70、モモンガ②
「まっ、何はともあれ入って」
ご先祖様は、モモ先生に続いて住まいに入った。入ると土間があった。
ずう~と、どこまでも土間だった。真ん中に粗末なテーブルがあり、今にも壊れそうなイスがある。ご先祖様が躊躇していると、モモ先生は壁にはね上げてあったベットを倒し、折りたたまれてあった脚をセットした。上に乗っていたふとんやマクラを収納庫に片付けると、畳一枚分のイスになった。
次にモモ先生は、台所で何事かガサガサ、ゴトゴトやり出した。しばし待つうちお茶が出てきて、トンとお茶うけも出された。何やら、アメ色をした不思議な物体が皿の上にある。ウリのような、瓢箪の出来損ないみたいな物が、輪切りにされてあった。
「いただきます」
ご先祖様は、一切口に入れてみた。少し酸味のある、甘いのかしょっぱいのか分からない不思議な味がした。
「これは何ですか」
「キューリの古漬けだ」
「これが……キューリ?」
なるほど、良く見ればキューリだ。しかし、そのキューリは尻の部分が楕円形にラグビーボールのように膨れていて、そのにイボのついた曲がった細い茎が先端から伸びていた。
モモ先生は、野菜作りの専門家と聞いたが……。
「これは、新種のキューリなんですか?」
「んや、ただのキューリだ。それはね、山どりのキューリなんだ。ちゃんとした畑で作ったやつじゃなく、実験で山に種を播いてみた。そしたら、そんな風な物が出来ちゃったんだよ」
「はあ、そうですか」
「種を土にくるんでダンゴ状にした物を、山とか土手とか空き地にバラバラと播くんだ。そうすっと、自分で勝手に芽が出て育つ。成ったら採ってくる。手間要らず、空き地利用と一石二鳥だ」
「はぁ」
「だけど、やっぱり、そういうやり方に向くやつと向かないやつがあんな。カボチャなんか、もともと土手っカボチャというぐらいだから、良く出来る。いろいろ試してんだが、トマトとかキューリとかパッとしないな~」
「あの~、俺、普通の畑で、普通に耕して、普通に種まいて、普通に野菜など作ってみたいと思ってるんだけど」
「あっ、そうが……」
モモ先生は、何か思い直したふうだった。
モモ先生は、ご先祖様に普通の野菜作りの指導を始めた。ここは余るほど土地も耕地もふんだんにある。
夏野菜や果物類、トマト、キューリ、ナスなどの植え付けから始まった。
モモ先生の実地指導は、適切だった。かなりの人数を指導してきた経験者らしく、ソツがなく上手だった。
「ご先祖様はスジがいい」
言葉づかいが乱暴なわりに、人を持ち上げるも上手かった。
これで、ご先祖様のここでの生計の道筋のようなものが、少しずつ築かれていった。




