66、ホエザル①
ご先祖様の米作りは、かなり試行錯誤の連続だった。意外と難しかったのが、田んぼを平らに均すことで、始めは何度も手直ししてドンドンぬかるみを深くし、余計ヒドイ状態にしてしまった。
「完璧にしなくても良いんだ。八分の出来でいい」
ヤマさんは、そう注意した。
田植えも意外に難しく、田植え機械に備わっているガイドを見ながら植えたはずが、後から振り返って見るとくねくねと曲がりくねっていた。
イネの列が、膨らんだり狭まったりしている。苗が詰まっているのを気づかずに、かなり走ってようやく気付いたこともあった。その部分は、空白となって残ってしまっている。
植えた後は、『シロウトの仕事だな……』というのが見てとれた。恥ずかしいことに、そのままの形で成長して行くのだろう。
四月末に田植えが一段落した夜、検裁官ホエザルと名乗る新人がご先祖様の居室を訪ねて来た。
田植えが終わるのを待っていたような、タイミングの良さだった。
「評議会の結果をお知らせします」
「……」
「先日の会食において、ご先祖様には器物損壊と障害未遂の嫌疑がかけれました。
……が、いずれも訴訟人が出ないので無罪とします。
ただし、嫌疑調査費用四百円はご先祖様の負担です。器物の修理費と購入費は、木師が負担すると言ってました。以上です」
「四百円……木師が……」
四百円が、高いのか安いのか判らない。そもそも、このホエザルなる恐ろしげな名の検裁官が、何者か分からない。やや冷たい印象がある端正な顔立ちの、妙に慇懃な男だ。
ご先祖様は、説明を求めた。
それによると、ここの裁判システムが旧世界とは、まったく違っていることが分かった。犯罪者に対し、とてつもなく厳しい罰則のある制度となっている。
例えば、詐欺とか窃盗をした場合、犯人は不正に得た物品に見合った額の弁済は無論のこと、その捜査に掛かった費用や裁判の経費やら被害者への損害金や慰謝料やらを全て負担しなければならない。本人に負担能力の無い場合は、親や子らの三親等が負担することになる。それでも不足の場合は、その先の親戚が一定の割合で負担することになる。
殺人などの重大犯の場合は、原則として死刑。家財没収は当然で、足りない費用は犯人に近い親族から順に負担することになる。
しかも、複数の人間を殺したなら、複数回の死刑が処せられるという。
死亡させて、後、蘇生させる。その後、また同じ死刑を殺人の人数ぶん繰り返す。人数を満たさずに蘇生しなかった場合とか、廃人になった場合は、これも親や子で補われるという。
「そんな……」
ご先祖様は絶句した。




