49、犬③
兎は何とか打つ手はないかと、木師の所へ相談にやって来た。
たった今、山羊先生の所で「打開策を見つけるのは、難しい」と、言われてきたばかりだった。
「何とかならないのかしら……」
「ふむ、出来ることなら、ワシとしても何とかしてやりたい。しかしな……、山羊先生は何と言っていた?」
「難しいと、それと解決出来るのはご先祖様本人だけだと……」
「ふむ」
木師は腕を組んだ。
「ここに重症の患者が居る。明日をも知れぬ患者だ」
「ふんふん」
「ふむ、明日があるかどうか判らないのは、困ったことだ。悲劇的である。何をやっても空しい。今日これを一生懸命やったとしても、明日自分が死ぬんでは何のために一生懸命やったんだか判らないからな。
そんな虚無感にとり憑かれた人間を、癒すことができるだろうか。何かしらの方法があるだろうか」
「そう、それを知りたいのよ」
兎は、ワラをも縋る思いだった。
「ふむ、効くかどうか判らんが、植物セラピーというものがある。要するに、植物には人の病んだ心を癒す力があるというんだ。例えば、花を見れば心が和むし、若葉を見れば清々しい気分になる。ふむ、それを応用するんだ」
「さすがは木師。エライ!ダテに歳をとってるんじゃないのね。で、どうするの」
兎の顔に、喜色がはしった。
「まっ、そう持ち上げるんじゃない。ふむ、ここに花と盆栽とカイワレ大根があったとする。明日をも知れぬ患者には、どれが相応しいだろうか。
花はどうだろうか。花はどんなにきれいに咲いても、すぐ散ってしまう。花の命は非常に短い。これじゃ、人生は儚いといっているようなもんだ。これは良くない。
では、盆栽はどうか……。盆栽はどんな名品だったにしても、変化はしない。
成長が緩慢であり過ぎて、変化してるように見えない。何も変わらぬ物を見続けては、気も滅入るだろう。これも良くない。さて、カイワレ大根。カイワレ大根は、
成長するのがすごく早い。日に日に成長する。
このカイワレ大根のたくましい成長力を見ていれば、ひょっとして、あるいは、何らかの生きる希望が湧いて来ないとも限らないじゃないか……」
「……」
兎は、ポカンと口を開けたままだった。
ハッと気付くと
「バカな!何て悠長なことを、この唐変木!」
と、罵声を浴びせ席を蹴った。この切迫した事態に、木師ののんきな植物セラピーを聞かされたことに無性に腹が立ったのだ。
ご先祖様は、犬に連れられて散歩に出ていた。足もとはフラフラと少々おぼつかないが、春の陽射しがうららかで心地よい。農道の土手には、春の野草が一斉に萌え出し、花を咲かせている。
遠くに見える山々は、新芽の綿毛で白っぽく煙っていた。サクラの花が、白っぽく咲いているのが見える。クリーム色っぽいのは、木蓮の花らしい。
犬は「ご先祖様、これツクシが……」「レンゲ草が」「クローバーが」「タンポポが」と摘み取っては、ご先祖様に手渡していた。まるっきり無邪気な子供だ。その方が、よっぽど良く似合う。
ヘンに「僕は、警官です」と気張っているより、よほど自然だとご先祖様は思っていた。




