表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドムーンと偽りのキス  作者: 華月AKI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

六話 逃げても逃げても

 朝のチャイムが鳴る五分前。

 ざわつく教室の中、誰かが黒板を消し、プリントが回収されていた。


 教室に入った充希は、まず瀬能孝司の姿を確認する。

 席に座り、淡々とノートを開く優等生の横顔。昨日と同じ場所に、昨日と同じ絆創膏が貼られていた。


(……やっば。視界に入っただけで心臓バグる……! いや落ち着け、昨日決めたろ。距離を取れば問題なし!)


 そう自分に言い聞かせて、椅子に突っ伏したその瞬間。


 カタン、と椅子を引く音。顔を上げると、瀬能がプリントの束を片手に立ち上がり、こちらへ歩いてきていた。


「園田、昨日の課題プリント――」


「ご、ごめん! 今、手ぇ離せない!」


 食い気味に叫んで遮る。もちろん両手は机の上で暇を持て余していた。


 その不自然さに、教室が一瞬静まり返る。


「おい園田、どうした朝から」

「委員長に課題聞かれるとか逆に珍しくね?」

「もしかして何かやらかした? 怒らせた?」


「ち、ちげーし! 怒らせてねーし!」


 必死の否定が裏目に出て、クラスの笑いが広がる。

 瀬能は一瞬だけ怪訝そうに充希を見たが、すぐに「そうか。じゃあまた」と淡々と席に戻っていった。


(いやおかしいのお前だろ!? 委員長で頭いいくせに課題聞きに来るとか何!? なんで誰も突っ込まねーんだよ!)


 充希だけが心の中で机を叩き続けていた。


 ◇


 昼休みのチャイムが鳴ると同時に、教室の空気が一気にゆるんだ。

 机を寄せ合って弁当を広げる者、勢いよく廊下に飛び出していく者。ざわめきが廊下まで溢れていく。


「なあ園田、飯どうする? 購買か?」

 いつも一緒にパンを買いに行っている高木だ。

 椅子をがたんと鳴らして立ち上がりながら、充希は首を横に振った。


「いや、今日は食堂!」

「は? お前、滅多に行かねーじゃん」

「いいから高木も来いよ! おごるから!」


 「俺はパンの方がー」と文句を言う高木を強引に引き連れ、めったに行かない学食へ逃亡。


 油の匂いと食器の音に包まれながら、二人は揚げたての唐揚げ定食をかぶりつく。


「……うまっ!」

「だろ? やっぱ揚げ物は正義」


 口いっぱいに頬張りながら、くだらない話題で盛り上がる。

 最近ハマってるスマホゲームの話で「俺のギルド最強だから」「嘘つけ即死してただろ」とか笑い合い、ようやく緊張がほどけてきた。


(よし……ここまで来れば瀬能も近寄ってこねーだろ。これで平和だ……!)


 そう思った矢先。


「……なあ園田」

 高木がじっと顔を覗き込む。

「お前さ、朝から……瀬能のこと避けてね?」


「――っ!」


 箸を落としかけ、水をがぶ飲みする充希。

「そ、そんなことねーし!」


 声が裏返った瞬間。


「園田、食堂とか珍しいな」


 背後から落ち着いた声。振り返れば、トレーを持った瀬能孝司。


「っっっ!?」


 心臓が止まりかける。

 高木は机を叩いて爆笑した。


「お前ホントに避けてただろ!」

「ち、ちげーってば!!」


 慌てて高木の言葉を否定しつつ、瀬能に「な、なんでここに?」と少し引き気味に尋ねる。


「……俺も昼飯を食べに来ただけだが」

「当たり前の理由だった!!」


 これじゃあまるで、自分が自意識過剰な奴みたいだ。周囲の席からも「園田、挙動不審〜!」と冷やかしが飛び、充希は耳まで真っ赤になった。

 隣に腰を下ろす瀬能の存在に、心臓はさらに限界突破しそうだった。


 ◇


 放課後のチャイムが鳴り終わった体育館。

 ボールが床を叩く乾いた音に、部員の掛け声が重なる。


(よし……昼は死ぬかと思ったけど、なんだかんだ乗り切った! あいつに言われた“明日話そう”も、このままスルーでいい!)


 そう思いながら部活に打ち込む。

 バスケットボールが床を叩く乾いた音。部員の掛け声。


 充希はシュート練習に集中しようとしたが、強烈な視線を感じて顔を上げた。

 そのとき――観客席に視線を感じた。


「……っ!」


 眼鏡の奥から静かにこちらを見つめる瀬能孝司の姿が、そこにはあった。


(いやいやいや! なんで!? アイツ帰宅部だろ!?)


 動揺で手元が狂い、パスが味方の顔に直撃した。


「おい園田、集中しろ!」

「委員長がわざわざ応援に来てくれてるからって、そんな照れんなよー」

「ち、ちげーから!!」


 必死に否定するが、顔は熱くなるばかり。

 一方の瀬能は視線を逸らさず、ただ静かにこちらを見つめ続けていた。


(……どう考えてもおかしいのはあっちだろ! なんで誰も瀬能に突っ込まねーんだよ!!)


 充希の理不尽な叫びは、もちろん心の中にしか響かない。


 練習が終わり、部員たちがぞろぞろ帰っていく中――。


「園田」


 瀬能が立ち上がり、体育館の中央に進み出てきた。

 静まり返った空間に、その声がやけに大きく響いた。


 心臓が爆発寸前で、充希は一歩も動けなかった。


「……昨日の続きだ。俺、お前に話がある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