『7層戦争』〈環境利用のすゝめ〉
◆◇◆◇◆
作戦を立てる。師匠との作戦会議は時間にして数十分は練っていたことだろう───ひと通りの算段が整い、剣を腰に戻し師匠に頭を下げて礼を伝えた
『死んじゃダメだぞ〜地獄まで殴りにいくからね』
「本当にできちゃいそうですね
───行ってきます」
◆【召喚】
虎丸さんを呼び、息を整える───遠くから聞こえ始めた四足獣特有の足音の方を見やれば暗闇から『虎丸さん』が現れ、背中を差し出してくる
『乗れ』
「はい」
虎丸さんの背に跨り、迷宮を降っていく───道中に捨て置いた『鎌』も一応回収して、7層へと向かった
◆【7層にて】
「ノルちゃん、おかえりなさい」
ドリアードさんが両腕を広げ、駆け寄ってくる。拒否しようとしたものの、腕の色が手の形で赤く変色していたのが目に止まり、余程不安だったのだろう───頭を撫で、不安が退くまで寄り添うことにした
「何か目立った動きはありましたか?」
「少し親木の元気がなくなったみたいです」
「分かるんですか?」
「ドリアードなので自然の状態を曖昧ですが
認識することができるのです」
「それは心強い」
いくらか手間が省けそうだ
◆【作戦を伝える】
『これはまた思い切ったことをするな』
「それノルちゃんは大丈夫、です?」
「勿論、完全に大丈夫とは言えませんが
何とかしますよ」
【陽光】と【水玉】で2人のケアをして、頭を下げる
「そのためにはお二人の御助力が必要不可欠です
どうか僕の我儘に付き合っていただけませんか」
『無論そのつもりだ』
「頼んだのはわたしですノルちゃん
できることなら、何でもします」
「ありがとうございます」
◆【体内時計で昼になった】
迷宮に入っている間に日の半分が過ぎた。手持ちの食料の内1日分のものを取り出し、半分を食する───家の作り置きと同じもの、アリスや母さんも同じものを食べてくれているだろうか
「…よし」
食事を済ませて立ち上がる。ここからが大変になるぞ
◆【ひとつ目の誤算】
ドリアードさんのおかげで想定よりも簡単に『銀狼』の群れを探し出すことができた───森の中を駆け回る手間が省けたのは良いことだった
「んじゃ、次は」
【創作】で【サボり】〈仕事や行動を阻害するスキル〉を『作り』無作為に『ゴールデンホーネット』に【付与】した───【統率】された群体は『リーダー個体』に従い続ける特性があるのだが、師匠曰く『それが強みでもあり、弱みでもある』とのことだった
【563】言葉通り、非常に少ないLPでこれを【付与】できた。空を埋め尽くす個体の中から『3匹』が群れを離れ始め『単独行動』を始めた───地面に止まり、羽を休めていた『これ』を追って切り伏せた
『ノル!』
「ノルちゃん!」
【1563】───脳天から直剣が入り、そのまま真下にすり抜けるように両断できた。全身に駆け巡る熱が長い間引くことはなく、落ち着くまでに時間が掛かった。まるで『立ちくらみ』を起こした時の様な感覚だった
「大丈夫、です」
凄いな。気持ちがいいのに逆に気持ち悪い───全身運動なのだから当然だが、この感覚は『黄金スライム』や『デッドリーパー』の時と同じだ
【付与】できた数は3匹───それを倒せればまだレベルは上げられそうだ。解体は後でするとして、残る2体を探し出さなければならなかった
◆【2163】
2匹目を倒した時、頭が浮遊感を受けた───『全能感』。いつぞや感じたあの感覚に陥いる。この状態の利点は『大胆』な行動に躊躇がなくなる点だ
思考が『単純』ながら『合理性』を帯びる状態になる。今は非常に助かる代物だ
『むっ…』
そして、3匹目を見つけた時───それは既に『銀狼』の群れによって捕食されていた
「ノルちゃん…」
「大丈夫ですよ。想定の範囲内です」
