81/86
81、兎⑩
目覚めたら、思いがけない人が自分を見つめていた。
「わっ!」
「おお、お目覚めですか」
ご先祖様は、三日間兎の所へ通い続けた。そして、突然の山羊先生の訪問。何か、良からぬ予感がする。
「勝手ですが、お茶でも淹れましょうか」
「うん、お願いするかな」
山羊先生がお茶を淹れている間、ご先祖様はふとんをたたみ、様子を整えた。
対面する二人の間には、湯気の立つ湯飲みが置かれた。
「兎から、伝言をたのまれました」
「……」
愉快な話しではなさそうだ。
「兎に、お礼を言っておいてと頼まれました。『たぶん、受胎できたと思います』と、言ってました」
「それで、兎は?」
「兎は、身一つで『受胎告知センター』に行きました」
「受胎告知センター?」
「ああ、受胎告知センターとは、妊娠、出産、子育てを一括して支援する施設です」
「そうなの」
「旧世界とは違うみたいですね」
「うん、かなり違う。何か、いいのか、悪いのか分からない」
「新人のシステムの方が、合理的と思いますが」
「う~ん」
ご先祖様には、何か釈然としないものが残っていた。新人たちは欲望に恬淡とし過ぎるように見える。ご先祖様は、裡に火を付けられた性欲が燃え盛っていた。この業欲を、どうすればいいというのだ。
「おお、精神安定剤を置いてきます」
山羊先生は、分っていたようだった。




