九話 思いがけない再会
日曜の夜。
充希は怜を迎えに駅へ向かっていた。
金曜の放課後、瀬能に告白され、唇が触れそうになったあの瞬間。
週末は顔を合わせずに済んだことで、どうにか心を落ち着けようとしていた。
けれど――今日から従兄弟の怜が来る。少し浮き立ちながらも、胸の奥には説明できないざわめきが残っていた。
改札から人波が吐き出される。その中に、ひときわ目を引く長身の姿。
黒のスーツに就活バッグ。
色素の薄い髪は照明を受けて淡く光り、抜けるように白い肌は人混みの中でも鮮やかに映えている。
ちらちらと周囲からの視線を浴びても、怜はどこ吹く風で笑顔を浮かべていた。
「怜っ!」
駆け寄ると、怜は少し驚いて、すぐに目を細める。
「おいおい……わざわざ迎えに来なくてもよかったのに」
「いいんだよ! 早く会いたかったから!」
「……そっか」
久しぶりに交わすやり取り。懐かしさと安堵に、充希の胸は温かくなった。
二人並んで歩き出した、そのときだった。
駅前の塾から人影が出てきた。制服姿、教科書の詰まった鞄、眼鏡を押し上げる仕草。
「……っ!」
瀬能孝司。
心臓が跳ね、金曜の記憶が鮮烈に蘇る。裸眼の瞳、吐息、触れそうだった唇――。
「園田?」
真っ直ぐに呼ばれ、充希は反射的に怜の背中に隠れた。
「充希?」怜が怪訝そうに振り返る。「友達か?」
「そ、そう! クラスメイト!」
慌てて言い繕ったが、瀬能は一歩前に出ると落ち着いた声で言い放った。
「……ただのクラスメイトじゃない」
一瞬の沈黙。
「付き合ってる」
「えっ」怜が素で声を漏らす。
口元に笑みを浮かべ直したが、その指先は就活バッグの持ち手をきゅっと握り込んでいた。
「ちょっ、ちょちょちょっと待てぇぇぇ!!」
充希は顔を真っ赤にして叫んだ。
「誰が!? いつ!? 俺聞いてねぇし!!!」
「昨日、返事をしたはずだが」
「勝手に成立させるなあああ!!!」
駅前で響き渡るやり取り。周囲の視線も痛い。
怜は二人を交互に見て、呆れながらも、探るように瀬能へ視線を返した。
瀬能もまた、眼鏡越しに怜を真っ直ぐ見返す。冷静さと牽制の混じった沈黙が一瞬交わった。
「……もしかして怒っているのか。試しにキ――」
「やめろぉぉぉ!!!」
慌てて遮った充希は、顔から火が出そうになりながら叫ぶ。
「そ、それ以上は……明日! 学校で!!」
言うなり、怜の手をぐいっと引っ張った。
「帰る!! もう帰るから!!!」
雑踏の中へ逃げ込む充希と怜。
残された瀬能は眼鏡を押し上げ、ただ静かに見送っていた。
引かれながら歩く怜は口を閉ざしていたが、充希にはわかっていた。
――家に帰れば、必ず根掘り葉掘り聞かれる、と。
(最悪だ……なんでよりによって今日……!)
心臓の鼓動は収まらず、耳の奥でやかましく鳴り響いていた。




