67、ホエザル②
「それは……余りに酷い。やり過ぎではないか……」
ホエザルは、無表情のままだった。
ご先祖様はホエザルの冷たい顔を見て、背筋が寒くなるのを覚えた。ここの刑法の余りな苛烈さ、過酷なほどの厳罰に疑問を持った。
「俺はこの前木師から、ここの新人たちの親子関係が希薄であると聞かされた。それぞれが独立した存在だと……しかし、ここでは子の罪を親が、親の罪を子が補うという。オカしいのではないか、親と子は独立した存在ではないのか」
「……なるほど、確かに私らの親子関係は希薄かもしれません。しかし、希薄とはいっても、ここではやはり親と子が一番近い人間関係なんですよ。特に、母と子の関係はその人の生い立ちや性格に強く関与しますから……。それより、私には旧人の親子関係の方が分かりません。あれほど、べったりとモタレ合った濃厚な関係を保ちながら、罰となると独立した存在になるんですか?。
何か、手前勝手なムシの良い解釈のような気がしますが。それに、ここでは評議会を開くのは、原則として被害者もしくは被害者の遺族からの申告となっております。
つまり、ここでの裁判は被害者本位の考えから成り立っているんです」
「いや……しかし、人間は多少の間違いや無知からの過失は、当然あるのではないか。人間は完璧ではないのだから。失敗を重ねながら、試行錯誤しながら成長するのではないのか。それを、一度の失敗で立ち直れないほどの厳罰を科すのでは……余りにも、人間性を無視したやり方だ。『罪を憎んで、人を憎まず』ということもある」
「あはははは……これは又、古典的な」
ホエザルは、大口を開けて笑った。
「古典的……?」
「いや、失礼しました。でも、ご先祖様の考えには同意出来ません。罪と罰は、一緒であるべきです。分離すべきではない。罪があるなら、罰は一緒にあるべきです。
分けて考えるなど、ムシが良すぎます。ご先祖様の考えは、大昔の考えですよ」
「俺の考えが古すぎる……?」
「そうです。ご先祖様だって、中世の神とか仏とかが本気で信じられていた時代の考えを、悪いことをすれば地獄に堕ちて罰を受けるといったことを、そのままご先祖様の時代の法律に持ち込んで適用するとなったら、時代錯誤と思われるでしょう。
それと同じです。ご先祖様の考えは、旧世界の古典的な思想です」
「そんな……」
ご先祖様は、考え込んでしまった。
「それより、旧人は刑罰をどう考えていたのでしょう。私には、旧人の犯罪者に対する刑罰が余りにも軽いような気がするのですが。軽すぎると思います……犯罪者に対して。
だいいち犯罪者というものは、決まりを無視して安直な方法で物事の快や金品を得ようと計る人間です。人間一度その短絡的な味をしめると、何度でも同じことを繰り返すものです。
いくら罰を受けて改悛しても、同じシチュエーションの出会うと、また同じ道筋を辿って同じ犯罪を犯します。旧世界では犯罪者の矯正とか再教育とかいっての刑罰ですが、一度憶えた甘い味は決して忘れることはありません。多くの者は、次はもっと上手くやろう、もっと利口のなろうと思うだけです。旧世界での重大殺人犯の多くが、以前に何らかの犯罪歴があった者ばかりです。つまり、刑務所に入れての矯正とか再教育は何の効果もなかった。
次はもっと巧妙に、もっと凶悪にとなっただけだった」
「う~ん」
ご先祖様は、ホエザルの言うことが正しいと思えてきた。




