60、仕事②
貨車は畑を過ぎ野原を過ぎる。
「こんな、なんの変哲もない所を眺めたって、しょうがないじゃないか」
木師は不満らしい。トロトロ走ることなど、性分が許さないのかもしれない。
新人や木師の運転を見て、ご先祖様は彼らにそんな性分があるのを見た。合理的なのか、それともせっかちなのか、それとも単にスピード狂なのか良く分からない。
「木師は風流を解さないのかー」
「ふむ……」
木師は痛いところを突かれた。
木師は普段から、『新人は、風流というものを解さない』と言っていたのだ。
そうこうしているうち、貨車は赤松林に入った。大きな赤松の古木が、はるかな上空で道路に覆い被さっている。これが、人工の遮蔽物とか建物であったなら、大きく、長くあればあれほど威圧を感じてしまうが、それが樹木や草などだと受ける印象がまったく違ってくる。大地に生える自然物は、高く大きいはど慈愛のふところが深く、広くやさしく包み込まれるような安らぎが増してくる。赤松の天蓋からの木漏れ日は、限りなくやわらかい。
「すばらしい!」
「ふむ、ここの道はいいだろ」
杉林ほどマジメではなく、かといってナラやクヌギ林のごとく雑然としてはいない。
赤松の林は程よい間合いを保って、優雅に美しく伸びやかに、そして逞しく大空へ舞い上がっている。赤松の精のごとき、芳香も漂ってくる。一瞬で通り過ぎるなど、もったいない。
ご先祖様は、こういう所こそ作為でも何でもなく、本当に散策などしてゆっくりと歩きたくなる場所だと思った。
その赤松林を過ぎて、しばらく走って雑木林に入った所で貨車は止まった。
「さあ、着いた」
「へ~」
淡い色の新緑の雑木林の中に、ひっそりと佇むように平屋のツツマシイ家があった。
全体が濃いグレーで、かなりジミだ。別荘みたいなしゃれた華やかな雰囲気が、全然感じられない。ぼんやりしてたら見過ごしてしまいそうに、半ば埋もれるように雑木林に溶け込んでいる。
「ふむ、まあ、上がってくれ」
木師が扉を開けると、中はいきなりニ十畳位の部屋であった。
「ちょっと、散らかっているがな」
「うわ~」
これを、散らかっているというのだろうか。目の前に背もたれの無い長椅子らしき物があり、そこにウズ高く乱雑に本が積み重なっている。その先の低いテーブルは、何かわけの分からない物が山となっている。奥の方には流し台があって、洗いかけの食器がそのままだった。
どうも、ろくな掃除も整頓もしてないらしい。
ご先祖様は、ドアの一画のタタキで戸惑ってしまった。
「まあ、上がれ」
「はあ」
ご先祖様は上がりかけたとたん、石のような物につまずいてよろけた。思わず本の山に手をついたら、山はホコリを立ててバサバサバサッと崩れてしまった。
「おい、散らかさないでくれ」
「あっ、はい」
本が少々崩れたって、たいして変わらないじゃないかとは思ったが、ここは招待された身だから神妙にしなければ……。それにしても木師の美的センスは、いったいどうなっているのか。
この部屋のちらかりようは、どうしたことだ。あの素晴らしくすてきな庭や、神わざかと思えるみごとな盆栽を作ったセンスはどこへいってしまったのか。
これが同一人物の所業とは、ご先祖様にはとても思えなかった。




