63、バイク①
次の日、ご先祖様はさっそく機械屋のロバを訪ねた。
なぜ機械官でなく、機械屋なのか……。木師によると、役人の身分を保証すると、ろくなことがないそうで必ず利権が生じ、腐敗や堕落、怠慢などが生じるそうだ。
しかし、役人はやっぱり必要である。だから、任期が限定してあり、その上不都合があればいつでも解任されるという。
ともかく、ロバは機械屋であるらしい。
ロバの家は西側の山裾にあって、ご先祖様は木師の家からブラブラ歩いて行った。
ロバの家が小さく見えるが、歩くとけっこうな距離がある。やがて、のどかな田園の向こうに、巨大な山のような廃材らしきものが見えて、その廃材の端っこに廃材と似たような建物が突き出ていた。
近くで見ると、案に違わずバラックのような建物だ。取って付けたような壁面と、取りあえず乗せてあるようなトタン屋根がプラプラしている。
思わず『大丈夫なんだろうか』と、思ってしまう。
その建物は工場と自宅が棟続きとなっていて、内部はかなり広い。けっこう敷地も広く取ってあり、宅地側の一画に長方形の花だんがあって、葉だけになったチュウ―リップやスイセン、ヒヤシンスなんかが植えてある。これから伸びるであろうユリの芽が、何本か見えた。
ロバも、簡単な園芸をしてるらしい。宅地の軒下には、君が代ランが何本か植えられていた。
「こんにちは~。俺、旧人のご先祖様と呼ばれる者です」
どうも、ヘンな具合だ。俺の名前もここの連中に負けず劣らず、ヘンな名前だ。
「は~い」
工場の中から、顔をススで黒く汚した子供が出て来た。真っ黒になった手に、妙な工具を持っている。一瞬、『お父さん、居ないのかね』と聞いてしまいそうになった。
一見して、イタズラ小僧っぽい印象だ。髪はボサボサ、服もところどころほつれて汚れているが、目がキラキラと美しい。好奇心で輝いている。
「ご先祖様ですね。木師から聞いています。バイク、出来てますよ」
「いや、それはありがたい」
言う通り、工場の中にはバイクがあった。その傍らに、もう一人子供がいて何かしている。
「出来た?」
「うん、あとは試運転するだけ」
「あっ、これ猪です。イノシシの猪です。電気系統を見てもらってます」
「じゃあ、エンジンかけてみます」
猪がハンドルをもって、セルを回した。グッ、グッ、グッと何度目かの試みの後、ブォンとエンジンがかかった。ブォン、ブォンと猪がアクセルをふかす。
「やかましいなー!」
それでなくとも、カン高い声をさらにカン高くして、興奮気味に猪が言った。
その時、カシャっと何かが触れて、ブォォォとバイクは猪を引きずりながら走り出した。
「わっ、バカー!」
二人が「あっ!」と言う間もなく、バイクは外に飛び出した。そして、ガシャーンと何かにぶつかる音がした。
急いで外に出てみると、バイクは君が代ランに突っ込んで倒れている。猪は肉厚で硬そうな、針のような先の尖った君が代ランの葉に突き刺さっていた。
「あわ~」
見るからに痛そうだ。モズのはやにえのようになった猪が「う~む」と唸っている。
「救急車だー!」
程なく、パホォ~パフォ~と救急車が来た。救急車といっても、スノボーがカプセル状の物を引っ張っているだけだった。
「大丈夫かな」
「大丈夫でしょ、大したことない」
ロバは何ともアッケラカンとしている。心配する気色もない。
新人たちの特色なのだろうか、何事に対しても態度がサバサバし過ぎているようだ。
ともかく、猪は救急車で運ばれていった。




