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人の行方  作者: 森三治郎
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79/86

79、兎⑧


「へへへへ……」


ご先祖様の手が、何かを捕らえるがごとくソロ~と接近してきた。ご先祖様の顔がたらしなくニヤけて、今にもヨダレを垂らしそうだ。


「親鸞さま、何かいやらしいな~」


「いや悪い、つい……ふふふ……」


何やかや言ううち、ご先祖様の手が兎のセーラー服にとりついた。ご先祖様の手は、セーラー服をまさぐっている。何やら脱がそうと意図しているらしいが、うまく行かない。兎はそれを察すると、上半身を起こして座ったままの状態で、パパパッとセーラー服を脱ぎ、ついでスカートも脱いでしまった。

ご先祖様は唖然とした。そして、微かだが落胆の色を見せた。少なくとも、兎はそう感じた。


「着てた方がいいの?」


「いや、うん……」


ご先祖様は曖昧にうなづいた。すると、なんと兎はたった今脱いたばかりのセーラー服を、パパッと着てしまった。ご先祖様は、兎の無邪気とも思える過剰な反応に面食らった。……が、気を取り直して、又、セーラー服を脱がしにかかった。


「……」


兎は訝った。この人は、いったい何をしようとしているのか?。不器用なくせして、私の服を脱がせてあげようというのか。自分で脱いだ方が、よっぽど早いし合理的だ。この親鸞さんは、どうもオカシイ。


「親鸞さま、あなたクッセツしてやしない……」


「⁉……」


ご先祖様の動きが止まった。

ご先祖様は、自分こそノーマルだと信じて疑わなかった。それなのに、それが、あろうことか、即物的な、ドライな、情緒とは無縁とも思える新人兎に、クッセツしていると言われてしまった。

ご先祖様は、固まってしまった。ご先祖様は、ミテクレよりかなりデリケートだった。

『どうしたんだろう』と、兎がそろ~とご先祖様の顔を窺った。

少しふっくらとした頬が丸い顔が、ちょっと上向きかげんの鼻と、よく澄んで活発に動く目がいつの間にかご先祖様の下にあった。それを見てご先祖様は『どうも、兎にはかなわないな……』と思った。どんな無頓着なことを言われても、どんな無神経なことをいわれても、そのアッケラカンとした無邪気な顔をみると、怒れなくなってしまう。兎は天女なのか、いや、やっぱり観音様なのか……。

ご先祖様は、まじまじと兎を見た。しどけなくというほど色っぽくは無いが、セーラー服がちょっとズレている。。


「観音様、あなたの方こそ、ちょっと、ズレていやしませんか」


兎の目が、クリッと動いた。


「んふっ、私がズレてる。……あはっ、親鸞様はクッセツしている。ズレた観音様とクッセツしてる親鸞様さまなら、ちょうどお似合いじゃない」


「いや、それもそうだな、ははは……」


ご先祖様は笑いながらも、『果たして、大丈夫なんだろうか、うまく行くのだろうか』と心配になってきた。


イワガラミ


挿絵(By みてみん)


イワガラミです。

文字通り、岩に絡みつくように成長します。

これは、3年前道路の石垣に絡みつくイワガラミの一枝を、むしり取って鉢植えにしたものです。

気根が出ていたので「これは、簡単に根付くな」と思ったら、案の定、簡単に根付きました。

今年、花が咲いたのは、想定外です。(^^)

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