LPのことを考えれば惜しいがこの後のことを考えればこれは望んでいた出来事だ───見るに辛勝と言った様子だ。全身が傷だらけ、恐らく口内もそうであろう
程なくして、群れの配下が【痺毒】を受けて『痙攣』を始めた───【痺毒】を持っていたものをそのまま食べれば、どうなるか。想像に容易いだろう
◆【創作】
【状態異常回復C】『逆引き』
〈『状態異常』を相殺する魔弾を撃ち出す
当たった対象の『状態異常』を解除する〉
【600】
◆【1563】
一歩踏み出せば銀狼のリーダーがこちらに牙を剥き出しにした『威嚇』を始めた。このまま近づけば間違いなく噛みつかれることだろう
「虎丸さん、お願いします」
銀狼のリーダーがこちらに敵意を剥き出しにしている。虎丸さんに『これ』を制して貰い、僕は『配下の銀狼』に近づき『治療』を始めた───【状態異常回復】【治癒】【浄化】で『治療』する
「…もう大丈夫」
◆【1163】
師匠曰く『耐性の獲得』には『対象となる状態異常』を受けていた過去、もしくは受けている状態によって獲得し易さが変化するのだとか───【麻痺耐性】を併せて【付与】していくと『友好関係の構築』に役立った
群れ全体の『警戒心』はかなり弱くなり、頭を擦り付けて尻尾を振ってくれる様になった
「虎丸さん、ありがとうございます」
牽制してくれていた虎丸さんが『銀狼のリーダー』から離れた
後は蜂を解体して『ゴールデンホーネットの素材』以外は特に必要ないので可食部を残してその場を後にした───これで少なくとも『敵』としては見られることはなくなるだろう
◆【統率者の確認】
「ドリアードさん、今から共有する特徴の
ゴールデンホーネットの位置を僕に
教えてください」
「はい、教えちゃいます」
迷彩柄で『隠密』をし【1113】火炎を扇状に放つ【スキル】───【火扇】で虫への牽制を掛ける
レベル差があるため『有効打』にはならなかったが目的は『それ』ではない───騒ぎを立てれば、群れの統率が少しばかり緩み、それを諌めるべく『目標』が行動を移すはずだ
「ノルちゃん!1匹だけ、微動だにしない
ゴールデンホーネットが居ました」
「よし!」
師匠が言った通りだ─── 大将首の炙り出し方。俯瞰する位置でこれの対処に必ず当たる個体がいるのだと【1118】
「更地と木々の境目に」
「見えない…」
しかし問題が起きた【鑑定眼】が届く位置にそいつは居なかった───【付与】を使うにも、まだ確定ではない以上下手に使うか、憚られた
『乗れ!』
◆【射程範囲内へ】
平地の時も去ることながら、まさか木登りまでも速いとは───景色が線となる程の速さで虎丸さんが駆けつけてくれ、そのまま上空でそれを捉えた
そいつは他の『ゴールデンホーネット』と比べ、幾らか丸い形をしていたが放つ『威圧感』は比ではなかった
◆【鑑定眼】
名前:ゴールデンビー
レベル:263
スキル:【魔力吸収】【高速飛行】
【激毒化】【統率】【巨大化】
【斬撃耐性B】【打撃耐性C】【刺突耐性C】
状態:健康
◆【想像以上に強い】
「…目立ってるねぇ、随分と」
各種『物理耐性』が完備、しかも巨大化に加えて───機動力を補助する『高速移動系』はかなり厄介に思える。しかし、正面切ってやる意味はないので『作戦通り』に【標的】を【付与】した
これでお前は確実に終わりだ
◆【888】
地面に着地し、即行で退避に移る。必死になって走っていると無性に笑いが込み上げてきた───手に入れたLPをかなり使った
この後のことを思うとかなり安く済んだのではないかと、上手くいったことなどを考えると無論笑えることは多々ある
しかし、この笑いに関してだけは『意味もなく』『理由もなく』───ただただ笑えて仕方がなかった




