79、兎⑧
「へへへへ……」
ご先祖様の手が、何かを捕らえるがごとくソロ~と接近してきた。ご先祖様の顔がたらしなくニヤけて、今にもヨダレを垂らしそうだ。
「親鸞さま、何かいやらしいな~」
「いや悪い、つい……ふふふ……」
何やかや言ううち、ご先祖様の手が兎のセーラー服にとりついた。ご先祖様の手は、セーラー服をまさぐっている。何やら脱がそうと意図しているらしいが、うまく行かない。兎はそれを察すると、上半身を起こして座ったままの状態で、パパパッとセーラー服を脱ぎ、ついでスカートも脱いでしまった。
ご先祖様は唖然とした。そして、微かだが落胆の色を見せた。少なくとも、兎はそう感じた。
「着てた方がいいの?」
「いや、うん……」
ご先祖様は曖昧にうなづいた。すると、なんと兎はたった今脱いたばかりのセーラー服を、パパッと着てしまった。ご先祖様は、兎の無邪気とも思える過剰な反応に面食らった。……が、気を取り直して、又、セーラー服を脱がしにかかった。
「……」
兎は訝った。この人は、いったい何をしようとしているのか?。不器用なくせして、私の服を脱がせてあげようというのか。自分で脱いだ方が、よっぽど早いし合理的だ。この親鸞さんは、どうもオカシイ。
「親鸞さま、あなたクッセツしてやしない……」
「⁉……」
ご先祖様の動きが止まった。
ご先祖様は、自分こそノーマルだと信じて疑わなかった。それなのに、それが、あろうことか、即物的な、ドライな、情緒とは無縁とも思える新人兎に、クッセツしていると言われてしまった。
ご先祖様は、固まってしまった。ご先祖様は、ミテクレよりかなりデリケートだった。
『どうしたんだろう』と、兎がそろ~とご先祖様の顔を窺った。
少しふっくらとした頬が丸い顔が、ちょっと上向きかげんの鼻と、よく澄んで活発に動く目がいつの間にかご先祖様の下にあった。それを見てご先祖様は『どうも、兎にはかなわないな……』と思った。どんな無頓着なことを言われても、どんな無神経なことをいわれても、そのアッケラカンとした無邪気な顔をみると、怒れなくなってしまう。兎は天女なのか、いや、やっぱり観音様なのか……。
ご先祖様は、まじまじと兎を見た。しどけなくというほど色っぽくは無いが、セーラー服がちょっとズレている。。
「観音様、あなたの方こそ、ちょっと、ズレていやしませんか」
兎の目が、クリッと動いた。
「んふっ、私がズレてる。……あはっ、親鸞様はクッセツしている。ズレた観音様とクッセツしてる親鸞様さまなら、ちょうどお似合いじゃない」
「いや、それもそうだな、ははは……」
ご先祖様は笑いながらも、『果たして、大丈夫なんだろうか、うまく行くのだろうか』と心配になってきた。




