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第八章 涙の理由

「どけ、3姉妹」

 目を開けると、3つの影がシュンの周りを囲んでいた。セイのうなる声がその向こうから聞こえる。

 「退きませんわ。この人に手を出すことは赦しません」

 「この方をお守りすることが我らの役目」

 「てめぇらも一緒に斬るぞ!!」

 セイが剣を構えなおした。

 「斬るなら斬りなさい!それでもここは退きません」

 ミドリは両手を広げてシュンの前に立った。

 「ミドリ、やめろ」

 シュンは静かに言った。このときばかりは彼女たちは動かなかった。

 「どうして嘘をつくんですか!?シュン様・・・私には痛いほどあなたの気持ちが流れ込んでくる。真実を語ってください!ほんとうのあなたを!!こんな・・・」

 アカネは涙を流し、胸を押さえて叫んだ。

 「こんな気持ちをお1人で、抱えないでください!!あなたは、本当は」

 「言うな」

 静かに言うシュンにアカネは振り返った。

「本当は」

 「言うな!!」

 「きゃぁ!!」

シュンは立ち上がり声を荒げて叫んだ。その衝撃で力が発動し、アカネは広間の壁に打ち付けられた。

 「アカネ!!」

 アカネの倒れこんだ姿を見たまま、シュンは乱れた呼吸を繰り返した。肩が大きく揺れている。

 「シュン、さま」

 腕に力を込めて、ゆっくりと起き上がる彼女の背を老人が支えた。

 「戻したかったのだろう?すべてを」

 「長老さま!!」

 ローズマリアの声に、リオとセイが振り返った。

 「もう一度、父君と母君の幸せな姿を見たかったのだろう?だから父君の理想郷を壊そうとした・・・違うかね」

 長老は優しくアカネの背をさすり、少し前に歩み出てしゃれこうべに頭を垂れた。

 「新王よ、すべての魔族が帰ってきました。みな、前王の死を悼みあなたの即位を待っておいでです。いかがなさいますか」

 長老はゆっくりとした口調でシュンのほうへと身体を向けた。

 「帰ってきたか・・・」

 シュンはミドリとアオイの横を通り抜けて、玉座に向かった。その途中でセイが肩を掴む。

 「どういうことだ」

 「言ったとおりだよ」

 「何を隠してるんだよ!!長老!!」

 シュンの肩を両手で掴み、叫んだ。彼の叫び声と剣が床に落ちる音が重なる。

 「俺を恨め、セイ」

 静かに言った。

 「俺を殺せ。そうすれば全てが終わる」

 目の前にいる少年の目はいつもの瞳だ。見慣れた、穏やかな色をしている。

 「あなたが死ねば、すべての種族が死ぬことになるのだよ」

 長老は静かに、諭すような口調で話しかける。

 「それでもいいのかね」

 シュンはセイの腕をそっと払って、長老に向き直る。

 「俺が守ろうとしたものは、もう何もないんです。長老・・・」

 少しつらそうな表情を隠して、シュンは目を落とした。

 「あなたは新王・・・。守るべきものはたくさんある。全ての種族を、守る義務がある」

 「王になったとて、その治世をどうするかは、王の勝手でしょう。父がそうしたように」

 「俺たちを、殺す気か」

 セイは静かに言った。鋭い目で、シュンをみつめてくる。

 「そうだよ」

 シュンはまっすぐにセイを見て、また静かに言った。

 「滅びてしまえばいい、こんな世界など。・・・魔王など、必要ない」

 窓から流れ込んできた風が、シュンの黒い、滑らかな髪を揺らした。前魔王の身体は、そのまま風に乗って外へと流れていく。シュンは静かにそれを見送った。母の元へ、無事辿り着けるように。もう一度愛し合えるように願いを込めて。

 シュンは黙って、皆の横を通り過ぎていった。扉をくぐり、ディーリーの身体に触れ、それもまた砂となり、風に乗って流れていく。

 「シュン・・・」

 ローズマリアはその後姿に声をかける。彼はほんのすこしだけ顔を横に向けて、また歩き出した。

 誰も動けなかった。彼の後を追うことが、誰にもできなかった。

 「どういうことだよ、長老。俺たちは、あいつの我侭で・・・こんなにもつらい時間を過ごしてきたのかよ」

 セイはひざを折って力なく座り込んだ。わずかに差し込む光が剣に反射して天井を照らした。

 「お前たちの人生は、彼の半分にも達していない。・・・お前たちの経験してきたこと以上に、彼はつらいことを」

 「だからあいつに同情しろっていうのかよ!!」

 そのままの姿勢で顔をあげて長老の言葉をさえぎり、睨む。リオは二人を交互に見て、また長老に目を向けた。

 「俺はそんなに心の広いやつじゃない」

 「では彼に責任を取れと?」

 ミドリが少し冷ややかに口を開いた。

 「彼のことを何も知らないのに、すべての責任を彼に負わすの?」

 「なんだと」

 「それでも彼の仲間だと、言い切るの!!?」

 セイがミドリに掴みかかる前に、ミドリがセイの胸倉を掴んだ。

 「たしかにあの方がしたことはお前たちには許せないことかもしれない。だからって彼を恨み続けるの?あの方だって必死だったのよ!!その辛さがお前たちにわかって!?同情しろとは言わない。けれどあの方を仲間だと、すこしでも思う気持ちがあったなら、それを貫いてみなさいよ!あの方の本当の声を聞きだしなさいよ!!」

 「るせぇ!!あいつがしゃべらねぇんだろ!!あいつが俺たちを信用してねぇんだろうが!!」

 セイも負けじとミドリの胸倉を掴む。至近距離でにらみ合う。

 「仲間だと言うなら、救ってよ・・・、あの子を」

 ミドリの掴んでいる手が震えている。自分には何もできない。そう思うと涙がこぼれた。綺麗に整えていた頬に涙の筋が残る。

 セイはその姿に少なからず驚いた。あの気丈な女が涙を流した。目の前にいる女は、どれほどシュンを愛しているのか、それが手に取るように分かった。

 セイは着物から手を離してミドリから離れた。ミドリもすぐに後ろを向いて目頭を押さえた。

 自分のほうこそ、彼を慕いながら力になることができなかった。自分の無力さをセイに当り散らして情けない、とミドリは思った。

 「我々はシュン様の命には逆らわない。あの方が死を選ぶというなら、我々魔族は皆、それに従う。あとは妖族と、人族の・・・あなたたちの力しだいよ。生きるか、死ぬかは」

 アオイがアカネを支えながら告げて部屋を後にする。ミドリは長老に頭を垂れて、妹たちの後に続いた。

 「だれもが辛い経験をしているのだよ。しかしそればかりを振り返っていては、強くはなれんよ。・・・もう遠い過去だと思うのも、ひとつの生き方だ」

 長老がそう言って、ちらりとローズマリアを見た。彼女は長老が優しい老人だと感じた。静かに微笑んで、踵を返した。

 3人は黙ったまま、視線を合わせることなく、その部屋に佇んでいた。


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