69、モモンガ①
結局、ご先祖様は木師の扶養に甘えることになった。
五月の始め、田植えが一段落してしまうとご先祖様はヒマになった。ヤマさんに「野菜づくりもやってみたい」と言うと、自分の先生のモモンガを推薦してくれた。
ご先祖様は、さっそくモモ先生を訪ねることにした。
モモ先生の居所は、ここのやや北方の中ほどの位置にあった。
「大きなヒマラヤ杉があるから」と目標に向かうと、……あった。さして大きくもない庭に巨大なヒマラヤ杉が真ん中に居座っている。自分の重みで下垂した枝が、怪物が手を広げたように威圧的だ。怪物の手をすり抜けて後ろに回り込むと、古びた物置風の建物と、ヤケに窓の小さい無愛想な感じの新しい住宅があった。
「ご先祖様だな」
「どうも……」
物置から老けた少女が出て来た。遠目には少女だが、良く見ると半白髪で顔にもそれなりのシワがあっ
た。妙に不思議な気品があった。
「まっ、入ったら良かんべ」
気品が、いっぺんにガラガラと音を立てて崩れてしまった。言葉が、エラくいなかっぺ風だ。そのモモ先生が、物置に入っていった。
「こちらが住まい何ですか?」
「そだ、良く間違えられるんだ。時々、真っすぐ物置に向かって『こんにちは~』なんて言ってるバカがいる。こっちが住宅、あっちが物置」
「いや……」
それにしても、ここの奴らはミテクレとか体裁とか、どう考えているのか。
「それにしても、ここの人たちの住まいは皆オンボ……、質素ですねぇ、だいたい馬親方は仕事しているんですかね」
「家なんて、雨露を凌げればいいんだ」
モモ先生の答えは、しごく簡単明瞭だった。おそらく他の連中も似たり寄ったりなんだろう。
「それより、私しゃご先祖様に聞いてみたがったんだが……。旧人は、何であれだけ好戦的性格をしていたのに、何で蜂の巣のようなアパートとかマンションに犇めき合って暮らすんだい。何で、わざわざ『火中の栗』になる必要があるんだ。そこんとこ、どうなっているんだ」
「いや、旧人だって好きこのんで、犇めき合って暮らしてたワケじゃないですよ。できれば、土地付きの一戸建てに住みたいと誰もが考えていた。しかし、それを許さない事情があったんだ。例えば経済的な事、地理的な事、インフラの事情、人口密度の問題、社会的な事情……それ等は俺より木師の方が詳しい。もっと詳しく知りたいんなら、木師に聞いてくれないかな」
俺は、木師に丸投げした。
「うん、そうしよう」
モモ先生は、意外にアッケラカンとしていて、幸いにもそれ以上深く追求しなかった。




