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人の行方  作者: 森三治郎
65/86

65、バイク③


色が浅黒くゴツゴツした感じで、麦わら帽子をとると五分刈りの坊主頭が出て来た。

何となく、ジャガイモを連想させる。


「……で、用件は?」


「ジャガイモ……じゃなくて、いや、今朝食べたトマトがすごく旨かったんで、誰が作ったが知りたくなったんだ。出来たら、自分で作ってみたい」


「……で、ご先祖様は農業をやったことがあるのかな」


ヤマアラシは、火箸(ひばし)で囲炉裏(いろり)の灰をかきならしながら聞いてきた。


「さあ、自分でも良く分からない」


「ただの気まぐれか……」


バシッと火箸が鳴った。


「米作りは、一年を通じて仕事だ。人間の生きる基本だ。野菜作りだって同じだ。ただの思いつきや気まぐれで、やれるもんじゃない。そんないい加減な気持ちで来られたんでは迷惑だ。こう見えても、私しゃ忙しいんだ。帰ってくれ」


ヤマアラシは怒気を発した。短気な性格らしい。


「いや、待ってくれ。俺の言い方が足りなかった。俺は、そんないい加減な気持ちじゃないつもりなんだ。じつは……」


「ん、で……」


「じつは、以前ビデオでふるさとの情景を観たことがあった。俺は知っての通り、記憶を失くしている。しかし、ふるさとの情景はどこかで見たような気がするんだ。俺の父や母は、農業をやっていた気がする。胸が痛くなった。涙が溢れて、止まらくなってしまった。ふるさとの父や母は、どうしていたのか……。

いや、木師に『何か仕事をしろ』と言われた時、真っ先に思い浮かんだのが農業だった。ただ、まったく自信がない。父や母は農業をしていたらしいが、俺はやらなかった気がする。

でも、生まれ変わったんなら、今度はここで農業から始めてみたい。

何とか、教えてもらえないものだろうか」


ご先祖様は、この年齢の判然としないヤマアラシを必死の思いでカキ口説いた。


「そういう事なら、ワシとしても、……やぶさかではないな。でも、米作りは一年を通じての仕事だ。

今日、明日やって、すぐ結果がでるもんじゃない。それに、天候にも影響される。一生懸命仕事をしても、必ずしもいい結果が出るとは限らない。気の長い、ジミチで根気のいる作業の連続だ。

それと、忙しいのは農繁期(のうはんき)の一時期だけで、その時期はネコの手を借りたいほど忙し

いんだけど、それが過ぎるとヒマだ。大してやること無いよ」


「いや、それじゃ今が忙しいんですか。ネコの手を借りるんですか」


「いや、ここのネコは使い物にならん」


ヤマアラシは苦笑した。


「だったら、手伝いますよ。その後は、その時になって考えます。ね、どうでしょ

う」

ヤマアラシは、しばし火箸で灰を掻き馴らしていた。


「こうしよう。ワシが、ご先祖様に田んぼを貸そう。ご先祖様は、自分で米作りをやってみるといい。

もちろん、ワシが教えるし手伝いもする。お互い手助けしよう。

それで、ご先祖様は田んぼを自分で責任を持って管理し育てるんだ。うまく行けば、米が獲れるし、失敗すれば借金が残る。どうだい」


「いや、そうしてくれるなら、願ってもないことです。ありがとうございます。先生、よろしくお願いします」


ご先祖様は、居住まいを正して両手をついた。


「先生はよしてくれ。ヤマさんでいい。それじゃ、さっそく、その田んぼを見に行こう」


ヤマさんは腰を上げた。気の早い人だ。

二人は連れ立って、田んぼを見に外に出た。しばらく農道を走って、やがてヤマさんのスノボーが止まった。


「ここだ、二ヘクタールある。この一画をご先祖様に貸そう」


目の前には、かなりの広さの田んぼが広がっていた。


「いや、こんなに広いの……大丈夫かな……」


「大丈夫だよ。狭くては趣味とか園芸の範囲内だし、広すぎては管理が難しいだろう。この辺が、やり応えがあって丁度いい。やり方は昔と変わらん。まずアラクレ、つまり田んぼを耕す。それから、水を張って苗代づくりだ。つまり、また耕しながらナラす。この時、なるべく平になるようにやる。そしたら、土の落ち着くのを待って田植えとなる」


「はい」


「よし、それじゃトラクターだ」


ヤマさんは、クルリときびすを返して走り出した。行動が目まぐるしく早い。

ご先祖様は、急いでヤマさんの後を追った。



山ツツジです。

挿絵(By みてみん)


爽やかな季節になりました。山ツツジが咲いています。



ユキザサです。

挿絵(By みてみん)


道路の縁に咲いてました。

見るのは、珍しいです。花が咲いてなければ、分からなかったと思います。

貴重な野草です。

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