『ドリアードの親木』〈差し出された首〉
◆◇◆◇◆
蓄積された疲労、激戦を終えた安堵感に地面へと突っ伏する。もう指一本動かせる気がしなかった
『ノル!』
なんか最近虎丸さん、僕の名前しか叫んでなくないかな?なんて馬鹿なことを考えていると地面に頭突きをした
にしても『スキルの種類』や『相手との相性』『環境』『経歴』など───【創作】【付与】【編集】に関する必要LPの変動についても詳しく知れた戦いだった
◆【柔らかい感触が後頭部に】
綺麗な木漏れ日だな。このままゆっくり眠りたい気分になる。自然溢れる匂いに見回せば銀狼の毛が視界をチラついていた
「…どうも」
『銀狼リーダーのお腹』に僕の頭が乗っけられていた。なんだろう。めちゃくちゃ寝心地がいい
銀狼達の表情が柔らかくなり、つきものが落ちた雰囲気を漂わせていた。見てみれば【復讐の誓い】が消えていた
「お疲れ様です…」
「ノルちゃん!」
◆【ドリアードさんが姿を現した】
姿を見せたドリアードさんに視線を移すと目から涙を流していた。この場合、樹液になるんだろうか?はたまた普通に涙なのだろうか?擬態するって言ってたし───多分涙だろう
「ドリアードさん…ご無事ですか?」
「それは、こちらの言葉です」
起き上がろうとした時、そのままお腹で受け止めることになった───あ、悪意のない追撃…恐るべし、反応できなかった。バカ痛い
「っぐ…ふ〜」
「ノルちゃん!?」
『何をしておるドリアードの娘!』
◆【回復して】
絶望的な状況だったがどうにか『打破』できたことがとても喜ばしい【1638】
それにしても『銀狼リーダー』のお腹枕、かなり寝心地が良かった【1643】
「ありがとうございました。銀狼さん達」
「ノルちゃん?狼の言葉が分かる、ですか?」
「いえ、でもお礼をしない理由には
ならないですし」
勝因は多々あるものの『銀狼』の助太刀はとてつもなく大きな一手になったことは言うまでもない───包囲網を抜けるのに足と魔力を無駄にしなかったのは大きな一手だった
『ドリアードの娘、ノルはこういう奴なのだ』
「?」
◆【戦利品】
『ゴールデンビーの毒針』ランクC
『ゴールデンビーの毒腺』ランクB
『ゴールデンビーの亡骸』ランクA
毒針───非常に鋭く投擲に向いている。カエシがあり、刺されば抜くことは難しいだろう。毒腺に残る『激毒』があれば『致死性』により敵を死に至らしめることが可能
亡骸───別段何かあるわけではない死んだ虫の死骸。しかし、剥製処理をすれば『色味』『大きさ』などにより価値が生まれるだろう
◆【ドリアードの容態】
『銀狼リーダー』が寄り添いつつ、ドリアードの親木元へと向かうと所々が虫食いだらけになっていた───嫌な予感を受け【鑑定眼】を使うと
◆【鑑定眼】
名前:ドリアードの大樹
レベル:267
スキル:【生命同調・非活性】
【ゲートキーパー】【敢死】
状態:『再起不能』
◆【スキル詳細】
【敢死】
〈使命を果たし、絶命することを覚悟している証
『無防備』状態を自身に付与〉
『無防備』
〈レベル、耐性、防御、耐力を放棄した状態
LPに直接的な被害を受ける〉
◆【敢死のゲートキーパー】
「なんだ、これ」
「ノルちゃん…代変わりみたい、です」
「代、変わり?」
「わたし達は、自然と一体になり、魔力を廻す者
大地に張った根を介して栄養を受け
その身に地脈を通すことで此れを廻している
と話しました」
「そうだね」
「今その廻りが崩れているんです」
「それは、助けるのが遅かったのかな…」
「そんなことはありません!」
「…」
『ノルよ。お前は木を害そうと働いたか?』
「え?そんなわけ…」
『なれば前を向いてことに当たるが良い
救おうとしたならば
感謝こそされ、非難される言われはない』
「ワゥ!」
「そう、です。ノルちゃんがいなかったら
今頃、森全体が枯木まみれでした
わたし達では何もできなかったのです」
「…ありがとうございます」
ガモンさんにも言われたな───気負い過ぎるなって。でもやっぱり、もう少し上手くやれたのかも知れないと考えてしまう。もう少し僕に力があればって思ってしまう
「ノルちゃん。人には頼み事に対価を払うと
虎丸ちゃんから教えて貰いました」
「え?いや、うん?」
虎丸さん、作戦立案まで何を教えていたんですか?
◆【報酬】
「わたしが渡せるのはわたし自身と
この伐採を待つ親木です」
「…云っている意味が?」
「古い親木を切り、その役目を終わらせて下さい」
「…っ!!それは───」
「わたし達は森、土地を守護する種族です
今、古い木は土地に還元することなく
森から魔力を吸い続ける厄災と
なり果てようとしています───」
「…っ」
種族間の文化の違い───ドリアードは『株分』により主に数を増やすため、個々の死は分身の死ということもあり、個人より『根付いた土地』の死を何よりも忌み嫌うものとするらしい
「───今であれば恩人に報いる形で
魔力を無駄にせずに済むと
親木は考えております」
「それは、本当に?」
「間違いなく」
「…」
『心苦しいのであれば我がやるぞ』
「いえ、やります。やらせて下さい」
忘れるな。僕が今やろうとしていることを救うべき相手を間違えてはいけない───僕は神様ではない。ただの人間だ
「…267か」
未知の領域だ───それでも差し出された首。剣が入らない気はしなかった。それがより一層辛く感じてしまう
◆【深呼吸をして】
剣を抜き、構える。嫌に指に馴染み、吸い付く柄と鞘の感触をそのままに剣を抜き放つ───刀身が鞘に触れ、甲高く長い音を発し、現れた
いつも通り、美しい刀身をしていた
『感謝の意を…』
ふと、4層でのことが脳裏を過ぎった───触れずとも感じた。後悔のしがらみ、無防備な者を斬って捨てることがこれ程に胸糞の悪いことだとは
たとえそれが自らの罪を悔い、首を差し出していようともだ。だからか───生唾を飲み込み振りかぶれば不思議とその言葉が口をついて溢れた
◆【介錯】
食事の前の挨拶───生きとし生けるものを殺して喰らう僕達が思う『食、ひいては生』への向き合い方。その言の葉、以前は漠然と感じていたそれを口にした
「いただきます」
大木目掛け放った薙ぎ払い───川に入り、小川のせせらぎに背いて向かう上流が如く。最早そこに抵抗の『言の葉』はなく、ただ過ぎた。登りきった。彼方へと、至ったことだけが指先を抜けて伝わってきた
「…」
ゆっくりと瞼を開けばそこには切り株の面ばかりがあった───心臓の鼓動がひとつ。大きくなった。あの大木の幹を本当に一振りで…
「───虎丸さん、ドリアードさ…え?」
『…』
「…」
「…」
【6643】みんな口を開けて僕を見ている。そんな様子なので僕はとんでもない『やらかし』をしたのではないかと、かなり焦ることになった




