎丸さんやドリアードさんに膝をつき『お待ちしておりました』と言わんばかりの対応をしていた
手を取られ、森の中心にある木まで向かう背中は近いのにどこまでも遠くに見えた。これから行うことを思えばそれはそうなのだが
「嫌ではありませんか?」
道すがら今更になって『無限の迷宮』での『頼みたいこと』がこんなことになったことを『良かったのか?』と思い、確認をした───これは自己満足の産物だ。そもそもが『森の現状把握』にドリアードさんの力を貸して欲しいと連れ出し、今故郷を離れた土地に【根付いて貰う】ことになっている
「あのまま、森に還ることもできました
でもノルちゃんに、恩返しをしたかったのです」
「…でも、あの森から離れています」
「ノルちゃん、わたし達にとって土地とは地続きで
とても身近なモノなんですよ。何処ででも
この土地はご近所さんなんです」
「…そう、なんですね」
ドリアード達の価値観は人間には大き過ぎますよ
「ノルちゃん、屈んで下さい」
俯く僕の眼の前にいつの間にかドリアードさんが居た。薄暗い場所でも金髪に碧眼の7層で見慣れた姿がそこに居た
「…はい」
◆【言われるがまま屈む】
視界が一瞬にして暗くなった───【暗視】を使っても見えない程の暗黒だった。2度、3度と使っても見えなかった
少し焦る僕を誰かが『ポンポン』と優しく叩いた。小さな手、力加減は大雑把だ。それでも『優しさ』を感じる行為に身を委ねた
「───黙っておくつもりでしたが、実は
わたし、ノルちゃんと会った後、本当だったら
死ぬ筈だったんですよ」
「っ!」
気がつけば手の甲に違和感を受け目が覚めた
◆【『森の心』】
手の甲に『魔法陣』が浮かび、『茶色』と『緑色』が夜を照らして魔法陣から飛び出し、宙に向かって『木の模様』を形作った
「これ…」
『契約』に似ているけど、何か違った
宙に浮かぶ模様が手の甲に吸い込まれる様にして消えると景色の戻った空間には『金髪の碧眼少女』ではなく─── 7層で見慣れた姿ではなく
『どうですか…この姿
って言っても夜ですし』
『木の葉の様な髪』に『木の幹の様な茶色の肌』、眼の色は『夜を映す鏡』水の雫を宿した様に透き通っていた。人の時とは全く違う姿していたけれども───
「綺麗…」
『お世辞でも、嬉しい、です』
『ドリアードよ、ノルは嘘をつかぬぞ』
『そう、なんですね///』
───とても美しかった【7048】
◆【お別れ】
『では、ノルさん。お元気で』
「ドリアードさんも無理はしないで下さい」
トロルに連れられ、ドリアードさんは森の中心にいる大木に向けて歩き出した。背中は遠くなっていくものの、その気配はさっきとは違い───ずっと近くに感じた
程なくして森の木々が騒めき出すと【霊感】が捉えたのは『地面を走る魔力』が煌々と輝き出し───先まで不規則にまだら模様をしていたものが森の中心に聳える大木を中心とした木の根の様な模様へとかわった姿だった【7098】
一目で『変わった』ことが分かった
「ドリアードさん…凄いですね」
『そうさな』
◆【ジッポの森が『恢復』に向かい始めた】




