76、兎⑤
次の日の夜になって、ご先祖様は約束通り兎を訪ねた。
兎はご先祖様の願い通り、セーラー服を着て出迎えてくれた。
「いらっしゃあい~。お待ちしてました~」
「あわ……」
ご先祖様は、少しばかり期待外れの感が否めない。そう少し『色っぽさ』が欲しかったのに、これでは、お姉さんのセーラー服を着てるオマセな小学生だ。服はブカブカで、スカートがロングスカートになってしまっている。
『これじゃロリコン好みのヘンタイオジさんじゃないか』と、ご先祖様の思惑は外れてしまったようだ。
ご先祖様は気を取り直して、持参した物を差し出した。
「これ、俺のところで獲れたウリなんだけど、良かったら……」
「わあ、ありがとう。いただくわ」
兎は、テキパキとご先祖様を招じ入れた。
入った部屋はどうやら居間、兼応接室らしく、カウンターの向こうにはキッチンが見えた。ソファーがあり、低いテーブルがあって、その上にシブい平鉢に植えられた『ヤブコウジ』が置かれてあった。ヒョロヒョロと細く伸びた針金のような幹の先端に、五から六枚の緑の葉がついている。
その内の何本かは、小さな赤い実をつけていた。小さな椰子のよう……。簡素で素朴な味わいがあり、けっこう良い趣味だ。清しい風情がある。
少しジジくさくはあるが、ゆかしい趣のもてなし心が感じられた。ご先祖様は、兎を見直した。
「こういう事は、ムードが大切なのよね」
兎は、なにやら分かったふうなことを言って、かいがいしく飲み物を運んできた。
「はい、お飲み物」
「うん」
なんか、オママゴトのホステス遊びのようでもある。それに、出て来たのがコブ茶だった。これでは、ムードもへったくれもあるまい。
『何か気の利いた飲み物を、持ってくるんだった』と、ご先祖様は飲み物まで配慮しなかったことを、少しばかり後悔した。
コブ茶は、オママゴトのように甘~くメルヘンチックではないシブい現実の味がした。なんか、ものすごいミスマッチのような気がする。『大丈夫なんだろうか』と、ご先祖様は先行きが心配になった。
ご先祖様は、改めてこの部屋を見渡した。先ほど、この部屋に招かれた時に感じた『シンプルだな~』との印象をまた新にした。
部屋の一面に窓、一面が壁、その他一面全部がキャビネットと出入り口のドア、そしてカウンターの向こうにキッチンとドアも見える。床は木のフロアー材らしい。
部屋の中は、ソファ、テーブル、そしてヤブコウジ……。全然、女の子の部屋らしくない。
例えば、ヌイグルミがあったり、アイドルのポスターとか、写真立てとか、ドレッサー、手鏡、ワケが分からないけど化粧品の類、読みかけの詩集とか、フリルの付いたテーブルクロス、秘密めいた香りのするスカート、しまい忘れた怪しげな下着とか、かわいいお人形、しゃれた置物。秘密の宝石箱……。
そんなに、ゴタしてるのも困りものだけど、こうシンプル過ぎるのもちょっとさびしい。




